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雇用関係助成金の私見⑰ 人材開発支援助成金⑦ 認定実習併用職業訓練

前回、認定実習併用職業訓練について、これは1月~3月に集中するのでその時期に記事を書こうと思っていたが、遅きに失したと書いた。だが、折角なので記事にしてみようと思う。ザックリ書くつもりが3000字を超えてしまったが、お付き合い願いたい。

尚、人材育成支援コースの説明は以下の記事でまとめている。

kesera22.hatenablog.com

今回の記事及び上記のリンク先の記事の根拠は令和5年度版をもとに作成しており、令和6年4月以降に中身が変わる可能性は十分あることにご留意願いたい。

はじめに

人材開発支援助成金のなかには「人材育成支援コース」というのがあって、その中に「認定実習併用職業訓練」というのがある。そもそもはこのコースは令和5年度改正で3つあったものが1つにまとめられたもので、その中には①「人材育成支援」②「認定実習併用職業訓練」③「有期実習型」の3種類に分けられる。今回の記事はその中の②「認定実習併用職業訓練」の記事であるが、他の2つとの違いをザックリと最初に説明する。

①「人材育成訓練」…

Off-JTのみの訓練で、他の2つがOJTとOff-JTの組み合わせであるので、その違いははっきりと違う。これが3つの中で一番利用が多い、人材開発支援助成金のオーソドックスな訓練だと思う。通常の訓練といったらこれになる。例えばフォークリフト中型自動車免許を取りに行きました、といったらこれになる。かつて”喀痰吸引”が対象だったため介護系の資格もこれが多いらしい。

③「有期実習型訓練」…

有期雇用労働者等を正社員転換することを目的としたOff-JTOJTの組み合わせの訓練のことを指す。有期雇用労働者等の”等”に、無期雇用労働者も含まれる。単なる有期雇用労働者の訓練やOff-JTのみだと①「人材育成訓練」になる。

これは、キャリアアップ助成金の正社員化コースとセットと思った方がいい。かつては「キャリアアップ助成金」のひとつのコースであったのが、「人材開発支援助成金」に移ってきたものなので。非正規労働者を訓練させた後に正社員にする。すると、両方の助成金を合算すると助成金額(率)がどちらの助成金も上乗せされるので、それぞれ単独よりもかなりの高額の助成金となる。YouTube動画で社労士等も推す理由がこれだ。

ただその分、要件は他の人材開発支援助成金より難易度が高い。対象外の訓練も増える。OJT自体もややこしい上に、国家資格者キャリアコンサルタントによるコンサルティングを受けたジョブカードの作成も必要になる。要するに手間がかかる。ちなみに、令和5年からこの「有期実習型訓練」以外の殆どの訓練でも、その後に正社員転換するとキャリアアップ助成金の正社員化コースの助成金額は上乗せされるようになったので、高額助成金であるキャリアアップ助成金の正社員化コースを狙うなら無理にこの「有期実習型」でなくてもよい。尚いずれにしても有期雇用の期間や正社員転換日、就業規則の規定には注意が必要。

制度の概要…有期実習型訓練との違い

さて本題の「認定実習併用職業訓練」である。これは、中核人材を育てるためにOff-JTOJTを組み合わせた訓練である。「有期実習型訓練」との違いは以下の2つである。
A事前に厚生労働大臣の認定(大臣認定)を受けないといけないこと
B年齢制限(15歳以上~45歳未満)

A 厚生労働大臣認定…計画届に似たもうひとつの申請

ホームページのガイドブックのうえに青文字のリンクがあるのでそれをクリックすると別ページに飛ぶ。それを見れば一目瞭然だが、別途「人材開発支援助成金」とは別に厚生労働大臣の認定を受けるための申請をしないといけない。この申請用紙を、訓練開始日の30日前に労働局に提出しないといけない。

私は当初これは大変だと思った。ホームページでまた別ページがあり読むのが大変なのである。ただでさえガイドブックが沢山あるというのに…。だがよく読んでい見ると、とこの申請用紙を追加で作成すること自体は大したことはなさそうなのである。

まず申請用紙数が少ない。また書く内容も「人材開発支援助成金」の計画届で書くものと殆ど同じことを書く。(揃えないといけないので地道なチェックは必要)記入例も記入マニュアルも解説も全ページに渡って書いてある。要するに書類自体はホームページを読めば書ける。私はなぜこれをわざわざ申請するのかよくわからないのだが、多分過去からの経緯か法律上の理由なのだろう。

B 年齢制限…利用の中心は学校新卒用

認定実習併用職業訓練は年齢制限がある。以下ガイドブック13ページを張り付ける。

対象は15歳~45歳未満で、以下の3つのどれかに該当する者。

① 新たに雇い入れた者
(雇い入れ日から訓練開始日までが3か月以内である者に限る)
② 大臣認定の申請前に既に雇用されている短時間等労働者であって、
引き続き、同一の事業主において通常の労働者に転換した者
(通常の労働者への転換日から訓練開始日までが3か月以内である者に限る)
③ 既に雇用する被保険者

昔は③にもカッコ書きがあったが令和5年度版は消えている。今の規定ではもう15歳~45歳未満の雇用保険加入の労働者全員が対象ではないか?一体何でこんな区別を?

だが、その下のキャリアコンサルティングについての規定を見ていただきたい。①の新規学卒予定者以外の者はキャリアコンサルタントまたはジョブカード作成アドバイザーによるキャリアコンサルティングとジョブカードの交付が必要*1になる。裏を返せば、新規学卒予定者は国家資格キャリアコンサルタントによるジョブカードが不要。この「認定実習職業訓練」というのは、ホームページのパンフレットにはっきりと明記されているように”新卒”がメインの訓練。(新卒以外に使えないわけではない)新卒は4月入社。訓練開始が4月の途中のところもありそうだからこそ30日前を考えて1月~3月に申請が集中する、と書いているわけなのだろう。ちなみにこのキャリアコンサルティングは自前でするのは難しくて、これまた別途リンクのあるキャリアコンサルタントに事前面談をしてもらわないといけない。

この訓練の最大の課題…組み合わせと中身

この訓練はOJTとOff-JTの組み合わせ。ただこの組み合わせはそう簡単ではない。合計訓練期間は6か月以上2年未満であり、年間換算で850時間の訓練が必要なうえ、OJTの割合が、OJTとの合算の時間の2割以上8割以下でなければならない。この割合、要するに片方だけではダメということだ。これだけの期間と時間を必要とし、かつOff-JTOJTの組み合わせ率も考えないといけない。さらに、Off-JTは事業所内での訓練というの原則不可で、そのルールから外れる場合は色々と手続きに問題がある。

この訓練は職種と会社を選ぶ訓練であり、自社単独で作ることはよほどの会社でないとかなり難しいだろう。おそらく、専門の訓練機関の力を頼るしかないだろう。大臣認定を取ることが難関なのではなく、このOJTとOff-JTを組み合わせた訓練カリキュラムを作成するのが難しいと思う。ちなみにOff-JTで電話応対とか名刺の渡し方とかのビジネスマナーレベル中心の新入社員研修をする場合は、対象外訓練として不支給になる可能性が高いと思う。

まあ、簡潔明瞭にいうと、対象となる業種、職種と会社を選ぶ訓練だと思う。

OJTの賃金助成の金額は令和4年度から固定金額に

しかもこの訓練、助成金額は数年前から減ってきた。OJT助成金額が1時間当たり〇円×訓練時間から、令和4年度計画提出分から固定金額になったのである。中小企業の場合の具体例を挙げてみよう。

※OJTの訓練時間 
最低 850時間÷6/12×20%=85時間
850時間÷6/12×80%=340時間

令和3年度… 
665円× 85時間=56,525円
665円×340時間=226,100円  
665円×680時間=452,200円 (680時間が上限時間)

令和4、5年度… 
一律200,000円(固定)    

OJTの最低金額だと固定金額の方が多いが、最大の時間と比較すると66%減である。これをどう見るかというところもポイントである。まあ、OJTはその名の通り仕事をしながらの訓練なので、無限になんとでもできてしまう上に、指導者が社内の人間も関与なのである程度自由が利くかと。OJTの場合は何月何日の何時から何時まで訓練するか計画届に書かなくてもよいし…。

OJTの訓練日誌…雑な書き方だと…

OJTは、Off-JTと違い、細かい助成対象外訓練というルールがない。ガイドブックに書いているのは、OJTの講師の要件と変更届などぐらいしか書いていない。勿論訓練内容が職務と全く関係ないことをするのはOJTとはいえないだろうから何でもいいというわけではないが、Off-JTほどではない。

ただOJTの厄介なのは報告書である。訓練日ごとに記入欄がある。これがOff-JTと違って曲者なのである。まず労働者が書く内容と計画届や大臣認定された訓練内容に違いがある場合は勿論ダメ。書くのが面倒くさくなって毎日同じことを書いていてもダメ。各訓練日に指導者がその時間通りに出勤しているかどうかも確認対象であり、取締役だから、管理監督者だからといって出勤簿や出退勤時刻の記録がない場合もダメ。同じ訓練を受けているが複数受けている場合、各人の感想が全くおマジでもアウト。訓練受講者の記入がいい加減だとダメになる、ここが厄介であり申請前に確認しておく必要がある。

Off-JTで書く項目が令和5年度からかなり減ったのと対照的にOJTはまだまだ必要。さすがに全部手書きまでは求められなくなったようであるが、全部コピペだとアウトである。

気を付けたいのはOff-JTOJTの時間とか割合とかを2割とか8割の限度ギリギリにしている場合。これでなにかしら計算ミスなどがあったら、場合によっては不支給になってしまう可能性もありそうだ。(このあたりの判断までは調べていない。また私は決める側の人間ではないので断定はできない。)

その他…経費助成など

経費助成はOJT助成金対象外である。そもそもOJTに関しては令和4年度から賃金助成、経費助成はなく原則定額である。経費助成はOff-JTのみである。しかもOff-JTを認定訓練で受講した場合で、そこの訓練機関が補助金を受け取っていると、Off-JTの経費助成も対象外となる。(尚、Off-JTの確実の報告書の最初のページのはい、いいえの〇はそれを訓練機関が書く仕様であり、事業主が関与することではない)つまり、助成金額自体が令和3年以前と比較すると少なくなった。勿論、Off-JTの割合を増やすという手もあるが…。

まとめ…利用が限られる訓練

・基本は新卒用訓練。ただし、Off-JTの訓練内容は他のコース同様専門スキル取得中心
助成金額は昔ほど金額が大きくない

ということになる。対象となる労働者、事業、会社が限定されるうえにこの訓練プログラムを作るのが大変なので、実際のところは利用する会社は限定的なのではないかというのが私のエビデンスなき感想である。

*1:尚、提出書類のチェックリストにはジョブカードの項目がない。提出不要なのかどうかは不明。