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仕事、メンタル、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

雇用関係助成金の私見④ 人材開発支援助成金① 用語解説

次は「人材開発支援助成金」の話。厚生労働省のホームページによると、人材開発支援助成金は、事業主等が雇用する労働者に対して職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を、計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度、だそうだ。
要するに、職務に関連した専門的な訓練を計画どおりに実施した場合。訓練中の賃金と訓練にかかった経費、一部のコースの制度導入(”等”はこのこと)の助成をする、という制度。

この助成金、コースの中身と内容が毎年のように変わっているイメージがある。だが、今年度は注目の助成金かもしれない。というのも今の政権は去年ぐらいから「リスキリング」(日本語で言えば「学び直し」)と「デジタル化/DX化」を推進しているからだ。ここに予算が増えているようだ。

そこで私はこの助成金は念入りに勉強した。それをアウトプットしようとしたところ、記事の文字数が大幅に増えたため、記事をコースごとに何回かにわけることにした。

今回の記事は、その前提となる知識について。

この助成金は初心者にはハードルが高い。というのも、コースごとにガイドブックがわかれている。それぞれのコースの違いがわかりにくい。助成率とかも内容が微妙に違う。以降、この助成金の記事は間違いに気づけば随時修正訂正していくが、正確なものは労働局か専門家に確認してほしい。

前段①計画届

人材開発支援助成金のは計画届はかなり重要な位置づけになっている。これまで何度も記事にしていた雇用調整助成金が計画届を令和5年6月分まで省略していたためか「計画届」というものを軽視してしまいそうになるが、かなり重要で後から内容が変わってしまったら支給申請しても助成されない。

まず原則訓練開始1か月前に計画届をだしていないとその後訓練しても助成されない。(定額制サービス、新規雇用労働者には例外あり)

5W1H、つまりWhen(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが、だれと)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのような)、訓練をするか、計画届に記載しておかなければならない。

計画と変わってしまった訓練は「計画変更届」を提出することで対応可能だが、これまた実際の訓練日か当初の予定の早い方の前日より前にださないといけない。(天災、病欠などやむをえない場合を除く)

なお、計画届の”受理”というのは支給要領に書いてあるとおり、記入漏れ、誤記、添付書類の不備と要領に定められた事柄(事業所が中小企業かどうかなど)の確認ができた場合に受理されるのであって、計画した訓練が助成対象と”認定”されて助成金が支給される、という意味ではないようなので注意。

前提②所定労働時間外の訓練に関する賃金助成

賃金助成はあくまで所定労働時間内である。所定労働時間外で訓練しても助成対象にならない。また労働時間内かどうか確認できない訓練は対象外。たとえば17時が終業時間だとすると、17時以降そこから訓練しても賃金は助成されない。経費の助成はあるので所定時間外に訓練させてはいけないという意味ではないが、所定労働時間外まで対象にすると所定労働時間外の訓練=所定時間外労働を誘発してしまうからだろう、ととらえていればよいのだと思う。1日8時間以内なら何時からでもいいでしょう、というわけではない。”所定”労働時間の理解は必須である。変形労働時間制、フレックスタイム制、シフト制をとっている場合などは別途確認が必要である。

前提③賃金の支払いが適正かどうか(賃金助成)

賃金を適正に支払っていることが要件になっているコースが多い。注意すべきは時間外手当。先ほど時間外労働の訓練は助成対象にならないといったが、訓練期間中に法定時間外労働をしてその分の法定時間外労働に対する割増賃金を支払わなかった場合は助成金自体が不支給。(これは事業主向けQ&Aに記載があったため確実であろう。)
この辺りはどこまでシビアにみられるのかはわからないが、時間外で訓練してもその訓練時間分は賃金助成の対象外になるが、訓練如何に関わらず時間外手当を支払わなけばはすべての助成金がなくなる可能性があると読み取れる。
というか法定時間外労働をして割増手当を支払っていないというのは労働基準法違反なので、残業代なんて支払うわけねーだろという事業主はお金を貰うどこころか労働基準法違法行為で捕まる、かもしれない。相手は労働基準監督署の上位機関の労働局だし。

前提④用語①OJT、OFF-JT

各コース共通になるであろう用語の説明。訓練はOFF-JTOJTにわかれる。

OJTが「on the Job Training」、OFF-JTが「OFF the Job Training」の略であり、簡単にいうと業務が訓練も兼ねているのがOJTで、業務と離れた状態と場所で訓練するのがOFFーJTである。

訓練としてどちらが有効かはさておいて助成金の受給に関して言えば、OFFーJTの方がわかりやすいし対象のコースも多い。その理由は恐らく業務と区別されているので訓練かどうかがわかりやすいからだと思う。

またOJTのみの助成金のコースはない。OJTは、OJTとOFF-JTの両方が必要な「認定実習型併用訓練」と「有期実習型訓練」ぐらいである。そしてこの2つはOFF-JT訓練よりもはるかにややこしい。キャリアコンサルティングを受けたジョブカードを交付されている必要があるとか、認定実習は厚生労働大臣の認定が必要になるとか面倒である。

前提④用語②事業内訓練と事業外訓練

事業主が企画した訓練が事業”内”訓練で、外部の人が主催した訓練が事業”外”訓練。内か外かは訓練を受ける場所が自社”内”かどうかという意味でもない。講師が外部講師か内部の職員かでもない。

これも事業外訓練の方が計画しやすいと思う。理由は外部組織は業務として行っているため、訓練の詳細がわかるカリキュラムとかこの助成金に必要な資料を準備しているケースが多いから。内部のなあなあな資料と経費を添付しても訓練として認められるかどうかは微妙。本当に訓練をしたのか内部ではわからないからであろう。

会社の大ベテランが背中で語っているかもしれないし、経営者が私を褒めたたえ信仰しなさい、自書を読んで感想文を書きなさい、と自分の社員に強制している時間かもしれないし、自称〇万社の指導実績を持つ自称敏腕コンサルタントが自分の意識の高いイキリきったお話(中身はゼロ)を語っているかもしれないからであろう。聞いた人が自分も仕事ができそうな気がするという高揚感にかられるかもしれないが、その話を聞く時間と経費を雇用保険料を原資にした助成金が受け取れるかは別の話。

前提⑥総訓練時間、実訓練時間、受講時間数、助成対象労働時間数

訓練時間には確認したところタイトルの4通りの時間の数え方がある。どう違うのかを簡単に説明する。尚、Eラーニング、通信制、定額制は考え方が異なるので別途確認されたい。

総労働時間数 

訓練開始日から訓練終了日までの時間で、そこから昼休憩と移動時間を除く。実訓練時間数があるのだからこれはそれほど重要かと思ったが、この訓練開始日と終了日が重要。計画届提出期限と支給申請の申請期限はこの総労働時間をもって確認するからである。つまり、訓練開始日が例え実訓練時間にカウントされない訓練、または入学式とかでもこの日が計画届提出期限の起点となり、訓練最終日に実訓練にカウントされない訓練や欠席してもこの日を期限に支給申請のカウントが始まるからである。期限は助成金が貰えるかどうかの重要ポイント。実際のところは労働局か専門家に確認されたい。

実訓練時間数

総訓練時間数から、以下の対象とならない訓練を除いた訓練時間が実訓練時間。これが10時間以上ないと助成対象とならない。

受講時間数

実訓練時間数のうち、どれだけ受講したか。8割以上の出席が確認されないと助成対象外である。

賃金助成対象時間数

受講時間数のうち、所定労働時間内の訓練がこれで、この時間数が賃金助成のベースとなる。

前提⑦対象とならない訓練

人材開発支援助成金の最重要事項は行った訓練が助成対象となるどうかだ。対象となる訓練は抽象的で、例示も少ないが、対象外の訓練はどのガイドブックに2ページぐらいにまとめられている。コースでも若干違うため、対象コースごとに確認した方がよいと思う。要するに、それは訓練を受ける労働者にとって職務で必要となる専門知識/技能ですか?ということであろう。

前提⑥オンライン訓練等

最近認められるようになったのが、Eラーニングも通信制助成金対象となったこと。おそらくコロナの影響と、それによる通信関連の発達であろう。といっても、これを小難しく表現するのがお役所というところ。通信制、Eラーニング、同時双方型の通信訓練の定義ガイドブックと事業主様向けQ&Aをみてほしい。一読してすぐに厚生労働省の意図が理解できたらすごいと思う。それぐらい何を言っているのかよくわからない。

通信制は通信機器を使うわけではなく添削指導等がある通信教育のこと。申請用紙をみるとわかるが第〇回目の添削とかがある。進〇ゼミのようなものをイメージしたが、今時は通信講座の添削資料はインターネットを介して行うものも結構らしい。へー。簡単なようだが1回でも添削を落としたらアウトらしい。

・Eラーニングはオンラインで受講することだが”LMS”という進捗管理がわかるものが必要。なんのことだがわからないかもしれないが、今はEラーニングを受講すると、何月何日何時何分、何分間受講とか記録されている機能があるらしい。その機能が必須。

・「同時双方型の通信訓練」はZoomとかSkypeとかのことを指すらしい。ZOOMは一企業のアプリだからこのような表現になったらしい。ポイントは通信制、Eラーニングと違い、従来からある対面式の訓練と同じ扱いになったようなので、賃金助成もある。令和4年の始めの計画ではパソコンでスクリーンショットを撮って印刷し添付するという要件もあったがなくなった。尚、一方的な講義ではなく、現受講中に質疑応答が行えるなど、同時かつ双方向的に実施される形態のもの、と現在は定義されているので、授業の動画を見る”だけ”ではダメということだと思う。スクリーンショットもログも提出しないでいいため、どうやって訓練したことを証明するんだろうね?今ではYouTubeとか、ライブ配信がどうなるかというと、根拠はないが、うーん、ダメじゃね?

・単なるビデオ鑑賞は助成対象外である。要するにDVD(BD)を買ってきて見るだけではダメである。

OJTもオンライン対応が可能になったとのことだが就業規則に規定することが必要なので難易度は高い。というか、どうやってOJTをオンラインでやるのか、という話だが…。

尚、令和4年前後にかけてこのあたりの定義とかの整備がされたようだが、その過程で何度も改正があった模様。その関係で証拠書類として提出する書類も変わってくる。どのタイミグのルールが適用されるかというと「計画届の提出日」に規定されていたルール(支給要領)に基づくようだ。実際に訓練した日でも申請した日でも最新版でもない。とってもわかりづらい。

前提⑦生産性要件の廃止と資格要件・資格等手当要件の新設

令和5年から、生産性要件が廃止され、賃金要件・資格等手当要件に変わった。どちらとも助成率の加算要件なのだが、賃金が上がっていたら助成率を加算するよ、ということだろう。何分令和5年4月に突如発表されたので現時点で詳しいことはよくわからないが、人材開発支援助成金は後で追加申請する形だから、本丸の助成金がおりてからの話になるので先の話として省略。

前提⑧助成金申請の際の用紙

これはHPで見てもらうとわかると思うが、申請の際に使用する様式は計画届の提出時期によって異なっているようである…。正直、頗るわかりにくい。そして、その用紙をExcelでダウンロードしてみてもらいたい。なんとこのExcel、計算式が入っていないのである。セルに数字等を入力して”自分で”計算して数字を数字として入力するのである。雇用調整助成金、産業雇用安定助成金、キャリアアップ助成金などは計算式が結構入っているのにも関わらず…。人材開発支援助成金の担当者(受託業者?)、もう少し頑張ろうや。

前提⑨キャリアアップ助成金(正社員化コース)との兼ね合い

前から非正規雇用労働者が訓練をした後に正社員化した場合はキャリアアップ助成金助成金金額の上乗せがあったが、いつの間にか対象となるコースが増加している。しかも人材開発支援助成金の計画届で、キャリアアップ助成金の計画届(但し正社員化コースのみ)を兼ねることができるようになっている。ややこしくなるかと思いきや、キャリアアップ助成金の計画届と比較してもらうとわかるのだが、限りなくシンプルになっている。キャリアップ助成金の計画届と比較して書く項目が減ってしまっていてこれで本当に大丈夫なん?と不安になってしまいそうなほどシンプル。

前置きは以上。前置きで5000字近くになった…。これは読まれないかもしれないテーマかもしれないが、乗り掛かった舟だ。次の記事で各コースをみていく。

令和5年5月11日追記 当初は「人材育成支援コース」とセットの記事でしたが、「人材育成訓練コース」を別記事に分離しました。