巧遅は拙速に如かず

仕事、メンタル、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

人生80年だが、30歳までに決まる?

SNSを見ているとこんな投稿がタイムラインに表示されていた。

「人生80年というが、30歳までに人生は決まる」

こんな一行で収まるような文章に、あれこれ言うこと自体が野暮だ。よってこのイラストで一言でよい。

これでこの話は終了。

…といいたいところだが、せっかくなので、この内容に関して私見を述べる記事を書いてみることとする。

どうやら、この言葉とは別に、人生は30歳までに努力しておかないと、とくに大学受験をする高校3年生の時だけ勉強を頑張るだけでは意味がなく、そのまえの中学校からの6年間勉強を頑張って、いい大学に入れれば、あとの61年間(19歳から80歳までの間)は楽ができる、といいたいような投稿も見られた。

ある意味正しい場合もある。

前回の記事でオリンピックの記事を書いたが、日本代表になれるほどの人は中学生どころではなく、小学生、いや、小学生になる前からそのスポーツの英才教育を受けた人間の中から選ばれている、という競技がかなり多い。30歳どころではなく、10代になってからではもう遅い場合もある。

子供を多く生みたいのなら30歳になってからでは遅い場合もある。いくら医学が発達しても、30歳を過ぎてから相手を探していたら、いいお相手はもう既婚者だと嘆く場合もある。

研究者になる場合もそうだろう。理系の大学院に行って専門性をもってそれなりの研究のできる企業か公的な研究所に就職できなければ、30歳を超えてから、さあ理系の研究をしようと思っても遅いだろう。

たいていのビジネスパーソンもそうだ。30歳になるまでには、社会人としての基本を押さえて、経験を積んで、スキルを手にして、自分の得手不得手を理解し、ビジネスの場で渡り合わなければならない。30歳まで遊んでおいて、嫌なことから逃げてチャレンジもせず、機会を逃してばかりでは、30歳を超えてから「未経験です」といっては難しい職種、業種もあるだろう。

あるいは大学、大学院卒業後に世界と勝負できる大企業に入らないと、30歳以降から急に入ろうとしても難しいだろう。そういう企業に入るチャンスを少しでも高めるためには、偏差値の高い大学に入る方がいい場合も多いだろう。

だから、30歳までに人生が決まるというのは概ね正しい。

だが、この思想というのは実は危険だということが私は経験上知ることになった。

私も努力し、30歳ぐらいまでは世間受けする順風満帆な人生を歩んでいた。ところがメンタル疾患という病気のせいで安定と世間受けのある道から転げ落ちた。

私の場合はメンタル疾患であるが、他にも病気やケガの可能性もあるし、事故、事件、災害に遭遇する可能性もある。どこぞの知事の疑惑ではないが、急にパワハラにあって上司の方が強く、退職せざるをえなくなりこれまでのキャリアを捨てないといけない場合もある。

人生は思うようにいかない。30歳以降でどうにもならない理由でどこかで躓く可能性があるわけだ。そして、それまでの培った経歴やそれまでの努力は水泡となし、他の職種では活かされない特殊な世界に居た場合は、未経験者という、それまで無職だったかのような扱いで転職し、一からやり直す必要が出て来たりする場合もあるのだ。

そこで人生の軌道修正が求められる。それまでの30歳で培ってきた、着実に歩んできたキャリアを捨てるほどの軌道修正もありうる。

その時、人生は30歳までに決まる、という考えでいたら、あなたの人生はどうなるだろうか?そう、30歳までに何もしなかった人間、失敗したと同じ扱いになる場合もある。その場合、人生をあきらめるのだろうか?30歳までに決まるという考えに固執するならば、30歳以降に一度でも躓いたらい、躓いた時であなたの人生は終了だ。

そう、この考えは30歳までに築いたものを捨て去る勇気や覚悟を失わせる考えなのだ。また30歳以降変化をすることができず、安定を求め、チャレンジもせず、我慢して、ソーシャルワーカーとか他の職業を底辺と見下して、他の人に支えてもらえていることも理解しない独りよがりで世間受けばかりを気にして残りの60年を生きることだ。それが正しい人生か?あなたの望んだ人生か?

30歳以降なんの挑戦もせず、怠惰に、のほほんと、築いたキャリアにしがみつくために生きるのがよりよい人生なのか?一度も躓かないようにして80歳ぐらいになったら、大過なく他人を蹴落としてしがみついて世間受けした人生を過ごせたと満足できたと思えるか、そうやって生きることがあなたが望んでいることなのか?私は31歳から80歳までただ生きているだけの人生にしか見えないが。30歳まで怠惰に生きた人よりも長く怠惰に生きているように見えるが。

30歳までに決まる、というのではなく、”今”にフォーカスして、後になって後悔せずに今したいこと、成し遂げたいことのために”今”未来に向かって行動することこそが重要なのでは?と思う。

今にフォーカスするならば、30歳まで、という考えに固執するのは無意味だろう。ずるずると引き延ばしていてはいけないし、人生において本気で何かに挑戦したという経験を若いうちにやっておかないと、年齢を重ねた後にいざ挑戦したいときに経験がなく失敗しやすいという意味で年齢制限には意味があるが、人生においては年齢だけではない。

年齢がいくつになっても挑戦できる、という綺麗ごとをいうつもりはない。先に述べたようにチャレンジしたいと思ったときには時既に遅し、という場合もあるからだ。ただ、人生は30歳までで残りの50年は確定しない。いつだって、今、明日、来週、来年状況が変わるかもしれない。

それに今慌てて失敗する場合もある。情報を整理し、状況を分析し、慌てる時じゃない場合もある。即行動、という流行り言葉を鵜呑みにし新NISAになってから株を買って、今慌てているようなものだ。

いつやるのか?今でしょ。または、これからでしょ。様子見でしょ。

今、自分が置かれた状況で何をやるか、または、あえてやらないかだよ。