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雇用関係助成金の私見④ 人材開発支援助成金② 教育訓練休暇等付与コース 8/5修正 R6年2月修正

人材開発支援助成金の記事の2回目。人材開発支援助成金はコースごとにガイドブックがあり、令和5年度は4つもある。ついてはガイドブックごとに4回に渡り記事をわけることにした。

初回は教育訓練休暇等付与コースについて。

このコースはさらに以下の3つに分類されている。

「教育訓練休暇制度」・・・
3年間5日以上の有給の教育訓練休暇の取得が可能な制度を導入し、
実際に適用した場合に助成
長期教育訓練休暇制度」・・・
連続30日以上の有給・無給の長期教育休暇制度の取得が可能な制度を導入し、
実際に適用した場合に助成
「教育訓練短時間勤務等制度」・・・
30回以上の所定労働時間の短縮および所定外労働時間の免除が可能な制度を導入し、
実際に1回以上適用した場合に助成

ざっくりいえば、休暇の取り方が1日単位か、連続30日以上(+連続10日以上)か、時間単位かということになる。あと、この3つは、申請するタイミングと申請期限がそれぞれ違う。実際に適用、という言葉の意味や、その他の違いは以下で述べる。

最初に かなり難しいコース。人材開発支援助成金初心者は最初はやめとけ

まず最初に注意事項。「有給休暇を使って労働者が資格を取ったりしたら、助成金が一律30万円もらえるのか!よしこれを利用しよう」というぐらいの知識なら辞めておいた方がいい。このコース、申請までの期間が長いうえ、支給要件がかなり難しい。とてもではないが、人材開発支援助成金を利用しようと思うならば、このコースを最初にしようと思うのは辞めといておいた方がいい。就業規則の改定も必要で、代理人の手数料と就業規則改定料を支払って不支給とか目も当てられない。最初はオーソドックスな「人材育成支援」か労働者が選べる「自発的訓練」とかで慣らしたほうがいい。

共通の話① 他のコースとの違い

まず、このコース共通であり、また他の人材開発支援助成金との違うところは以下のとおりである。

  1. 就業規則にその制度を規定しないといけないこと。
  2. その就業規則を実際に規定するに労働局に計画届を提出しないといけないこと。計画届に添付するのは変更案である。就業規則に規定を入れて、そのあとに計画届を提出してもダメである。
  3. 教育訓練休暇の規定を入れた就業規則を常用労働者数10人以上の場合は労基署に届出をすること。施行日が計画期間の初日になるので施行日と届出日は重要。
  4. 対象者は一般労働者等であること。有期雇用契約労働者で入社1年未満だと対象外になる可能性がある。
  5. 申請単位は企業単位である。雇用保険適用事業所単位ではない。

共通の話② 計画期間

教育訓練休暇付与コースは、教育訓練休暇の規定を入れた就業規則の(改正)施行日を初日とした3年間固定の計画期間を設定する。繰り返す。この3年間は固定である。

共通の話③ 対象とならない訓練

人材開発支援助成金は対象とならない訓練がかなりあり、対象となるかならないかの判断が難しい。だが、このコースの対象外とならないのはいたってシンプルである。

ザックリわけると二つ。

①仕事ではなければOK。つまり、OJT、業務命令での訓練、通常の事業活動でなければよい。仕事なのか、そうでないかの違いは恐らく支給申請段階での勤怠管理と、有給管理簿とかなんだろう。勤怠管理がテキトーな会社は辞めたほうがいい。

②実施目的が教育訓練休暇を付与するに値しないものでなければOK。付与するに値しないって…と刺激的な表現だが、どうやら視察旅行とか、講演会を聞いただけ、休暇中に何学んだの?と突っ込みたくなるものでなければOKだと思う。

具体例をあげる。パリでエッフェル塔のポーズをとって写真をとったりするのは視察旅行になると思われるが、パリでしかできない何か教育訓練をしていれば対象になる、と思う。別に24時間訓練を受けなければならないわけではないので。尚、30人以上でパリに行ったとしても経費助成は一律金額だし、長期訓練で有給の場合は賃金助成に人数制限もないようだ。(ただし1人あたりの150日の日数制限と会社全体の上限金額はある。)

とここまで書いていて気づいたのだが、人材開発支援助成金の決まりと思われていた「職務に関連した専門的知識及び技能の習得」の文字がガイドブックに見当たらないのである。つまり、今の職務に直接関連しなくても、付与するに値しないもので仕事でなければOKなのでは?

共通の話④ 適用される支給要領

人材開発助成金のややこしさは、適用される支給要領、つまりルールは計画届を提出した日の支給要領である。計画期間が3年間固定なので、教育訓練休暇制度の場合は、申請書類提出時には約3年前のガイドブックと支給要領を見て確認しないといけないと思われる。尚、ホームページに3年前のものは残っていない…。これは私の理解で正しいのかどうかの自信がないが念のため。

共通の話⑤ 賃金要件・資格等手当要件

令和4年度までの「生産性要件」が廃止され、令和5年度からは「賃金・資格等手当要件」が創設された。ざっくりいうと、1年以内に賃上げすれば助成金が後で追加でプラスされるよ、ということである。ややこしいのは比較する起点。下記の3つのコースそれぞれで起点となる年の考え方が違うのである。起点となる年は支給申請するタイミングと一緒であるので支給申請のタイミングを理解すればわかる、ということになるが…。

①教育訓練休暇制度

概要

教育訓練休暇が助成金の対象になった当初からあったコース。企業の被保険者が100人未満と100人超で内容が違うので、以下はわかりやすい100人以下で説明する。あと、3つの名前の言い方がわかりにくいので、以下「通常版」と表記する。

計画期間の3年間で1人に対し5日以上の有給の訓練を実施すると30万円助成される。

これだけ聞くと申請のハードルは低いかと一瞬思う。問題は申請期限と訓練の時期。

計画期間の3年間毎年最低1日は有給で教育訓練休暇の取得が必要である。つまり、3年のうち1年間は休暇がなかったとなるとダメである。尚、この3年間は固定である。

支給申請のタイミング

この計画期間の3年間の後から2か月以内に支給申請を行うことになる。

具体例。令和5年4月1日から計画期間を開始したとすると、計画期間は3年間なので令和8年3月31日までとなる。そこから2か月以内なので、令和8年4月1日から令和8年5月31日までの間に支給申請をする形になる。

つまり申請するのは期間が始まってから3年以上先である。申請期限は3年以上待ってから2か月間の間である…。私だったらこの期間を忘れてしまわないか不安になる。ガイドブックに注意喚起の文章があるが、正直1回限りの助成金で一律30万円のために規定を作ってこれだけ長い期間待っていられるかどうか…。

会社だと3年以上の間に開始時と担当者が変わってそうである。社労士に提出代行してもらってもスポットの場合、縁が切れていたりするかもしれない。

総論

この期間を忘れずにいて書類の保存に自身のある企業には、それほど申請難易度は実は高くない。就業規則にその規定をタイミングを間違えずに入れればいいだけである。休暇の取り方で失敗してもペナルティはない。面倒くさいかもしれないが、有給の休暇日数もそれほど多くもないのでアリといえばアリである。

②長期教育訓練休暇制度

概要

このコースは確か今から5年ぐらい前から始まったと記憶している。設立当初は120日以上の休暇だったと思う。数年前に30日以上に変わり、そして令和4年よりコースが人への投資促進コース扱いとなった。人への投資促進コースになると何が違うのと思ったが、どうやら企業ごとの助成金の上限が違う、ということになる。

30日以上というのは支給要領の趣旨を読むに、「リカレント教育」を対象に考えているためだろうと推測される。要するに、仕事から離れて大学、専門学校で学ぶことを想定している教育訓練休暇である。

またこちらは「通常版」と違い無給でもよいし、有給でもよい。ただし賃金助成は有給の場合のみ。1日6,000円で、限度日数1人あたり150日。

3年間(固定)の計画期間の中に、1回は1日30日連続の教育訓練休暇制度をとる必要がある。他、10日以上連続の休暇を別に取得しても、その10日も対象となる。別に365日×3年訓練休暇をとってもよいが、賃金助成の上限は150日まで。「通常版」と違い、3年間毎年の休暇取得の義務はない。ただし、計画から3年という期間内には取得する必要はある。

他と違うところは対象労働者に制限があるところ、計画届提出時点で当該事業所の被保険者になってから1年以上の者が対象になる。よって入社してすぐとか、計画届提出後に雇って長期の教育訓練を取るというのは、仕事のために入社したのではなく、学校に行く費用を助成金で補填するために入社するということを防止したいのではないかと推測したが…。

申請のタイミング

申請のタイミングが頗るややこしい。「通常版」と違い、3年間が終了してから申請するのではなく、例えば1年目に30日を取ったらそこで申請できるので早ければ2か月後には申請が可能になる。ただし、休暇が150日を超えたらその150日目を支給申請の区切りとする。また2人休暇を取得する者がいたら、どちらの訓練終了日が起点になってもよいと読み取れる。正直何を書いているかわからないかもしれないが、自分もうまく文字で説明できない。ガイドブックの図を参照されたい。

総論

所定労働日30日以上連続の休暇はなかなか長い期間。しかも業務命令の訓練は対象外らしいなので、おそらく会社から訓練の指定はできない。(どう証明するのかは不明)1~2か月かけて仕事を休んで学校に入学します、学校で学ぶことは労働者の自主性に任します…。果たしてそんな企業どれくらいいるか疑問である。

訓練の修了証、在籍証明書など訓練をした証明もいる。30日以上かけてやる訓練だったのか確認するのだろう。

正直私が企業担当者だったら労働者が望んでも利用を認めるかどうか微妙である。多分労働者を留学させる制度があるところぐらいしかできないだろう。しかも業務命令はアウトだし…。そんな会社が手間暇かけて20万円程度の助成金の申請をするのだろうか?利用数どれくらいあるのかなあというのが正直な印象。

令和6年追記…令和6年度予算案で、この制度の改正案がホームページで掲載されている。助成金額が高くなる模様。令和6年1月~3月までの間で計画届を出すのは様子見した方がよいと思う。

③教育訓練短時間勤務等制度

概要

令和4年4月に「人への投資促進」コースとして新規に追加された制度。所定労働時間1時間以上の短縮か所定外労働時間の免除を30以上利用することが可能な制度を規定したところがが対象。30回以上利用する、ではなく30回以上利用”できる”制度である。つまり、実際1回になったとしてもいい、と読み取れる。

訓練は同一の教育訓練機関が行う一連の15回以上の訓練を行うこと。同一の教育訓練が行う一連の訓練というのがミソ。「通常版」は5日間違う訓練でもいいが、こちらはそうはいかない。

また上記2つとの併給調整がない。つまり、既に上記2つの制度を導入して助成金を受けていても利用できる。

尚、なんで1日でなく1回なのかと思案したが、おそらく1日と書くと所定労働時間全部でもOKとも誤読してしまうし、1日の所定労働時間は会社によって違うので〇時間とも書けないので、1回なのだろうと推測している。

申請のタイミング

なんと最初の1回の利用の翌日から申請期間に入る。というか15回短縮できる制度を作る必要があるのであって、15回以上短縮する要件はない。極端に言えば1回でやめても問題ない。普通一連の訓練が終ってからではないのかと思うがガイドブックにそう書いてある以上そうなのであろう。

総論

所定外労働時間の免除というのがよくわからないので説明は省略した。ねらった訓練が所定労働時間外ばっかりだった時に使えるのかなあと思ったが、申請書にどうやって書くのかわからないのがネック。どうやって最初の1回をとったタイミングで、申請書の添付書類に教育訓練の修了証を出すのだろうか…?ぶっちゃけこの訓練、イメージしにくい。

最後に(私見

多分一番理解しにくいコースだと思う。人材開発支援助成金のコースの記事はそれぞれ閲覧数が表示されているのだが、このコースの閲覧数はほとんどないのがそれを物語っている。自分も一番理解できていない。8月に文章を大幅に修正したが、まだ直すところはあると思う。

ただ制度導入としての一律固定金額の助成金というのは、他の助成金もそうだが狙っている会社は狙っていると思う。つまり、助成金での金稼ぎ。「通常版」では最低5日間の有給休暇、やり方によっては企業の利ザヤがでるからである。この利ザヤがあるとおかしな連中が蔓延るらしく、不正調査の対象になっているようだ。私は不正調査の相手をするのが嫌なので推奨しない。ちなみにこのコースについてはYouTubeとか見ても「激アマ助成金」として金稼ぎで紹介されていない。3年かけて30万円より、今は1回限度額上限なし(事業所の上限はある)の定額制訓練がおいしいからだろう。

また”業務命令”での訓練が対象外である以上、申請する企業の思い通りにいくかどうかは難しいところである。訓練に活かせれば、業務命令である。「通常版」は期間の長さがクリアできれば、そこまで企業の負担はなさそうなので利用も可能と思われるが、長期は30日以上が長すぎるし、短時間はよくわからん、というのが私の感想。