前の記事の続き。
前編、中編では、「キャリアアップ助成金」の「社会保険促進適用時処遇改善コース」を現時点では”あえて”利用する価値はない、と否定した。
だが、繰り返しになるが、この意見はあくまで、”現時点”の意見である。言い換えれば、将来については、検討の価値ありともいえる。
この助成金の現時点での利用は否定するが、会社にとっても、今国民年金第3号被保険者として社会保険料の負担していないパート労働者にとっても、今後の「年収の壁」対策については、特に今年度末頃ぐらいまでには検討を加速していった方がいいかもしれない。(総理大臣みたいな表現だ)
以下、現時点では利用しなくとも、将来に向かっては検討の余地ありだと思う、その理由を説明する。
政府は国民年金第3号被保険者の範囲を減らすか、なくす可能性が高い
令和6年5月末頃に報道されていたが、今、今後の年金の在り方についてどこかの部会?で議論がされているようだ。その中で、提示されたらしい現状からの変更点は以下の3つ。
- 年金加入者101人以上、今年10月からは51人以上の【特定事業所】の人数の上限をなくす。→年収130万円の壁がなくなり、年収106万円の壁に一本化される
- 年金保険料を支払う年齢の引き上げ・・・60歳まで→65歳までに
- 個人事業主や業態、人数によって対象外となるルールの撤廃
上記はあくまで審議中の話であり決定事項ではないらしい。ただ、そういう方向性であることは確かだ。少子高齢化が進む中、年金制度を財政的に維持するには、保険料を負担する対象者を増やすしかないのだろう。
え、数十年前に、【100年安心プラン】とか政府がいってたのに、まだ100年たっていないがどういうことだ?ですって?
私は政府関係者ではないし、私だって65歳まで払いたくないぞ。改悪案反対。ただ、そういう流れという話。
そうなると、どこの会社で働いていようとも、月8.8万円以上の収入で週20時間以上働いている人は、学生・70歳(75歳)*1未満の人以外は社会保険料を支払わなければならなくなる。
こうなると今は共働きの夫婦の場合、約半数がこの年収の壁対策で収入を制限しているそうなので、かなりの人に影響を及ぼすことになろう。
・現在扶養の範囲内で働くパート労働者はどうするか?
年収の労働時間を短くするか?そういう求人がどれだけあるか?今の会社がどこまで労働時間短縮を認めるか?それとも社会保険料を支払ってでも働くか?
・雇う側の会社はどうするか?
扶養の範囲内で働くパート労働者の時間がどんどん短くなることを認めるか?それで会社が回るか?その分人を増やすか?それとも社会保険料を会社負担してでも働くように促すか?
パート労働者がある程度いて、パート労働者がいないと業務が回らない会社、業種、職種にとっては、パート労働者にとっても、会社にとっても、今後の働き方について検討していく必要性は必ずでてくるだろう。
そうなった場合に、激変緩和措置として、この助成金のこのコースは選択肢の一つになってくるのではないか?現時点では一部の会社・労働者を除けば、あえて利用する価値は殆どなくとも、今後はどうなるかは不透明だ。年金制度の改正次第といったのは、こういう理由である。利用件数が多い助成金のコースになる可能性はゼロではない。
今後に向けて、この助成金を利用するかどうかは別として、国民年金第3号被保険者はなくなっていくか制限されていくだろうから、その中でこの助成金の動向を注視しておいて損はないとは思っている。他の助成金をみるに、助成金というのは法令改正の施行日以前、つまり強制になる前の段階で対応した会社が獲得できるものが多いのだから。
キャリアアップ計画届は提出していて損はない
上記の理由で検討する場合で、絶対に利用しない、利用するパートタイマーがいないという会社は別だが、検討することになった場合は、キャリアアップ計画届は提出してもよいのではないか?というが私の意見だ。
ほとんどの助成金には実施する前に「計画届」が必要になる場合が多い。キャリアアップ助成金も計画届が絶対に必要な助成金のひとつだ。計画届を提出せずに実行しても助成金は支給されない。いつまでに提出すればいいかというのはこのキャリアアップ助成金は各コースによってわかれている。
またこのキャリアアップ助成金の計画届は、他の助成金と比較して、中身がほとんど決まっていなくてもおおよその内容で提出できるのが特徴だ。添付書類もたしかなかったはず。計画届の期間も最長5年だったはずで、その間に実施すればよい。
【キャリアップ管理者】というのが独特な役割で、雇用保険適用事業所(営業所でも事業場でもない)ごとに配置する必要があり(例えば全適用事業所のキャリアアップ管理者を代表取締役社長に一本化するのはダメだったはずだ)、かつ労働者代表はなれないなど、少しややこしいところがあるが、それ以外は他の助成金と比べて遥かに簡単な部類の計画書である。期間が長いので期限切れを忘れさえしなければ、管理者が変わった時などに変更届をだすのを忘れさえしなければ、問題はない。それに計画届をだして、結果的に実施できなくてもなんらペナルティはない。あくまで計画であって、実施できるかどうかは、対象となる有期契約労働者等がでてくるかどうかなのだから。
ホームページで全国的に計画届の受理件数を載せてある。計画届の受理件数を公開している助成金は珍しいと思う。なんの証拠もないが、これには政府にとって何らかの狙いがあるはずだし、また、受理件数の中の一定数は、上記の理由で、まだ決定してはいないが、計画届を先んじて提出している事業所もあるのではないかと邪推している。
ガイドブックの表記に注意
ちょっと話がかわるが、今このコースについてのガイドブックについては注意が必要だと思っている。前回の記事にも書いたが、賃上げアップ率に【社会保険適用促進手当】をいれなかったり、受け取る助成金の金額のほとんどに他のコースの料金を含んだ金額を書いたり、法人税の賃上げに関する控除を載せたり、ちょっとどこかの携帯会社や保険会社の小さな※のような、誤解を与えるような表現がある。賃上げ税制は何もパート労働者だけはなく、たしか正社員の人件費とかも含めるはずだ。(今の税制は未確認なので、”はず”と書いた)あれはいただけない。
今のこのコースの助成金は、会社にとっては経費の負担が増えたり、労働者にとっては時給換算にした手取り額は減ったりすると私は思っている。すくなくとも、社会保険料の会社負担は、会社にとっては金銭的な負担であることは間違いない。助成金を獲得すれば、かなりの高額の金額を受領でき、社会保険の負担がほとんどないような錯覚はしない方がいいと思っている。
扶養から外れて社会保険に自ら加入するメリットはどれだけあるか
被扶養者で今社会保険料の負担をしなくてすんでいる人は、社会保険の大部分のメリットを金銭負担なしで受給できている。医療費の負担も3割だし、高額医療費にも対応し、介護保険料も40歳~65歳未満まで支払わなくてすむし、年金も国民年金部分は受給できる。
違いがあるとしたら、健康保険の場合は、傷病手当金ぐらいであり、年金の場合は厚生老齢年金部分の上乗せと障害厚生年金3級ぐらいだったはずだ。
私の意見ではあるが、年収が106万円を少し超えるぐらいの年収の場合ならば、もっと具体的に言うと年収が150万円ぐらいまでならば、健康・介護・年金保険料を負担するのと、その受給分とを比較すれば、”あえて”被扶養者から外れて社会保険に加入するメリットはないと思っている。
”あえて”と書いたのは、本人の希望や状況、希望年収、配偶者の状況によるから。今の勤務先の労働時間や年収から必然的に社会保険に入ることになることになった場合(転職をしないと加入から逃れられない場合)や、これから年収の壁を遥かに超える額を稼ぐつもりの方や、誰かに扶養されるつもりのない方、扶養している配偶者が国民年金第1号被保険者になったり、健康保険から外れるつもりの人など色々な方がいると思うので、すべての人に社会保険に入らないほうがいい、というつもりはない。