「キャリアアップ助成金」の「賃金規定等改定コース」の続き。
興味のない方用に、ここで区切る。
前編は下記リンクより。最低賃金に関する部分やキャリアアップ計画については前編参照。
まず最初にお断り。
以下の記述で、まるで確定している、これが正しいかの表現をしている箇所があるが、この匿名ブログはあくまで私見であり、内容の保障はできない。あくまで私個人の意見としてご覧いただきたい。
言い訳をすると、文章の語尾に”らしい”、とか”思う”とか書きすぎると文章と読みにくかったのがその理由である。
正しい情報は、都道府県の労働局、顧問の社労士*1など、しかるべき機関か専門家にてご確認いただきたい。
最初に私見
職務評価加算について
また最初にお断り。このコースは「職務評価」をすることで、助成金額が加算される仕組みになっているが、この「職務評価」については記載を省略する。
というのも、そもそも有期雇用契約者、所謂パート労働者に対して「職務評価」をすることがすべての事業所に適しているとは、私には思わないからである。導入するのには無理がある会社もあると思うから、ぶっちゃけ、加算分はあくまで利用できるところだけ。
そもそも、パートの時給をどう決めるかというのは、その人の個人の人事評価、能力評価が最優先されるというわけではなく、その事業所の置かれている状況によるところが大きい。具体的には売上、利益、競争相手、採用率や離職率、そして最低賃金法という、労働者個人の仕事の評価以外の要素が絡み合って時給が定まるものだ。
もっとも、この「キャリアアップ助成金」の存在する理由、そして助成する趣旨は、非正規雇用の処遇改善のため。非正規も正社員と同様に扱うことを国が政策目標としていて、そのために助成しているのだろうから、「職務評価」を導入することが悪いことでは決してない。ただ、「職務評価」までできるならば、いっそのこと評価の高い人は正社員転換したらどうかとは思うが。
このコースに対する私見
そして次に、このコース自体の私の考えをまず述べておく。
このコース専用の支給要領はわずか4ページと数行しかないため、例えば他のコースの「正社員化コース」と比較すると、支給、不支給の要件の確認は、それほど難しくないように見える。
また、「社会保険適用時処遇改善コース」ほど専門用語や、独自に定義した用語が多い訳でもないし、あらかじめ社会保険に関する知識がなければ太刀打ちできないものではない。
よって、他のコースと比較すると、取り組みやすい…ように見える。
だが、実際に就業規則等で基本給を定めておいて、運用できるかというと疑問がある。
「有期雇用労働者等」言い換えれば、パート労働者が僅か数人しかいない事業所で、事前にきめた「賃金テーブル」に則って時給を決められるだろうか?
あらかじめ、労働基準監督署に届け出ている「賃金規定」に時給をあわせないといけないという、このコース自体が会社にそぐわない場合が多いのではないかと思う。
助成金を獲得するために、「賃金規定」で定めた賃金テーブルに時給を無理やり当てはめようとすれば、制度自体が破綻したり、事務負担が過大になったり、他の手当で補填して給料が複雑になったり、時給を状況に合わせて柔軟に決められないことでパートアルバイトが退職したり、集められないかもしれない。そうなったら、この制度を導入することが足かせになりかねない。
おそらく、ある程度の規模があって、時給決定のノウハウを持っている会社ぐらいしか、このコースにはあわないのではないかと思う。
もっとも、助成金というのは、ユーチューブとかを見ればわかるように、労働者が僅か数名のところに薦めている場合が多い。その理由は資金繰りに使え、人数が少ないと管理もしやすいためだ。小さい会社や立ち上げたばかりの会社にとって、数十万円の利益と現金は価値がある。ただ、それが趣旨にあっているかと言うと疑問だが、どんな事業所、たとえば個人事業主であろうとも利用すること自体は違法行為でもなんでもない。
とまあ、このコース、いや「キャリアアップ助成金」の利用に私は否定的だが、「キャリアアップ助成金」の他のコースの記事と比較してアクセス数が多い。以下記すように助成金額も悪くないから、需要があるのだろう。せっかく調べたし、乗り掛かった舟だし、以下、内容の説明と私見を記すことにする。
前置きは以上。
概要
以下の説明は、厚生労働省のホームページで公開されている支給要領を引用して説明することにする。引用先にリンクは貼っていないので、実物は実際のホームページで確認してほしい。
尚、最低賃金に関しては前編で書いたので、そちらを参照されたい。
3001 概要
- 就業規則又は労働協約の定めるところにより、
- その雇用する全て又は一部の有期雇用労働者等の基本給(※1)
- に係る賃金に関する規定又は賃金テーブルを3%以上増額(※2)改定し、
- 当該賃金に関する規定又は賃金テーブルに属する全て又は一部の有期雇用労働者等に適用すること。
※1 原則として、就業規則又は労働協約において基本給として定められ、時間外労働手当や賞与等の算定基礎となっており、職務内容・本人の能力等によって決められるもの。
※2 最低賃金法(昭和34年法律第137号)第14条及び第19条に定める最低賃金の効力が生じた日以後に賃金規定等を増額した場合、当該最低賃金に達するまでの増額分は含めない。
上記の1から5は私が説明する便宜上数字を付けた。要件の大前提としてこの5つを満たすことが重要となる。
1 就業規則または労働協約に定められたものでなければいけない
ここの規定に”等”という文字はない。就業規則、労働協約のどちらかに定めないといけない。労働契約、労働条件通知書、はたまた社内の内規、実際に支払った金額(賃金台帳)を提出して代用してもダメであろう。
尚、「就業規則」のなかで、賃金に関する規定は別途「賃金規定」に定めるという規定があり、その移管をうけて「賃金規定」がある場合は、その「賃金規定」も労基署の届け出している場合は「賃金規定」でも可能である。あくまで、就業規則が本則で、賃金規定は附則という位置づけだからである。(届出義務のない労働者10人未満の事業場の場合を除く)だからこそ、添付資料に就業規則と賃金規定の両方が必要になっている、と理解している。
2 その雇用する全て又は一部の有期雇用労働者等の基本給を改定すること
ここは前編と内容がかぶるが、以下の3つが重要である。
①有期雇用労働者等が対象であること。尚、この”等”は無期雇用労働者を指す。そして正社員は対象ではない。
②全て又は一部と書いてあるが、この”又は一部”については任意の一部ではダメなこと。
③”基本給”であること(他の手当ではないこと)。
3 賃金に関する規定又は賃金テーブルを3%以上増額改定すること
これも前編とかぶるが、賃金に関する規定又は賃金テーブル(この2つのことを「賃金規定等」と定義している)に基づくことが重要で、労働条件通知書に書いてあるとか、内規とかではダメである。
また「増額改定する」という意味は賃金規定等を改定し、かつその規定又はテーブルにその基本給の金額が定めてあって、それに基づいて基本給が支払われていることが確認できないとダメという意味である。金額があって、その金額に一致しないとダメである。
あと、当然、賃金テーブルを増額改定しただけでもダメで、実際昇給していないといけない。
4 当該賃金に関する規定又は賃金テーブルに属する全て又は一部の有期雇用労働者等に適用すること
これは要するに、この賃金規定等を適用しない有期雇用労働者がいる場合はダメ、ということである。
例外となる有期雇用労働者等がいる場合どうなるかについては不明。
支給対象事業主
これも、支給要領3002から引用する。
その雇用する全て又は一部(雇用形態別又は職種別その他合理的な理由(※1)に基づく区分に限る。以下同じ。)
の有期雇用労働者等
(賃金規定等を増額改定した日(賃金規定等の増額を適用した日)の前日から起算して3か月以内に雇用された有期雇用労働者等を含む。以下同じ。)に適用される賃金に関する規定又は賃金テーブル(以下「賃金規定等」という。)を作成している事業主であること。
※1 雇用する有期雇用労働者等に適用される改定前の賃金規定等の等級等のうち、最低賃金の改定に伴い、改定後の最低賃金を下回る等級等のみを改定する場合を含む。
有期雇用労働者等の一部だけ増額改定する場合については合理的な理由が必要
これも内容が前編と被るが、原則は有期雇用労働者等全員を増額改定する。一部だけ増額する場合については、合理的な理由がある場合に限る。
この”限る”が重要であり、合理的な理由がない場合は、支給対象事業主に該当しないので不支給となる。
さて、その合理的な理由であるが、そもそも合理的な理由というのが主観的というか、曖昧な判断。合理的かどうかの判断を支給申請書を提出した後の審査に委ねるのは、実際の賃上げを不支給になったからと言ってもとには戻せないので、できれば避けたいところ。
この支給要領で3つ例示されている。つまり、この3つに関しては合理的な理由と認められる可能性が高い。
その3つとは、以下のとおり。
①雇用形態別
②職種別
③最低賃金を下回る等級のみ増額改定
…何、わかりづらい、って?では、ホームページにあるQ&Aを引用することにする。
Q-3 一部の労働者のみ昇給予定ですが、注意点はありますか。
A-3 一部の労働者に限定する場合、合理的な区分による必要があります。
合理的な区分とは以下のようなものがあります。・雇用区分(正社員、パート、アルバイト等)に応じて賃金規定等が存在する場合であって、当該一部の雇用区分に適用される賃金規定等のみ増額改定する場合
・雇用保険の非該当承認施設において独立して賃金規定等が存在する場合であって、
当該賃金規定等のみ増額改定する場合・業務レベルによる区分(初級、中級、上級等)が存在する場合(例:職種ごと等)であって、当該一部の業務レベルの賃金規定等を増額改定する場合
Q-4 賃金規定等改定の対象者について、たとえば
「有期雇用労働者のうち、賃金バランスを鑑み 60 歳以上の定年後再雇用者(雇用区分:シニア(再雇用))を除く。」とした場合、
助成金の支給を受けられるのでしょうか。A-4 年齢のみの理由をもって対象者を限定することは認められませんが、
本設問のように雇用形態や職種別などの合理的な理由によって対象者を限定している場合には、支給対象となり得ます。
Q-6 全ての有期雇用労働者等を対象に、3%以上増額改定を行ったが、
勤務態度等を理由として、
結果として全ての有期雇用労働者等の賃金が3%以上増額できなかった場合、
支給を受けられるのでしょうか。A-6 本コースの支給を受けるためには、賃金規定等を3%以上増額改定した上で実際に改定後の賃金規定等に基づき給与を支給する必要がありますので、賃金規定等を3%以上増額改定していない場合は支給対象とはなりません。
他方、改定後の人事評価のため適用等級が降級した等によって増額率が3%を下回る者については、対象労働者から除いて助成を受けることができます。
(人事評価の結果が確認できる書類を追加提出いただきます。)
要するに、職種別、雇用形態別、または非該当承認事業所に「賃金テーブル」が分けて定めている場合に関しては、対象となりうる、ということである。
つまり、雇用形態別、職種別といっても、例えば
・労働時間の短いパートはそのままだけど、フルタイムで働いている有期雇用労働者は3%上げるとか、
・求人の集まる事務職はそのままだけども、人手不足の現場の職人は3%上げるとか、
・金額が高い60歳以上だけ3%あげないとか
は、雇用形態別、職種別で分けているけれども、不可=合理的な理由とはいえない、ということだろう。
単に、雇用形態別、職種別だけではダメでそこに明確な賃金規定等の区分けがあるという合理的な理由が必要なんだろうと思う。
後Qー6は、同じ等級の場合は、どんな理由があろうとも増額改定した賃金を支払っていないといけないが、等級が下がっていて、かつ、その等級が下がった理由が判明している場合は例外となる、という意味だと思う。
…だから、合理的な理由、という基準は私は好きではないのだ。事業所の説明能力と労働局側の理解力、という関わった人間の能力次第基準という面があって、例え同じことを別の会社でしても、文章作成能力、説明能力、そして労働局側の力量で非合理と判断されうるからである。これについては、後編でも記述する。
対象者だけ昇給するだけではない。等級全てを増額改定しないといけない
以下、引用
ロ 当該全て又は一部の賃金規定等(※2)を3%以上増額改定
(新たに賃金規定等を整備し、当該賃金規定等に属する全て又は一部の有期雇用労働者等の基本給を、整備前に比べ3%以上増額する場合を含む。以下同じ。)し、
当該賃金規定等に属する全て又は一部の有期雇用労働者等に適用し昇給させた事業主であること。※2 原則として全ての等級等
概要を詳細に規定したともいえるし、新規に賃金規定を作る場合はどうするか?を規定したともいえる。
※2も重要で、対象労働者全員という規定もあるが、全ての等級等も増額改定しないといけない。つまり、今だれもいない等級も3%以上あげる、ということだろう。
事務負担が結構あると思う。計算、記入間違いをして3%あがっていない場合は不支給になるかは不明。
3%以上増額改定の比較方法(増額前)
以下、引用
ハ 増額改定前の賃金規定等を3か月以上運用していた事業主であること
(新たに賃金規定等を整備する場合は、整備前の3か月分の有期雇用労働者等の賃金支払状況が確認できる事業主であること。)。
3%増額改定している、ということは比較する前後の数字が必要。ハは、その前の数字についての規定である。前については3ヶ月間の数字が使用される。
新たに賃金規定を作っていて、前の部分の賃金規定がない場合は賃金支払が確認できるもので比較する。
3%増額改定の比較方法(増額後)
以下、引用
ニ 増額改定後の賃金規定等を6か月以上運用し、かつ、対象労働者について、定額で支給されている諸手当(※3)を増額改定前と比較して減額していない事業主であること。
※3 名称の如何は問わず、実費弁償的なものや毎月の状況により変動することが見込まれる手当も含む(以下、3000~6000の各コースにおいて同じ。)。
次は増額後の数字についての規定である。増額後は6か月間である。
尚、かつ以降もかなり重要。増額後の6か月間に定額で支給されている手当は固定的な手当も減額していないことが要件である。
そりゃそうだ。例えば基本給を3%上げて、〇〇手当を3%下げて支給額は一緒になったら意味がない。
ただ要注意なのは、手当が多いところとか、月によって減額したりするケースがある手当がある会社。そして、比較前には手当のことの記述がないこと。実質弁済となると、労働基準法上の”賃金”ではないのではないか?と思うのだが…。
その他
以下、引用。
ホ 支給申請日において当該賃金規定等を継続して運用している事業主であること
(但し、増額改定後であって最低賃金の引上げに伴う変更は除く。)。
これは多分「6か月経過した。はい、この賃金規定の運用は終了」ということをしていた事業所があったのだろうと邪推した。助成金目当ての賃金規定はダメよ、ということ。支給申請日時点なのは、どこかで区切らないと、賃金規定自体の見直しもできなくなるからだし、ずっと監視しないといけなからではないか、とこれまた邪推した。
尚、ヘ は職務評価についての規定なので省略。
対象労働者
このコースの対象になる労働者の説明。
前3ヶ月、後6か月雇用されている有期雇用労働者等
以下、支給要領を引用
3003イ 賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3か月以上前の日から増額改定後6か月以上の期間(勤務をした日数が11日未満の月は除く。)継続して、支給対象事業主に雇用されている有期雇用労働者等であること。
対象労働者は、有期雇用労働者等であり、かつ増額改定前後で前3ヶ月、後6か月継続して雇用されている人が対象となる。増額改定の直前に雇用された人は対象外だし、増額改定後に6か月以上雇用されていない有期雇用労働者等も対象外。
また、この前後9カ月に有期雇用労働者等でなくなった人、例えば正社員になった人も対象外であろう。
ちなみに、11日未満の月を除くのは、キャリアアップ助成金特有のルール。なぜ11日?と桃う人は、雇用保険法のいわゆる失業手当の支給基準と雇用保険の加入義務のある週20時間勤務を下回るから、と思っておけばよい。10日以下の月が1月あればその1月がカウントされない、つまり、6か月間が1ヶ月分ズレるだけ。不支給になるわけではない。ただ、提出時期とかがややこしくなる。
雇用保険被保険者が対象。ただし、増額改定後から加入でもよい
ニ 賃金規定等を増額改定した日以降の6か月間、当該対象適用事業所において、
雇用保険被保険者であること。
ガイドブックでは有期雇用労働者等と表記しているが、原則、雇用関係助成金は雇用保険被保険者が対象。そりゃ、原資は雇用保険なのだから、当然と言えば当然。
注意するところは、雇用保険被保険者であるのは増額改定日以降6か月間、と規定されているところ。つまり、比較前の3ヶ月間は雇用保険被保険者でなくても良い。よって、増額改定する前には被保険者でない週所定労働時間20時間未満の有期雇用労働者でもよい、ということになる。
また、増額改定後6か月間の間に雇用保険の加入から外れてもダメである。退職しない場合合は”所定”労働時間ベースでいいでしょ?と思うと落とし穴がある。例えば有期雇用労働者、つまりパート労働の人でこの6か月間の間の勤務が週20時間未満の状態が続いていれば、雇用保険の加入から外される可能性があるということである。まあ、月11日未満の勤務を除くので、月10日以下の勤務、だいたい月86時間未満の勤務が続くと、6か月が経たないので、今後もそのような労働時間になる場合は、雇用保険から外れる、つまり、助成対象から外れる可能性がある。
この雇用保険に加入するか喪失するかどうかは、助成金とは別の問題だし、公共職業安定所(今は電子申請?)が決めることだろうから、これ以上の説明は省略。
あと、当該事業所において、というところも重要。転勤届とか出向とかで注意が必要。
その他
以下の要件はまとめて説明する。まずは引用。
ロ 増額改定した賃金規定等を適用され、かつ、増額改定前の基本給に比べて3%以上昇給している者であること。
ハ 賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3か月前の日から支給申請日までの間に、合理的な理由なく基本給及び定額で支給されている諸手当を減額されていない者であること
ホ 賃金規定等の増額改定を行った事業所の事業主又は取締役の3親等以内の親族以外の者であること。
へ 支給申請日において離職していない人
(本人の都合による離職 及び 天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったこと 又は 本人の責めに帰すべき理由による解雇を除く。)
ロ、ハは既に記述済みなので省略。
ホは、文字通り、代表や取締役の親族は対象外、ということである。そりゃ、身内の給料を助成金で補填するならば上げるでしょ?という話。特に、親族だけで運営している小さな事業所。いつの時点の代表や取締役かは別に紹介があるので、ただの転記はやめておく。
へは、増額改定後6か月間働いていても、6か月経過後(の給料支払日)から支給申請日の間の2カ月間程度の間に離職していたら、理由によっては対象外となる場合があるよ、ということ。
さて、有期契約労働者で、ちょうど契約期間の満了日が6か月から支給申請日の間にあって離職する場合は、よくわからない。
助成金額
まずは引用。ただし読みづらいので、文章を省略する。
3004 支給額
次のイからハまでに掲げる区分に応じ、それぞれ当該区分に定める額を支給する。但し、同一支給申請年度における支給申請上限人数は、
1適用事業所当たり合計100人までとする(支給申請を取り下げたものを除く。)。イ 全て又は一部の賃金規定等を3%以上5%未満増額改定
対象労働者1人当たり
中小企業 5万円 大企業 3.3万円ロ 全て又は一部の賃金規定等を5%以上増額改定
対象労働者1人当たり
中小企業 6.5万円 大企業 4.3万円ハ 職務評価を経て行われた場合は、職務評価加算として1適用事業所当たり次の額を加算する。なお、当該加算は、1適用事業所あたり1回限りとする。
中小企業 20万円
大企業事 15万円
会社としての上限
ここで雇用保険適用事業所を支店ごとにわけていると、会社として申請できる上限が増えていく寸法である。この適用事業所は法律上決まっているので会社の任意で決められるものではないのだが、本社で一括して1つの適用事業所にしている場合がある。複数の都道府県に支店や店舗を持っていて、適用事業所がわかれていると、提出するのが各都道府県でわかれてしまうし、提出する事務負担も増えるから避けようとするところもある。(各都道府県で意見が違ったりするの場合もある)
だが、助成金を受給するとするならば、きちんと支店ごとに分けていた方が何かと都合が良い。またこのコースは対象となる有期雇用労働者全員の増額改定が原則だから、リスク軽減にも良い。もっとも、転勤があったりすると面倒なのではあるが…。
助成金の具体的な計算(合っているかは疑いあり)
なぜだか知らないが、助成金額が1人当たり〇円と定額である。対象が3%以上増額という率の計算なのに、助成金は増額×〇%でなく、1律固定金額である。となると、1人当たりの増額と助成率は変わってくることになる。
ひとつ例を挙げてみる。
例A 週40時間労働の有期雇用労働者の時給を50円増額改定
この場合1年間の賃金増加率は以下の通りとなる。
50円×40時間×52週*2=104,000円…①
この時、中小企業で3%以上5%未満の増額である場合の助成金は
5万円…②
②÷①=48% となる。増加分の約半分が助成されることになる。
具体例B Aの増額率が5%以上の場合
今年の最低賃金の増加率は5%以上が多いので、5%以上増額改定するとなると、
65,000円…③
③÷①=62.5%となる。賃金増加分の6割超を助成金で賄えることになる。
具体例C Aの1週の所定労働時間が20時間の場合
尚、有期雇用労働者は週の所定労働時間が正社員より短い場合が多い。例えば週20時間勤務*3の場合は
50円×20時間×52週=52,000円…④
②÷④=96%、③÷④=125% となる。つまり、助成金で殆ど賄える。
勿論、社会保険料(加入している場合)や雇用保険料、労働保険料の会社負担も増加するので、賃上げにかかる会社負担の全額を助成金で賄えるとはいわないが、かなりの高助成金率といえるのではないか?
しかも、1回限りではなく、1年度ごと支給申請できる。この助成金額をみると、検討する価値は十分ある。
…さすがに助成金額が増額分を上回るのはおかしいのでは?私の勘違いかもしれないので、タイトルに疑いアリと書いている。私の理解が正しいかは読者が確かめてほしい。
尚、だったら有期雇用労働者100人全員増額してしまえ、というのはちょっと危険。前編から書いているように、対象は全員が基本で、一部だけ増額しても対象となるのは限定的である。つまり、全員分助成金が不支給となる場合もある。全員規定通り増額しても、何かの不支給要件で引っかかる場合もある。助成金ありきの安易な増額や賃金規定の設計はおススメしない。
だからこそ、前編からの繰り返しになるが、最低賃金の引上げという強制的な賃上げが法律上不可避の時に検討する価値があるのでは?というのが私の意見だ。
職務評価
制度設計に手間がかかる上に、1事業所1回限り固定金額である。説明省略。
まとめ
この時点でまたしても1万字越えになった。よって後編に続く。支給申請の様式や、私の疑問点などを後編に書くつもりである。