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雇用関係助成金の私見② 前提② 就業規則、解雇”等”

今回はまず雇用関係助成金の話をする前に、申請する以前の段階で労働基準法等で作成保存義務があり、助成金の添付書類書類になっている場合がある書類について以下述べていきたい。なぜまずこれを話すかというと、これらの書類の添付は大抵必須でありこれらの書類の作成をおろそかにすると助成金の中身をいくら勉強し申請の際に気を配ってもこの書類のせいでアウトになる可能性があるからである。

就業規則

常用労働者10人以上の事業場では作成義務がある会社の規則である。就業規則なんて知らない、保存していない、届け出もしていない、届け出たがその証拠も持っていない場合はその時点でアウトである。
尚10人未満の場合は作成義務がないが、助成金に関して言えば提出が要求される場合があるので作っておくことを考えたほうがいい。それにいざ申請した後に10人以上になっていたのに気づかなかった、労基署に届けてなかった、となったらそこでアウトになる場合がある。
あと届け出の単位は「事業場」ごとである。「一括」で届け出ることも可能ではあるが、その基本は把握しておいた方がいい。会社が大きくなって、別の支店を作ったが就業規則を作っていなかった、というのも創立間もない会社ではよくある話だそうである。
中身の話にうつる。労働基準法には就業規則内で規定すべき事柄などが規定されている。規定すべき事柄は「絶対的記載事項」あるいは「相対的記載事項」がある。何を記載する義務があるのか、この辺は勉強しておいてほしい。
そして、設立当初からほったらかしにして所定の労働時間とか、休日とか、定年とか重要な規定が現在の状況と乖離してしまっていないか確認してほしい。助成金には就業規則できちんと規定しないと助成金が貰えない場合がある。最近特に増えた感がある。正社員の定義とか、昇給とか賞与とか退職金とか。申請する前に、必要な手続きに入る前に事業場の就業規則を確認する必要がある。

賃金規程

これは就業規則に規定してもいいものだが、賃金規程として別個個別に規定する場合がある。この場合も古くなっていないかどうか確認する必要がある。賃金規程のなかで、手当、賃金締切日、給料支払日、賞与、退職金の規定などがどうなっているかまず確認する必要がある。

労働条件通知書

労働基準法15条に基づき使用者は労働者を雇い入れる際に、労働条件を通知する義務がある。これが世にいう「労働条件通知書」。

労働条件の通知する内容は労働基準法施行規則5条に定められており、契約期間、就業場所、従事すべき業務などが決められている。たとえ作成していても労働条件通知書の作成者がテキトーで中身が重大な誤りがあると色々問題が発生する。

あと以下述べる賃金台帳や勤怠管理と契約書の内容があまりにも相違している場合は助成金申請どころではなく労基法上問題となる。労働者と合意した賃金や待遇と異なった状態で働かせているという証拠書類を労基署の上位組織の労働局に自ら提出、申告しているようなものである。

尚、正社員だから「労働条件通知書」は作っていない、とほざく会社がたまにいるらしいが、正社員は労働条件を通知しなくてもよいということはなく、労働基準法違反。尚労働条件通知書は書面だけでなくFAXとか電子媒体でもよいが、いつでも書面として出せる必要がある。よって、「労働条件通知書」が添付書類の場合、それが提出できない場合は、労働基準法違反であり、その場合は不支給になりえる。

労働契約法に基づく「雇用契約」を「労働条件の通知」として兼ねることも可能だが、微妙に定めておく内容が異なるので注意が必要。

賃金台帳

これは労働基準法に作成保存義務がある。作成していないは論外だが、給与計算ソフトに任せているから労働局に賃金の説明を求められても私はわからないではどうにもならない。賃金が適切に支払われているかどうか質問されているのに、なんでこの賃金が支払われているのかわからないと答えるのなら、それは適切に支払われていないと言われても反論できない。特に重要視されていると思うのは時間外手当がきちんと払われているかどうかだと思う。時間外手当?そんなもん払うかよ、といっている事業主はハローワークから労基署に移送である。

給与明細

賃金台帳と似たようなものであり、助成金申請の際はどちらかでいい場合が多い。ここでもみられるのは時間外手当を含む各種手当と控除である。控除?そんなもんしらねーよ、という場合はハローワークから(以下略)

勤怠管理

タイムカードなどの類である。タイムカードでなくてもいいが、勤怠管理は法的に作成保存義務がある。労働者が何時から何時まで働いているか、それは今重要なことになっている。上記の残業代もそうだし、いつ働いているかは助成金支給にあたって大事な証拠書類である。今時法を犯すような長時間労働をさせていたら助成金以前の問題である。尚、昔、タイムカードに打刻忘れの日でなく、全部手書きで所定労働時間の開始終了時間を記入する馬鹿が自分の会社にいたことがあるが、当然のことながら論外である。事業所の中で一部だけ手書き…やましいことがあるからそんなことをしているという証拠でしかない。尚、誤って打刻忘れしたとか、他人のタイムカードに打刻したなどのミスであっても、では申請する際に別の勤怠表を作ろう、というのはやめたがいい。見栄えは悪くても二重線で消して訂正したり説明文章をつけたほうがいい。なぜなら”改ざん”とみなされる恐れがある。改ざんは”不正行為”にあたる可能性がある。

まとめ

ここまでの書類で不備があったら申請する前に対応することをお勧めしたい。助成金には申請期限があるのでそれも気を配る必要があるが、上記の書類に不備があったりしたら助成金の受給云々以前に労働基準法等を守っていない事業所と自ら申し出ているものであるから。尚、これらの書類がぐちゃぐちゃで内容が会っているかどうか確認できない、把握できないシロモノの場合、助成金によっては支給要件に該当しないとして不支給になりえる。

事業主都合による解雇

上記までと違い、法的に作成義務がある話ではないが助成金上かなり重要な事柄なので、最後に記載する。雇用調整助成金のコロナ特例は助成率が変わっていたが、他の助成金の中には不支給、つまり0円な場合が多々あるからである。解雇「等」とは事業主都合による離職のことを指す。この解雇「等」の「等」にはいわゆる有期契約社員の「雇止め」が該当する。「雇止め」とは長期間更新してきた/多数回更新してきた有期雇用契約の契約を満了する場合のことである。これを助成金上は解雇「等」と表現している。具体的な契約期間や/更新回数が該当するのかは私は保証できないので別個確認したもらいたいが、有期雇用契約の労働者の雇用契約を終了する場合は気をつけておいてほしい。有期契約なんだから契約期間満了でなんで悪いのかと思う事業主や人事担当者は一度有期契約の「雇止め」法理について検索してみてほしい。ともあれこの”等”が厄介という話である。

調べて手続きをして計画や申請の書類を準備しても事業主都合の解雇があると助成金の中には一発不支給、ということがあることを覚えておいてほしい。申請までに費やした時間や金や手間暇が無駄になる。申請する前にできれば解雇等があるかどうかはあるかどうかは把握しておきたいところである。ではこの解雇等をどう判断するかというと、各助成金の支給要領ではハローワーク等で登録する退職理由が「3」になっているかどうか、と規定されている場合もある。退職理由には「1」「2」「3」とあって「3」は”事業主都合”による離職。雇用保険2事業は失業の防止を目的としているのに事業主都合で失業者を生み出した事業所に何故雇用保険をもとにして助成金を支払うのかという話。

尚、「3」は雇用保険喪失届と失業者が手続きをする際のハローワークの手続きで決まるようだ。(今は電子申請もできるため、その場合は電子申請の部署かもしれない)事業所や手続を代行した社労士が「1」か「2」で届出をしているのに勝手に「3」にされることはないらしく、「3」に変わった場合は連絡がくる(伝聞なので「らしい」)。雇用保険喪失届に書く「1」「2」「3」の違いがわからなかったので、問い合わせがあっても適当に返事をして放置しておくと大変問題になる。一定期間会社が受け取れる助成金を消失させる行為であり、会社の認識と違うのならば「違う」といわないといけない、重要項目なのである。

勿論事業を運営する以上解雇せざるをえない局面があってもおかしくないだろうし、そもそも解雇自体を法律で禁止されているわけではない。ただ事業主都合の解雇等があると支給されない助成金があるという話である。本当は「1」「2」のところを間違って「3」で申請して了解した場合は…うん、取返しのつかないことをしたと思った方がいい。

一応付け加えておくと労働者の責任による解雇である「懲戒解雇」は助成金上の解雇等には該当しないし「3」でもない。”事業主の都合”による解雇ではないからである。温情で「3」にしてあげたんだというさぞ自分は人情があり立派なことをしたと事業主もいるらしいが、雇用保険料はその分その懲戒解雇されるようなことをした被保険者の失業手当等に支払われていることを忘れてはいけない。その分、その事業主が助成金を貰えないという話になる。

ちなみに、助成金の中には解雇等だけでなく「1A」「3A」の区分が6%…というぱっと見なんのことだかわからない規定がある。これは上記の「解雇」等だけでなく、今時の〇〇ハラスメントなどで退職せざるをえなかった人達の率も確認されているわけである。解雇できないなら嫌がらせで自主退職へ追い込め!という会社への対応策であろう。

以上、法的に作成義務がある書類などを紹介した。次回以降に個別の助成金の話に移りたいと思う。