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雇用調整助成金の私見⑤ 残業相殺の計算方

雇用調整助成金私見5回目。今回は通常版になって復活した残業相殺の計算方について。

正直、雇用調整助成金の利用は能登半島地震特例以外はそうないのではないかと思ったが、雇用調整助成金の令和6年度版の記事のアクセス数がかなりあるので、需要があると知って、記事にした次第である。これについては私の記憶が確かならば、令和6年度から変わった部分があると思う。尚、正確な情報は労働局(ハローワーク)か専門家に確認してほしい。

はじめに:残業相殺とは

まずは、残業相殺とは何ぞや、ということについて。知っている人は読み飛ばしてほしい。

雇用調整助成金は現在の計算方法だと、実際に支払った休業手当総額に助成率(中小は2/3、大企業は1/2、教育訓練の実施率1/10未満で変更する場合有)をかけて計算するのが原則だが、そこから、【残業相殺】つまり、所定外労働をした時間分、相殺、つまり差し引きする形になる。

なぜ残業分を控除するかだが、これは具体例を挙げたほうがわかりやすい。

1日所定労働時間8時間×5日=週40時間労働、時給換算1,000円、休業手当支給率100%の中小企業の事業所があるとしよう。

そこで1日8時間休業したとする。そうなると助成金の計算は

休業手当8,000円×2/3=5,334円 助成金が支給される。

この場合、もしその8時間分法定外の時間外労働をしたとする。週の実際の労働時間は40時間で同じなのだが、

1,000円×1.25×8=10,000円支払うことになるが、上記の休業手当が入金されれば会社としての人件費は安くすむことになる。

これについておかしいと思わないだろうか?

①もともと週の実労働時間が所定労働時間と同じである場合は、そもそも仕事量を調整していないので休業を取る必要があるのか?代休・振休でよいのではないか?

②振休で月給制ならば実労働時間も賃金も変わらないのに助成金が貰えるというのはどうなのか?

③結果的に労働時間が変わらないのに、法定時間外労働分の半額以上を助成金という雇用保険料という公金で賄っていることになるが?

④たとえば週5日勤務で週2日で休みが何曜日か決まっていないシフト制だった場合、本来は月から金曜日が勤務で、土日が休みの週を、火曜日は”休業”にして、かわりに土曜日に出勤した場合、労働時間も賃金は変わらないのに、助成金がでるのではないか?

その問題に対応する形にしたのが【残業相殺】なのではないか?つまり所定外労働時間分は休業を控除することで、上記の例の場合、休業手当の8時間から時間外労働分8時間を相殺して、休業手当なし、よって助成金もなし、ということになる。

そもそも残業をするぐらいならば休業を認めなければいい、という考えもあるが、世の中、所定労働時間外に急な対応をしないといけない時もある。よってこの【残業相殺】というのが登場したのだろう。

以上が私の推測、理解である。遡って調べればこの制度を作った経緯がわかるはずだが、なにせ雇用調整助成金オイルショックの頃に登場した助成金であり、調べるのは正直時間がかかる。だからどうしてこうするのか、という理屈が自分の中で合点がいけば理解が早いと思うのでこういう風に私は理解している。間違っていたらゴメンナサイ。

残業相殺の計算はどうやってするのか

令和5年までは【1人当たりの平均賃金】×雇用保険被保険者全員分の【休業日数】×助成率。

上記の計算をし、この休業日数から所定外労働時間の日数を差し引いて対応していた。

それが今実際に支払った休業手当総額、つまり全員分の休業手当総額から計算がスタートしている関係上、どう計算するのか?

今の申請書類はExcelで自動計算される。どういった計算式が入っているかは隠れていて読み取れない。では、どう自動計算をされているのか理解するのが、今回の記事のメインテーマである。

計算方の規定について

まずは根拠となる支給要領を引用する。以下の説明のため、記号などを書き加えている。

0402a ロ 残業相殺

休業等を実施した事業所において、当該休業等を実施した対象労働者が、当該休業等を実施した判定基礎期間内において所定外労働等を行っていた場合は、

A当該判定基礎期間における助成金の対象となる休業等に係る対象労働者の外労働等の総時間数

B当該事業所の代表的な1日の所定労働時間で除して得た数を、

0301bハに定めるC休業等延日数から差し引き、当該日数助成金の対象とする。

具体的には、

①休業手当等総額に助成率を乗じた額を

②0402a ロ及びハによる差し引きの休業等延日数で除した額に

③0402a ロ及びハによる差し引きの休業等延日数を乗じて得た額と、

法第16条に規定する基本手当の日額の最高額④に当該差し引きの休業等延日数⑤を乗じて得た額を比較して、いずれか少ない方を支給額とする

上記下線を引いた支給要領の条文は、後の項目で個別に解説する。(規定上は、残業相殺が0402aロ、年間の所定労働日数の増加による調整が0402aハ、であり、計算方は残業相殺と所定労働日数調整を同時に行う形になる)

助成金の根拠となる休業等日数は、実際の休業等の延日数から残業相殺した後の日数である。計算方は

C休業延日数-残業相殺としての日数であり

残業相殺の日数の具体的な計算は、

A所定外労働時間の総時間数÷B代表的な1日の平均所定労働時間数

という形になる。差し引くのは所定外労働時間の1日換算であるが、その1日換算の計算方は、残業日数を全部足して計算するわけではない。

残業の”総時間数”を、”代表的な1日あたりの所定労働時間数”で割って1日換算としている。

これは1時間とかいう時間を日数換算する際の計算方を1日ごととか、1人ごととかで計算するのではなく、”代表的な1日当たりの所定労働時間数”という会社の平均値でザックリ計算しているのである。

この【代表的な1日の所定労働時間数】の説明は後段にて。

①休業手当総額×助成率÷②所定外労働日数差引休業等延べ日数×③所定外労働日数等差引休業等延べ日数

上記の計算式が助成金の計算方である。

具体的な数字を挙げて計算してみる。

休業手当が100,000円だとして、休業日数が20日、所定外労働時間数が1日だった場合は

100,000円×2/3÷20日=3333.33…円 →3,334円×19日(20日-1日)=63,346円…α

それと、雇用保険法16条に規定する基本手当の1日の最高額とを比較する。*1

8,490円*2×19日=161,310円…⑤

αと⑤の少ない方が採用されるので、63,334円<161,310円となり、助成額は63,346円になる、という寸法である。

これはわかりやすい例なので、実際はここに教育訓練関連(助成率と加算)と、所定労働日数が変更した場合(0302aハ)の対処が加わることになる。

代表的な1日の所定労働時間とは

様式5号(3)でも書いてあるのだが、1人あたり、1日あたりの所定労働時間をそれぞれ計算して最後に合算する必要はなく、代表的な1日の所定労働時間を割る形で良い、ということになっている。これは簡易的な計算方法ともいえる。

この代表的な所定労働時間数というのは、要するにその会社の所定労働時間をバラバラわけるのではなく1判定基礎期間ごとに1事業所あたり1つの所定労働時間にしようとすることであろう。

雇用保険被保険者にはパート労働者という正社員より所定労働時間が短い人もあるし、シフト制の場合は1日当たりの所定労働時間が異なる場合もあるからであろう。以下、その代表的な1日の所定労働時間の算出方法について、支給要領より引用。

0207 代表的な1日の所定労働時間

就業規則等(就業規則のない事業所については、労働条件通知書等)に規定されている1日の所定労働時間とする。

ただし、月ごとに異なる場合は判定基礎期間に係る月(暦月と判定基礎期間が異なる場合は、判定基礎期間の初日が属する月)の末日時点の所定労働時間とする。

対象労働者ごとに適用される所定労働時間が異なる場合は、

最も適用される人数の多い所定労働時間とし、

所定労働時間が異なる者の数が同数である場合は、

同数となっている所定労働時間の合計を当該所定労働時間の「数」で除す(端数がある場合は、端数切り捨て)。

例:所定労働時間8時間、所定労働時間6時間の者がいずれも10人である場合の代表的な1日の所定労働時間 (8+6)÷2=7時間 (注釈:要するに平均値)

ハ 対象労働者の勤務形態により適用される所定労働時間を一意に特定することが困難である場合は、月の所定労働日における所定労働時間を加重平均し、当該労働者の所定労働時間とすることができる(端数がある場合は、端数切り捨て)。

例:所定労働時間8時間が8日、7時間が7日、6時間が6日の場合の当該労働者の所定労働時間 (8×8+7×7+6×6)÷21=7時間 

ザックリいえば、まず、最優先なのが、就業規則等文書で定められている所定労働時間。

人によって所定労働時間が違う場合は、一番多い所定労働時間。

それ以外は平均値を求めることになる。

こんな計算の具体例が支給要領に前にはなかったと記憶しているが、コロナ禍を経て、こういう計算方になったらしい。

就業規則や労働条件通知書と実態は違う場合はどうなるか?助成金を多くもらうために都合よく所定労働時間を変えないようにいるのだから、実態にあわせて就業規則や労働条件通知書を改正すべきであろう。

実労働時間はその日その日の客数で決まる場合はどうなるかというと、所定労働時間を就業規則等で、定めていない会社は労働基準法違反の可能性が高いと思うので、対応方は私にはわからない。

1日単位でない休業、教育訓練の場合の1日換算の計算方

休業等については、1日まるごとというわけでなく労働時間を短くする短時間休業、短時間の教育訓練も認められている。その場合の1日換算の計算方については支給要領0301bハに定められている。0301bハは休業等規模要件を定めた規定であるが、その中に短時間の場合の計算方が定めている。以下、引用(注釈:カッコがあってわかりにくいので一部加工)

要するに、短時間休業、短時間教育訓練の1日換算も、残業相殺の1日換算同様、総時間数を代表的な1日の所定労働時間で割る形である。尚、短時間休業の場合は1時間以上、短時間教育訓練以上の場合は2時間以上である。

0301bハ 休業等の規模 
判定基礎期間における対象労働者に係る

①休業等の実施日の延日数

②短時間休業・・・当該休業の延時間数を代表的な1日の所定労働時間で除して得た数を休業の日数

③短時間訓練*3・・・当該教育訓練の延時間数を代表的な1日の所定労働時間で除して得た数を教育訓練の日数として算定するものとする。

以下「休業等延日数」という。

が、当該判定基礎期間における対象労働者に係る所定労働延日数に15分の1(中小企業事業主にあつては、20分の1)を乗じて得た日数以上となるものであること。(休業等規模要件)

計算方にでてくる0402aハとは、年間所定労働日数の増加分である

上記の支給要領の計算方にでてくる0402aハを引用する。この規定は所定労働日数が増えた場合は、その増えた日数分は残業相殺同様、休業等日数から差し引くよ、と規定しているのである。

これはどういうことかというと、例えば年間所定労働日数が240日の会社があったとする。土日だけでなく祝日や夏季休暇、年末年始を休みにする会社はこれぐらいの所定労働日数になったりする。

そして、いざ今年度休業するにあたり、この祝日や夏季休暇は法律上休みにしなくていいんだから、祝日や夏季休暇、年末年始休暇を休みにせずに、年間所定労働日数を260日にして、その代わりに20日分”休業扱い”にすれば、助成金が増えるんじゃね?というのを防ぐためのものであろう。

尚、土日とか祝日の曜日配置により所定労働日数が前年より数日増えた場合は、合理的な理由がある増加だと思うので考慮しなくて良いだろう。

計算方は残業相殺とほぼ同じであるが、1年比較で1月あたりに置き換えるが12で割り、かつ端数切捨てであるため、わずかの日数増加の場合、計算してみたら影響なし、という場合もあるかもしれない。

0402aハ 直前の1年間と比較して所定労働日数が増加している場合の取り扱い

対象期間の所定労働日数が、合理的な理由なくその直前の1年間よりも増加している場合については、当該増加日数分に当該事業所の年間平均被保険者数を乗じて12で除した数(端数切捨て)を、当該事業所の判定基礎期間ごとに休業等延日数から差し引き、当該日数を助成金の対象とする。

具体的には、休業手当等総額に助成率を乗じた額を

0402a ロ及びハによる差し引き前の休業等延日数で除した額に

0402a ロ及びハによる差し引き後の休業等延日数を乗じて得た額と、

法第16条に規定する基本手当の日額の最高額に当該差し引き後の休業等延日数を乗じて得た額を比較して、いずれか少ない方を支給額とする。

小数点以下の対応

これは様式5号(3)で記載がある。小数点切り上げが基本のようだが、たまに小数点第2位切上のものもある。どのタイミングで切り上げるかは、このExcelかPDFの様式の記載を見たらわかるが、実際のところは紙に直接記載しないかぎり、Excelで自動計算される。想定と数円程度違うなと思ったら、この小数点以下の切り上げのタイミングでの違いであろう。

ちなみに、助成金は共通要領に基づき100円未満切り捨てのものもあるが、雇用調整助成金助成金上100円未満切り捨てではないようである。

まとめ

以上正直、様式5号の2の計算式がぱっと理解できなかったので、支給要領で確認してみた結果のようなものである。

ではどの時間が所定労働時間外時間なのか、という点については、ガイドブックに書いてあるのでそこで参照してもらった方が早い。1日、1週の所定労働時間が決まっている会社は簡単なのだが、シフト制とか、変形労働時間制とかフレックス制とか入るとちょっと難しくなるし、その仕組みについては労働基準法の分野になってくるのだが、自社で例えば変形労働時間制を採用されている会社は、残業代計算の時や今は働き方改革の結果、時間外労働時間を把握しないといけないので、私より実際の給与計算の担当者などの方が詳しいだろう。ただ、気が向いたら(アクセス数があったら)記事にするかもしれない。

尚、この時間外労働は、法定外時間外労働ではなく、所定外労働時間外労働であるので、割増がない法定内所定外労働時間も含まれる。当然、休日労働も。そこは気を付けないといけない。

*1:注釈:これはいわゆる「失業手当」のこと。失業した場合に受給する場合との公平性を期すための措置だろう。雇用調整助成金は失業してもおかしくない状況下の事業所が計画・申請する助成金。事業所の判断で休業ではなく、失業する人もいるだろう。

*2:令和5年8月1日の基本日額の最高額。毎年8月に変わる。令和6年8月1日以降変更する可能性が高い

*3:所定労働時間の全一日より短く、2時間以上の教育訓練をいう。