巧遅は拙速に如かず

仕事、自己啓発、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

すぐに退職する新卒のニュースを聞いて

4月頃、テレビでは4月に入社したばかりの新卒の人たちが最短で入社1日目で退職している、とニュースになっていた。

色々なコメンテーターが発言していたが、私の見た限りでは、短期間で退職する彼ら彼女らを、批判する人はほぼいなかった。「自分達の時代では到底考えられないが、今の時代そいうこともあるのだろう。」という当たり障りのないコメントだった。

私はその当たり障りがない発言が間違いとは思っていない。なぜなら、各個人、各会社の事情を知らずに頭ごなしに批判できないからだ。人や会社それぞれに事情があって、就職氷河期世代、終身雇用制だった頃と今は違う。それにいきなり入社式で宴会芸や、ダンスをさせたりする会社もある。その社風にあうかどうかなど各自が下したどう決断を、他人が責めることなどできない。尚、心身の健康を害する職場は逃げるべきだと私は思っているが、数日で見極めることは難しいと思うので、今回はそこには触れない。

ただ気になる発言があった。それは「配属ガチャ」というキーワードである。曰く、希望した部門に配属されなかったので退職した、という話である。これもそれぞれ会社の状況があり、例えば研究職として理系の大学院まで行った人が、これまでの研究とかけ離れたところに配属された場合とか、人手確保のため、まるでだまし討ちのようにいきなり不人気の子会社へ「出向」させたりするケースもあったりするので、一概にその判断が間違いとはいえない。

ただ、会社によっては3年前後で異動するローテーション制をとっているところもあるから、すべての会社で、希望するところに配属されなかったからといって退職することが正解だとも言えない。同じ部署に居続けることの弊害(逆に居続けることができると、長くいる先輩からマイナスの影響を受けることも想像できよう)、人間関係による退職、または取引先との癒着、業務の属人化、不正を防ぐ観点から定期異動をすること自体は悪いことだとは思っていない。それに嫌だと思っていた部門に配属されたが、意外と水があったり、出会いがあったりする。まだ社会人になったばかりなのだから希望する部門にそれほどまで執着しなくても、という思いもある。

そしてそう思ってから気づいたのだ。これは就職活動の弊害ではないか、と。

まず1点目は面接と志望動機の弊害。

就活では志望動機が必ずといっていいほど聞かれる。それに答えられない大学生はまず採用されない。だから学生は志望動機を考える。その時にどこの部署でも頑張ります、と言ったり、人事、経理、総務などどこの会社でもある部署に入りたいからという志望動機をいう人はまずない。そう答えると面接官から「では、なぜ自社に?」という質問が返ってくる。その回答は「給料がいいから」ぐらいしかない。本音だが、それはご法度らしい。生きていくためには給料は重要なのだから真っ当な志望動機だし、私は福利厚生は兎も角、給料が良いという理由がわかりやすいので好きなのだが、新規採用の面接官はそれを嫌うらしい。これだから志望動機は重要視すべきでないと私は思っている。

そんな状況下で文系の学生は、面接で志望動機として発言した企画、戦略、開発に携わる部門を希望する場合が多い。つまり、就職活動をするには”希望する職種”が大事であり、採用された以上、希望する職種に配属されることを期待するはずだ。

しかし、現実的に言えば、文系の場合、企画とか戦略という名称の部門に入社してすぐ配属される人は少ない。企画や戦略を立てられて、かつそれが採用されるようになるには、ベースとしてある程度の社会人として得た実務に関する知識と経験、そしてその会社の現状把握が必要だからだ。いきなり企画部門に配属される新人を見たことがあるが、ほとんどの場合役に立っていない。諸葛亮孔明ではあるまいし、いきなり軍師として頭角を現すことなどレアケース。それにド新人の企画や戦略に従う経営者や部門長はまずいない。

たまに企画や戦略に配属される新人はいったいどんな仕事をしているかというと、おそらく雑用だ。指示されたとおりにパワーポイントを作成し、文章をチェックし、データ入力し、資料を配布する、そんなところが現実だろう。または部門の名称は”企画”や”開発”でも実態は営業とか総務とか庶務とかいうケースもある。

現実的には文系の新人は営業を中心にどこの会社にでもある部署に配属される。本社でなく支社、支店に配属される。現場を知って、現実を知って、企画の土台となる売上をあげるには、利益をあげるにはどうしたらいいかというのを実体験して初めて希望する企画部門に異動になる。

そういう現実を知らずに希望した職種ではないから、といって退職してしまうケースはもったいないと私は思う。

そうなった責任は誰にあるか?それは就職活動を主導する人事部と学生の就職活動を支援する自称「採用のプロ」(笑)である。面接で言葉遊びを弄して、志望動機で会社や社会について何も知らないド新人に理想論を掲げさせる人間にある。

2つ目は、会社のホームページから抱くキラキラしたイメージのせい。

私が大学生を卒業して入社した会社のホームページにも先輩紹介のページがある。その会社で実際企画部門に在籍した経験のある私は大爆笑した。企画、戦略、新商品開発、DX推進、とかキラキラした部門ばかり紹介されている。実際ド新人たちがそれらに殆ど関与おらず、話が盛られているのを知っている。昔某同僚は、パワーポイントをスクリーンに表示させてプレゼンをしたことがないのに、プレゼンをしている写真をホームページに掲載されていたし、自分がほとんど貢献していない新規事業に携わったことになっていた。(アシスタントとして関与はしていたので”嘘”ではない。話を盛りまくっているだけである。)。DX推進?昔からあるOA機器仕入担当(選定する権限は各部署にあり、あるとしたら値切り交渉とか必要数の確認)を大層なネーミングの部署名にしているだけ。

さらに他部署からは中身のない企画や戦略を描いて実際それが採用され、上手くいかなかった人間は他部署から”うんこ製造機”というレッテルをはられる。自分で失敗の後始末をせずに他部署にその”うんこ”の後始末をさせられるからだ。

現に新人で企画部に配属された同期や年齢差が殆どない先輩後輩の話をしよう。新人の配属決定日にそこに配属された者は同期から羨望の眼差しを浴びた。しかし現実はというと、雑用をして、統計データを収集して、上司から頭でっかちで使えないといわれ20代から暇を持て余しネットサーフィンに明け暮れる、そして貴重な20代をなんのスキルも経験も積めない惨めな者もいた。意気込んで主張するも、採用活動用に利用するために配属されたお飾りのため、現実はなんの決定に絡めずに退職した者もいた。まあ、今はSNSで発信されるのでそこまでひどい仕打ちはうけないかと思うが…。

さらに追い打ちをかける事実。企画とか戦略畑に最初からいた人間は殆ど役員には昇格していない。企画や戦略部門を統括し、決定権を持つ役員や部長は、他の部門で成果を出した人間だったりする。リーダー格の係長クラスも同じ。入社してすぐに企画立案や戦略などよほどの天才以外はできないから、本当に企画や戦略部門でやりたい仕事があるならば、入社時点では営業とか現場に立ち、数字をだし、お客と多く対峙して経験値をあげて、実績に裏打ちされた自信をもって、社内で認知度をあげてから異動した方がいい。

上記の話はあくまで私見。あてはまらない会社も人もたくさんあるだろう。上記の話はあくまで私の知る限り。私の知っていることが世の中のすべての会社に当てはまるとは微塵も思っていない。だから私も「配属ガチャ」に外れて退職した人を否定しない。ただ就職活動時の憧れが強いほど、躓くと思う。

キラキラしたところだけ切り抜くのは何もインスタグラムなどのSNSからではない。会社のホームページやインターネットが広がる前のパンフレットも同じ。

ちなみに、大学生から不人気の会社の人事の採用担当が求められる能力は「大学生に自社に憧れを抱かせること」…