巧遅は拙速に如かず

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雇用関係助成金の私見㉛ 厚生労働省 令和7年度予算 概算要求をみた初見の感想

たまに、はてなブログから「1年前のブログを振りかえりませんか?」というメールが届く。すると、約1年前、「令和6年度予算概算要求を見て」という記事を書いていたことがわかった。

「!そういえば、8月末にホームページに予算の概算要求が公表されるんだった」と気づいて、厚生労働省のホームページを見たら、今年もすでに公表されていた。まさか1年前の自分に気づかされるなんて、すごいね、はてなブログ

と、前置きは以上にして、今年も来年度予算の概算要求がでていたので、その中の助成金に関する記事を読んでみて、思いついたことを書くことにする。尚、タイトルには「雇用関係助成金の…」と書いてあるが、今回は「労働条件等関係助成金」も一部取り上げる。

興味のない人向けに、一旦改行。

 

両立支援等助成金

まず目に入ったのが、この助成金である。概算要求が358億円で前年度181億円のほぼ2倍である。

育児と介護に関する支援をするのがこの助成金。複数のコースがあり、加算も多い。対象が中小企業なのが特徴。

今回の1枚紙をみると赤字下線が新規・拡充箇所の模様。

「育休中業務代替支援コース」が170億円ぐらい増加しているのでこのコースが概算予算増加の主原因。これは、対象となる事業主が常時雇用300人以下のところも対象になったのがだろう。

「介護離職防止支援コース」もほぼ前年度予算と比較してほぼ倍だが、こちらは6億円増加と金額ベースでみると小さい。育休同様、”業務代替支援”にも助成金が出るようになるということだろう。

不妊治療両立支援コース」が見当たらないが、廃止なのか、わかれたのか、書いていないのかは不明。*1

金額も大きいうえに概算要求額が倍増したこれが最注目助成金の1つなのではないか。

業務改善助成金

事業場内最低賃金の引き上げと、生産性向上に資する設備投資に関するこの助成金

こちらも概算要求が22億円と前年度8.2億円からの約2倍以上の増額であり、注目の助成金

助成率も変わるようだが、生産性要件がついに廃止される。

尚、「生産性向上に資する設備投資への支援の在り方については、労働保険特別会計での助成を含めて検討し、必要な見直しを行う。」という※の表記を見つけた。これの意味がちょっとわからない。労働保険特別会計での助成、というのがどういう意味を持つのか?

また「夏秋に重点化」、「地域間格差に配慮した助成率区分等の再編」という表現もある。もともと、最低賃金引き上げのタイミングの10月頃が一番多い助成金のはず。それがどう変化するのかは不透明。

キャリアアップ助成金

こちらは概算要求が962億円と前年度1106億円からダウン。それでも両立支援等助成金の予算額の3倍近いことから、特例でない雇用調整助成金を除けば、引き続き助成金と言えばこれ、ともいえるだろう。

多分、背景が黄色、赤色のところが変わった個所ではないか?

正社員化コース

あれ、2期目って制限があったっけ?と思ったのが第1印象。確認したら令和6年度は制限の表記は見当たらなかった。令和5年度の途中から、特開金みたいな2期目という概念が登場したのに、わずか1年ちょっとで制度変更。具体的には

①雇い入れから3年以上の有期雇用労働者
②雇い入れから3年未満の有期雇用労働者であって、過去から不安定雇用が継続した者
③人開金の対象訓練受講者、派遣労働者、母子家庭の母等

上記以外の正社員転換は1期のみ、つまり有期から正規の場合は、中小企業の場合80万円(2期分)だったのが、40万円(1期分)になっている。1期分だけならば、令和5年度開始当初は中小企業の場合は57万円だったので大幅の金額ダウンだろう。

母子家庭の母”等”の”等”に何が含まれるかは不明。(多分、父子家庭の父だと思うが)

思うに、入社半年や1年で有期から正社員にする場合は減額する形にした、ともいえる。

それはYouTubeとかで「最初の半年間はあえて非正規で雇って助成金を貰いましょう。人の入れ替えが多い事業所におススメ」と案内されていたぐらい、非正規雇用創設助成金。または正社員で雇っているのに偽装している不正受給(とSNSではいわれている)。または、正社員転換とは名ばかりの試用期間を非正規雇用契約にすれば助成金が貰えるというクソ仕様の助成金。非正規と正規の賃金の支払い方を変えようとすれば、非正規の賞与か退職金か手当をなくしてしまう、という助成金にたかる輩との厚労省のせめぎ合いが見られるこのコース。もはや初心者お断り。

3年間という長いスパンをとったのも含めてこの変更は私的にはいい案だと思う。もっと減額するか、または廃止してもよいぐらいだが、辞めないのは、性善説を取れば、本来の趣旨にあう会社も多いのだろう。

業務改善助成金もそうだが、もしかして、厚生労働省助成金を決めている人、YouTubeとかを見てる?またはYouTubeで紹介されるぐらいだから、そういうケースが多いというデータがあって対応した?

”過去から不安定雇用が継続した場合”というのがどういう定義なのかは不明。
ただ、新卒はこの定義に含まれないだろうし、また正社員雇用だった人が転職して非正規になって半年やそこらでまた正社員になるのは、助成金目当てに、試用期間を非正規にしているだけ、とも思える。(どうやって過去分を見分けるのかは不明)ただ、それなら、特開金の就職氷河期コースの改良で対応できるのでは?とも思う。

また、数年前は有期契約が3年以内の人しか対象にならなかった時期もあるので、善意でかつ不定期に正社員転換しようとする会社はますますついていけないだろう。

ちなみに1年前の概算要求の記事をみていたら、概算要求での変更内容から、途中の補正予算で内容が変わっているのに気づく。このことからも、概算要求での内容はあくまで概算であって決定ではないということがわかる。

他の助成金もそうだが、概算要求の話であって令和7年度からこうなる、というわけではないのでご注意を。正社員廃止論者の竹〇平蔵氏がブレーンの人が総理大臣になったら、正社員化コース自体が消えてなくなるかもしれないし。

賃金規定等改定コース

3%以上で1人5万円、5%以上で1人6万円という2段階から、3%以上4万円、4%以上5万円、5%以上6.5万円、6%以上7万円の4段階になっている。

助成額も増額改定が6%以上だと6.5万円から7万円に増額するが、逆に3%以上4%未満だと、5万円から4万円にダウンする。

また、加算分として「昇給制度」が創設される。

補足:年収の壁コールセンターの設置

「年収の壁」対応として「社会保険適用時処遇改善コース」というのがあるが、年金については年金事務所助成金については労働局、健康保険は保険者と問い合わせ先がわかれていた。これが新規予算「年収の壁コールセンター」の設置で問い合わせ先が一本化されるということだと思われる。前、年収の壁突破なんとか、ってなかったっけ?

正直、労働局に問い合わせたところ、「あなた、社会保険のことわかってます?」という的外れな回答をする人にあたってしまったので、一本化は良い案ではないかと私は思った。

だが、外部委託のコールセンターだったらまともな回答になるのか?と問われると、それはわからない。むしろ、外部委託だから回答に責任は負えないとかいって、回答したとおりやっても審査で不支給とかになる可能性もある。問い合わせを一元化してもうまくいかなかった、絵にかいた餅、ってやつになる可能性が、縦割り行政には良くある話である。

あと、自民党の総裁立候補者の中には、年収の壁自体を取っ払うという政策を掲げている人もいる。それが実現すれば、この助成金のこのコースがなくなる、もしくは助成金が存続していれば、爆発的に利用度が高くなる、のどちらかに振れる可能性がある。

人材確保等支援助成金

休止すると発表された時には廃止されるものと予想されていた「雇用管理制度助成コース」がまさかの再開。まあ、介護福祉機器が令和6年度に即廃止(経過措置はあり?)になったのにこのコースは休止中の表記のままだったことから、廃止はないな、という予想に変わっていたが、令和7年度に再開される模様。

そして同じく休止になって令和6年度に再開された「人事評価改善等助成コース」は、雇用管理制度助成コースの「人事評価制度」として統合。

ただし、ただの再開でなく、見直ししたうえでの再開。

というのも、休止する前の「雇用管理制度助成コース」の中には、「研修制度、健康づくり制度、メンター制度、短時間正社員制度(保育事業主のみ)」というのがあったがこの一枚紙にはなく、逆に職場活性化制度”など”という見慣れない表記がある。職場活性化制度とは?まあ”など”に何が入るかなど、どう”見直し”されるかは不明。また、概算要求の予算額は4億円なので、上に挙げた助成金の予算額と比較すると、う~ん、あまり利用されることは想定されにくいかもしれない。

ちなみにこの助成金全体の予算額は35億円から20億円にダウン。(ただし、この金額にいわゆる建設分野と外国人労働者、テレワークコースの金額は含まれない)

テレワークコースは令和7年度も存続する模様。コロナ禍中で実施済みと思ったが、まだ申請するところがあるということだろう。

特定求職者雇用開発助成金

就職氷河期世代安定実現コースは、令和6年度限りで廃止(経過措置あり)

中高年者安定雇用支援コース(仮称)が新設。

見直しではなく、廃止して新設した理由は中身がわからないので不明。 

「特定就職者」「成長分野コース」「発達障害者」「生活保護」の各コースは記載があるので存続予定だろう。なにか変わったかは説明も色もついていないのでぱっと見てもわからない。

人材開発支援助成金

一枚紙の左横に令和6年度との違いが書いてありわかりやすい。ほかの助成金もそうしろよ…。賃金助成が増額。例えば1時間あたり760円から800円に。960円のコースは1000円にアップ。計算しやすくしたのか、最低賃金引き上げを考慮したのかは不明。

経費助成は、人材育成支援コースの非正規の場合の助成率だけが変更。正社員化要件に関する訓練がこのコースの中の「有期実習型訓練」が限定される。

具体的には中小企業の場合

(令和6年度) 人材育成支援、有期実習型訓練 の2つとも

非正規のまま 60%、 非正規から正社員になった場合 70%

(令和7年度) 人材育成訓練  非正規 70%、有期実習型訓練 正社員化要件 75%

になる予定、ということだろうか?

ちなみに、パブリックコメントで「定額制訓練」の上限(1人あたり確か月2万円)を設定するというのを見かけたが、あれはいつのことだったろうか忘れた。ここに記載がないのは、令和6年度中にやるのか、予算には書いてないか、それともやめたのか、のどれかだろう。

賃金助成の単価と非正規の経費助成率が増えたのに、予算が623億円と前年度645億円からわずかに減るのは、上記の2つの理由が関係するのかもしれないし、単純に件数からの予測かもしれない。

助成金とは違うが「教育訓練休暇給付金」も創設する模様。教育訓練休暇付与コースが使いづらいせいか。

教育、職業訓練は、労働者が申請する「給付金」と、事業主が申請する「助成金」があり、どちらにも該当する訓練メニューがあり、かつ給付金も助成金も拡充中。どう使い分けているのか、ただ単に申請先と助成率とかの補助率が違うだけなのかはよくわからない。

産業雇用安定助成金

スキルアップ支援コースは存続。このコースはスキルアップを目的に出向させて戻ってきた後5%賃上げさせたら助成金がでるらしいが、グループ会社への出向には使えず、出向先には助成金がでないという、出向受け入れ先にどんなメリットがあるのかよくわからないコースなので、私は令和4年度途中に新設された際にはコロナ禍用の予算の残りで作ったのかと邪推していた。

27億円の概算要求があったので、令和7年度も存続させる模様。ちなみに、この助成金が創設された時のコロナ禍用のコースは令和5年度の途中にとっくに廃止済。(経過措置中)

途中から名前が変わった?気がする産業連携人材確保等支援コースは、概算予算のなかから私は発見できていない。出向ではなく、スキルを持つ人を雇い入れるコースなので、産業雇用安定助成金のコースの定義がよくわからない。

トライアル雇用助成金

障害者トライアルと、障害者短時間トライアルは概算予算にあることから、継続する予定なのだろう。一般トライアルと、若年・女性建設労働者トライアルの紙は見つけられなかった。

別枠なのか、書いていないのか、廃止なのかは不明。

おまけ:共働き・共育て推進のための給付の創設

これは「助成金」ではなく「給付金」であるが、「出生後休業支援給付金」「 育児時短就業給付金」になんと939億円の予算がついている。令和7年度の要チェック項目として記録に残しておく。

最後に

タイトルが「雇用関係助成金私見」だが、この予算を見るに「労働条件等関係助成金」の方が予算額が増えそう。勉強する、記事にする助成金を変えたほうがよさそう。両立支援助成金は現時点では中小企業限定ではないかと思っているが、この予算額倍増を見てブログに書いてみたくなった。

この予算の概算要求はあくまで現岸田政権のもとでの要求。実際の予算編成は次の総理大臣が誰になるかで変わってくる可能性もある。だが、医療分野ならともかく、助成金は新設はあっても、ある予定がなくなるのはそうないんじゃないかなあとも思う。

*1:助成金のなかで一番伝統のある雇用調整助成金も記載がないのだから、記載がない=廃止、と判断するのは早計