巧遅は拙速に如かず

仕事、自己啓発、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

静かな退職という働き方 書評:読者のターゲットは大卒ホワイトカラー+既婚者

英語の”quiet quitting”を直訳すると、「静かな”退職”」

その表現からするイメージ、退職するつもりで会社に居座る、日本における”働かないおじさん”をイメージしてしまうと、この本で著者が意図する本の内容を読み間違える。

ちなみに私も読み間違えた。働かないおじさんが登場する理由、中高年齢者になったら、”働かないおじさん”として生きるほうが良いのか?という考えで本を購入した。

実際のところ、この「静かな退職」というのは、下記のAIの解釈が正解だろう。

「静かな退職」は英語で一般的に "quiet quitting" と表現されます。

ただし、この言葉は「退職」そのものではなく、**「職務放棄ではなく、必要最低限の業務だけを行い、それ以上の努力やサービス残業をしない姿勢」**を指します。日本語では「静かな退職」という直訳が使われていますが、実際には「静かな辞職」ではなく、「静かな働き方改革」に近いニュアンスです。

つまり、無駄な業務、残業をせず、年功序列制度のために用意された不要な管理職に就くのではなく、必要な業務だけを所定労働時間内でして、実務能力が衰えないように無駄な管理職につかない、という意味である。

尚、この本のターゲット層は、大卒+従業員100人超の企業で働く正社員かつ、ホワイトカラー、兼既婚者を対象にしている。私はターゲット層ではなかった。ということで後半は流し読み。

以下、本のネタバレになるので改行。

 

以下は本の大きなテーマになりそうなところを抜粋する。

・「静かな退職」が2020年代から日本の企業で認められた背景は、女性の総合職への進出と育休短時間労働をする正社員が「市民権」を得て、定着化したこと。

・そもそも欧州では、学歴により就職できる職種が限られている。学生時代で選抜された「エリート」と大半の一般労働者とでは雇用状況が違うし、給料の昇給とかも違う。よく知識人とがいう欧州の働き方はこの「エリート」としか交流していないので、「エリート」だけ見て、欧州全体の労働者を語っている。それはミスリード

・日本はなんの成果もあげていない学校卒業したての若者に給料を上げすぎている。欧州では成果をあげていない学生は低賃金。経験のないものには職もない。逆に、高年齢者で職務の経験値の高い人は年齢があがってもその職種で就職できる。

・「静かな退職」ができるのは従業員100人以上のオフィスワークをするホワイトカラー。製造業の現場や小売業の現場では、ルーティンワークや顧客対応があり、待ちの仕事であるから「静かな退職」の対象外。

・大卒+正社員の労働者の平均年収は700万円台。そして、大卒の約7割は従業員100人超の大企業かそれに準ずる企業に正社員として就職している。つまり大卒+大企業の従業員と個人事業主、高卒、中小企業労働者、非正規雇用を含めた年収の平均が年収400万円代。日本の労働者の平均年収という表現は誤解を招く。入社した会社と学歴によって年収が異なるので、”平均年収”として一律に語るのもミスリード

・結婚(同棲を含む)は、生活苦の人ほど合理的な選択。1人で稼ぐより2人で稼ぎ、共同生活をするほうが支出を安く抑えられる。貧乏だから結婚できないという主張は欧州ではミスリード。ただし、日本やアジアの場合は除く。それは男性と女性の役割分担がいまだ固定化しているせいで、男性は女性を養える程度稼げないと結婚対象にならないから。また女性が家事育児全般の中心となるべき(つまり、出産するとそれまでのキャリアを捨てる)という認識にとらわれているから。この上記の壁を取り払えば、貧乏だからこそ結婚するという選択をするようになる。

・独身は老後、経済的に苦慮しがちになる。現役時代の金銭感覚と、夫婦の場合、専業主婦でももらえる老齢年金があるのがその理由。2人分の年金受給と比較して独身者は収入が少なくなるし、賃貸に住んでいるケースが多いため。

・公租公課対策は重要。3月~5月の残業を減らす*1idecoを使うなどの公租公課を減らす努力は必要。

・NISA自体は、報酬に対する節税効果ではないので節税目的では推奨しない。あれは株式投資に関する利益に対する税を減らす制度である。

・人への投資や、リスキリングは、いまだに頑張って働け、という?な行為。

・役職定年は、扱いに困る高年齢者、つまり”働かないおじさん”を作り出す喜劇。65歳定年制とあわせると、10年間、”働かないおじさん”を雇う悲劇。雇用制度の見直しを。

など、現状の一般常識を”エビデンス”を交えて説明している。

特に、定時になったら帰宅する、やる気のない外国人の現場労働者のほうが、国や企業レベルで見れば生産性があがる、という意見も面白い。つまり、日本の労働者のサービス精神あふれる行動は生産性向上には寄与しない、ということだ。

あと、ここで定義している”静かな退職”が広がった背景として、女性の総合職への進出と戦力化が原因とされているが、これは私の認識とは違う。

私は、「働き方改革による長時間残業の違法化」+「20歳前半までの労働者不足」+「均等法誕生世代に入社した女性たちが管理職になったこと」+「コロナ禍のリモートワークにより、飲み会の文化が一回なくなったこと」という複合的な理由だと思っている。

本の内容は、大卒正社員+ホワイトカラーに対する「新しい働き方の提言」+「欧州の雇用環境の実態」。

ただ、この著者が言う「静かな退職者」の働き方は凄い。無駄なことをしないが、報酬に見合うだけの仕事はする。成績で下位3割の中には入らない。そして、自己の成果よりも、上司の評価や心証を優先できる狡猾さ。老後に備えた資産運用。現在の職を活かして個人事業主として副業もこなせる。これらができる人を「静かな退職」者と呼んでいるが、私には、時間効率の高い、会社の飲み会を断っても許されるほどのスーパーエリートにしか思えないのだが…。

私が求めていた書籍の内容とは違ったが、それは私がターゲット層ではないからであり、ターゲット層の人とは感想が変わってくるだろう。

 

*1:補足:4、5、6月に受け取った給料総額をもとに社会保険料は1年間原則固定化するので、この時期に過度に残業すると、保険料が高くなる