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雇用開発助成金の私見⑧ 人材確保等支援助成金 

※令和6年1月5日追記 どうやら以下の休止中のコースのなかで、令和6年度予算案の資料をみるに”再開”するものがある模様。まだ予算”案”であり詳細は不明。以下の私見はあくまで令和5年4月時点の話であるのでご承知おき下さい。

今回は「人材確保等支援助成金」について。

まずはじめにお断り。

この助成金は令和5年4月時点で、休止中のコースか、業種が限られているか、条件が限られているかのどれかである。よって利用できない業種、事業所は申請しようがない。それを踏まえて以下お読みいただきたい。

前置き

この助成金コースは9つもある。まず、便宜上①休止中のコース②建設分野と業界団体③それ以外、の3つに分けて説明する。

①休止中のコース

2つが現在休止中であり新規計画を受け付けていない。しかもこの休止、令和4年4月1日から始まっていて令和5年4月以降も休止継続のようである。

正直言って2年休止が続くコースってどうなのか?という印象をもつ。”休止”なのはおそらくこのコースの計画届を提出してから支給申請までの間が2~3年かかるため、休止発表前に既に計画届を出して整備を始めている事業所に配慮するため、進行中の事業所の支給申請は受け付ける、ということだろう。

根拠となるソースは見つかっていないが、休止中の2つのコースは既に計画が出てる分の申請をもって終了する確率が高いと私は思う。(新規受付終了、と断言している人もいる。)

その理由は2つ。

・休止理由が制度の中身の見直しのためであれば、休止発表から1年以上も時間があれば中身は見直せる時間はあっただろうから。
・休止理由が雇用調整助成金で予算が足りなくなったたであれば、他の助成金も同様の理由で休止されているか、他の助成金がコースが新設されていないだろうから。他の助成金は廃止か要件厳格化等はあるが休止になっている助成金はみあたらない。

②建設業と業界団体、介護業の場合

建設業に関しては”助成金”ごとにみるのではなく、”建設業”用として各種助成金がまとまられたガイドブックを見たほうがいいと思う。ぶっちゃけ、建設業の人ならば関係する専門団体から教えてもらうケースが多いのではないか。助成金の名称で調べるとわかりにくくなる。

以降、この助成金自体の説明は「建設業用の3コースは除く」ということで読んでいただきたい。

介護事業については、雇用関係助成金のなかでは数少ない「設備投資」の助成金ではあるが、介護事業でない事業所、介護事業であっても該当する設備投資の計画がなければ用はない。

③外国人関連、テレワーク関連について

外国人を雇用していないところ、テレワークを”これから”導入する予定のないところには関係ないことになる。

概略:人材確保等支援助成金とは大体どういったものか

人材確保等支援助成金というのはどういったものか、ざっくり説明する。

①”制度”導入や設備投資をして、②適切な運用を経た結果、離職率が目標値以上に低下することを目的とする。離職率が低下=人材を確保、といったところか。助成金額は一定額か、支出した経費の何割かが助成されるものである。

尚、離職率の目標値には基準がある。計算方はコースによって違うのだがたしか離職率30%が最低ラインだったと思うので、離職率を100%から50%に下げたとして助成金はでない。あと説明がややこしくなるが、建設業のコースなどは離職率が支給要件にないコースもある。

助成金の支給は「制度導入」「経費支出」をし、離職率低下の目標を達成すれば助成金が支給される。

どんな”制度”を設計し導入するかも重要ではあるが、問題は離職率の目標値以上の低下である。離職率というのは会社がどう頑張っても結果がでないときはでない。事業主都合の解雇率ではないので、各労働者の自由意思による離職は止められない。よって、計画から数年かけて制度導入をしても離職率未達で不支給は十分ありうることを考慮しておかなければいけない。他の助成金のように支給要件を確認してそれにあうようにすれば助成金がでる、というものではない。

私の記憶では、この助成金は前身の助成金もそうだが、制度設計でまず1回助成金が支給されて、離職率の低下するともう1回助成金が支給れる、という2段階の助成金、という記憶があった。

だが今のホームページをみるに令和3年ぐらいから制度設計と離職率の低下のセットで1回の助成金になっているコースが多い。離職率を低下させるところまでいかないと助成金が1円も貰えないというわけでかなりハードルがあがっている。

さてこの離職率の目標以上の低下だが、これが達成したかどうか確認する期間は”年間”ベースで比較確認することになる。その間に制度を設計し運用する期間も大体1年ある。そして計画届の提出は制度設計をする期間の”前に”提出し認定を受ける形である。

何がいいたいかというと、計画から支給申請までの期間が長い。

コースによって違うので具体的に「雇用管理制度助成コース」で説明する。

計画届提出した後に計画認定され、その後に制度を約1年かけて導入、その後離職率の確認する期間に1年を設けているので、支給申請をするのは計画届提出してから2年経過している場合もあるということになる。最終的な新規受付は令和4年3月31日をもって中止になったが、たとえば令和4年3月に計画届を提出している事業所は現在離職率確認期間中かもしれないので支給申請はこれから、ということになる。だから新規受付は中止されているが、支給申請自体は休止されていない、ということになる。

ここまで説明すると、この助成金、利用する事業所はそんなにいるのか、という疑問がでてくると思う。ただ過去は一部の事業所にとっては人気のあるコースがあったらしいのである。ただここ数年の要件の難易度アップと休止で今は過去の計画分の申請がせいぜいではないかな、という印象がある。ちなみにその根拠となるデータはないので、私の感想でしかないが。

以降、各コースを簡単に記述する。この助成金のコースはコースの名前で大体イメージがつかめると思うので事細かに書かない。尚、説明の都合上、HPの順番を変えている。

そしてくどいようだが以下のAとDのコースは令和4年4月1日以降、整備計画の新規受付を停止しこの記事を書いた令和5年5月も休止継続中である。

A 雇用管理制度助成コース(休止中)

諸手当等制度、研修制度、健康づくり制度、メンター制度及び短時間正社員制度(保育事業主のみ)(これを雇用管理制度と呼んでいる)のいづれかを導入・実施をして離職率が目標値以上に低下したら”定額”の助成金が貰えるコース。短時間正社員制度以外は業種に制限がない。

このコースが休止前までは人気があったらしい。その理由はインターネットで検索するとすぐにわかると思う。正直紹介動画を見るとうんざりしたのでその人気理由を書きたくない。ざっくりいうとこのコースには大した経費も掛からずに助成金を受給しやすい”事業所”があったそうだ。そういう事業所に社労士等は勧誘しているといってもよい。

この助成金の趣旨はそれぞれのコースの目当てとする制度を導入すること、離職率を低下させること。

しかし、制度上、諸制度の中からお金がかからないものを導入し、離職率がもともと低い会社がそれを導入した場合、一律固定の助成金が貰える場合は利ザヤが稼げた。しかし、それは助成金の趣旨からすると、雇用保険料をもとにした助成金を使ってそれはどうなの?といわざるを得ない。

誤解を恐れずに私見を言うと、このコースは制度上欠陥。よって休止。令和4年3月31日までに計画届を出しましょうという案内を自称助成金のプロ達が宣伝していたようだが、おそらく正解だったと思う。おいしい事業所にとってはおいしいからである。

念のため補足しておくが、助成金の要件に沿って、制度を導入し、離職率の目標を達成したうえで助成金を申請し受給すること自体、不正ではないし、なんら問題ではない。そういう制度を作った厚生労働省のミスである。ただ、欠陥部分だけを修正するのではなく休止にしているということは、制度の手直しをするのではなくもうやめるんだろうという感じがする。

D 人事評価改善等助成コース(休止中)

生産性向上に資する人事評価制度の整備、定期昇給等のみによらない賃金制度を設けることを通じて、賃金アップと離職率が目標値以上に低下したら助成金が貰えるコース。

令和2年までは制度設計だけで助成金が貰えたが、令和3年4月1日以降は賃金制度を作って賃金アップして離職率を低下させてやっと助成金が貰えたようだ。だから制度設計分だけの助成金でも、ということで計画の件数もあったらしいが、支給の難易度があがり、そして休止になった。

キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コース、賃金規定等共通化コースにパッと見て似ていると思うが、キャリアアップ助成金の方はあくまで”非正規雇用”が対象である。

B 介護福祉機器助成コース

新たな介護福祉機器の導入をして、従業員の離職率が目標値以上に低下した介護事業主に対して助成するコース。介護にとっては一見いい助成金に見えるかもしれないが現在は設備投資と「離職率の低下」の両方の達成が要件であり、助成率は福祉機器の導入費用の”20%”。(以前は2つ合わせて45%あった)

介護事業所は離職率を一定以上低下させるというのはかなり難しいと思う。また設備投資をすることでなんで離職率の低下が達成できるかというと、体の負担が減るからか?それだけでは離職率はそんなには下がらないと思うが。あと、この要件で助成率20%ははっきりいって低い。

介護事業は労働者の移動が多いし、専門資格が必要な場合も多いし、処遇改善加算用に職員の賃金制度の整備も重要だし、IT化をすることも大事だし、そもそも設備投資の助成金はほかにもある。

ぶっちゃけ、介護事業所はこのコースより、他の助成金補助金、処遇改善関連を優先して手をつけた方がいいのではないか、というのが私の意見。勿論、該当する設備投資計画があるのならばダメもとで計画申請するのもアリだとは思うが…。

C 中小企業団体助成コース

改善計画の認定を受けた中小企業団体(事業協同組合等)が対象。自身が中小企業団体でなければ用はないだろう。このコースに離職率はない。

E 建設キャリアアップシステム等普及促進コース

F 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)

G 作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)

上段でも説明した通りこの3つはその名の通り、建設分野が対象となる。建設分野は建設業用のパンフレットがあるので、人材確保等支援助成金として他のコースと同様にみるというよりもこのコース名で見たほうがわかりやすいと思う。例えば、Eは事業主は申請対象ではないし(事業主団体等が申請対象)、Gは作業員宿舎を作ったら全て助成対象ということにはならず対象となる宿舎が定められている。尚、建設用コースに離職率の支給要件はない模様。

H 外国人労働者就労環境整備助成コース

外国人労働者のための制度整備。こちらもこのコース用のガイドブックがあるのでそちらを見てもらった方が良いだろう。制度整備だが、経費助成であり固定金額ではないで、利ザヤは稼げない。私の勝手なイメージだが、今、コロナ禍や円安の中で外国人労働者離職率を目標以上に低下させるのはなかなか難しかろう…。

あと、日本人の離職率が”上昇”していないことも要件にある。日本人と外国人、それぞれの離職率をみるということ。日本人と外国人の離職率の確認の仕方が違うので注意。日本人は計画前との比較で離職率が下がっていることが要件だが、外国人は単純に離職率(人数)である。

この制度設計に直接関連しないが、日本人の離職率をほったらかしてもらってもいいと誤解されては困るということだろうか。

I テレワークコース

コロナ禍の令和3年に創設されたコース。令和3年頃なら利用価値があったとも思うが、令和5年度になってからテレワークの”準備を開始”する会社はそうそうあるまい。既に運用が開始されていたのならば、これから計画届をだしても門前払いなのでは?尚、私の会社はテレワークにご縁がなかったため私は殆ど勉強していない。よってこれ以上のコメントはなし。

ちなみにこのコース、労働局の担当部署がこの他のコースと違ったりする。都道府県にもよるだろうが電話をかけるとうちが担当ではないのです、といわれるかもしれない。理由は知らない。

まとめ(私見

かなり長い説明となった。だが、今までの助成金の記事の中でも”現時点で”一番役にも立たない記事になったと思う。というのも令和5年時点ではかなり今の世の中の流れ、政府が進めたい目標にあわない助成金になっているから。というのも政府は、会社の”離職率の低下”よりも成長産業や人手不足の会社に”転職”してもらうことの方が優先度が高い。その目的が達成すると”失業率”は上がらなくても、個々の事業所の”離職率”は上がってしまうということになる。

5000字超も書いておいて何だが、人材確保等支援助成金は、新規一転するか、一部のコースは終了する可能性が高いと私は思っているので、特に休止中の制度を新しく利用することを考えて勉強するのは今後どうなるかわかるまで待った方がいいと思う。

 

※令和6年度予算概算要求についてはこちらの記事をご参照下さい。

kesera22.hatenablog.com