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年収の壁対応⑤ キャリアアップ助成金:短時間労働者延長コース 私見

何回かにわたって行っている年収の壁と、キャリアアップ助成金の新コース「社会保険適用時処遇改善コース」の話。

新コースについては、分科会の資料によって、現行のキャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長コース」の名称を変更し、内容も変更するで対応する方針であることが明らかになっている。

ついては、まず現行の「短時間労働者労働時間延長コース」(今は令和6年9月末迄の暫定措置)というのはどういうものかおさらいしたい。

現行の「短時間労働者労働時間延長コース」は、現在社会保険に加入していない有期雇用労働者について、週所定労働時間を延長することにより、社会保険の被保険者とした場合に、事業主に対して助成金を支給するものである。

助成金額は中小企業の場合で、特定事業所でない場合は、以下のとおりである。

①週所定労働時間を3時間延長し、新たに社会保険を適用した場合

  助成金額…1人当たり237,000円

②労働者の手取り収入が減少しないように、週労働時間を延長し、当該措置によって新たに社会保険に適用した場合

 A 週所定労働時間を1時間以上2時間未満延長し、基本給を10%以上増額

  助成金額…1人あたり58,000円

 B 週所定労働時間を2時間以上3時間未満延長し、基本給を6%以上増額

  助成金額…1人あたり117,000円

となる。

まず、なぜ3時間以上だと賃金上昇がなくて、1時間以上だと10%、2時間以上だと6%以上になるかというと、そうすることで手取りがそこまでは減らないからであろう。

 変更前:時給1,000円×週労働時間29時間×52週÷12か月=125,666円…1⃣

 変更後①:時給1000円×週労働時間32時間×52週÷12か月=138,666円…2⃣

 2⃣ー1⃣=13,000円 138,666×社会保険料14.15%=19,621円

 138,666-19,621=119,045円 ⇔ 125,666円  あれ、手取り減ってる…。

 事業主負担 20,093円×12か月=241,116円 ⇔ 助成金額 237,000円 

 変更後②A:時給1000×1.1×30×52÷12=143,000円…3⃣

 3⃣ー1⃣=17,334円  143,000×14.15%=20,234円

143,000-20,234=122,766円 ⇔ 125,666円 あれ、手取り減ってる…。

 事業主負担 20,234×12か月=242,808円 ⇔ 助成金額 58,000円

 変更後②B:1000×1.06×31×52÷12=142,393円…4⃣

4⃣-1⃣=16,727円 社会保険料  142,393×14.15%=20,148円

142,393-20,148=122,245円 ⇔ 125,666円 あれ、手取り減ってる…。

 事業主負担 20,148円×12か月=241,776円 ⇔ 助成金額 117,000円

これは、おそらく週20時間以上かつ月収88,000円以上で対象となる「特定適用事業所」を想定しているのではないかと考え、再度計算してみる。

 変更前:時給1,000円×週労働時間19時間×52週÷12か月=82,333円…1⃣

 変更後①:時給1000円×週労働時間22時間×52週÷12か月=95,333円…2⃣

 2⃣ー1⃣=13,000円 95,333×社会保険料14.15%=13,489円

 95,333-13,489=81,444円 ⇔ 82,333円  これでも、手取り減ってる…。

 事業主負担 13,489円×12か月=161,868円 ⇔ 助成金額 237,000円

 これは助成金額が上回るな…。 

 変更後②A:時給1000×1.1×20×52÷12=95,333円…3⃣

 3⃣ー1⃣=13,000円  95,333円×14.15%=13,489円

95,333-13,489=81,844円 ⇔ 82,333円 これでも、手取り減ってる…。

 事業主負担 13,489×12か月=161,868円 ⇔ 助成金額 58,000円

 変更後②B:1000×1.06×21×52÷12=96,460円…4⃣

4⃣-1⃣=14,127円 社会保険料  96,460円×14.15%=13,649円

96,460-13,649=82,811円 ⇔ 82,333円 これは大体同じ。

 事業主負担 13,649円×12か月=163,788円 ⇔ 助成金額 117,000円

 

尚、標準報酬月額の計算は毎月の収入でなく等級であるし、税率も協会けんぽの場合でも都道府県で違うし年によって違うし、介護保険料を含むし、そもそも計算方法も違うから(本来は標準報酬月額で計算する)、上記はイメージである。上記を見て、よし、社会保険に積極的に加入しよう!とは、私は思わない…。

だからからか、このコースはあまり人気がなかったと聞いたことがある。YouTubeとかで見ても社労士は解説していない。「事業主になんのメリットがあるの?」と。そりゃ、事業主にとっても労働者にとっても負担に見合う利益を得ていないし。社会保険に加入するならば、「正社員化コース」で正社員にしたほうがいいと私は思う。このコースはキャリアアップ助成金のコースの中では支給要領の該当ページ数は4ページしかなく、着手しやすいのではあるが。(もともとの計画届のページや共通事項を除く)

ではこのコースについての特徴について少し触れる。

まず、社会保険適用前の6か月と適用後の6か月を比較する形。つまり1年間は雇わないといけない。また、比較するのは適用前6か月の週”実”労働時間、適用後6か月の週”所定”労働時間(例外あり)つまり、実労働時間が伸びていて、所定労働時間を3時間伸ばしたといってもその前の実労働時間と変わらない場合(つまり現実に所定を合わせただけ)も対象外。だから実労働時間が伸びて社会保険に加入しないといけないなあ、では助成金を申請しようとすると、この実労働時間と所定労働時間の差によっては対象外になってしまう可能性がある。

大体社会保険に加入するというケースは、この実労働時間が増えていて、社会保険に加入しないといけないケースも多いのではないか?これが対象外となると辛い。

また、既に社会保険に加入している人は所定労働時間を延ばしても対象外だし、加入義務があるほどの労働時間分働いていたのに社会保険に加入していなかった場合も対象外だろう。

後、特定事業所適用に伴い社会保険に加入することになった場合も対象外らしい。

あえて労働時間を延ばし、賃金をあげて不支給になったら目も当てられない。とてもじゃないが、着手する気にはなれないコース。

だからこそこのコースではなく、新コースに代わるわけであろうと推測している。

ただ、分科会の「施行規則」の改正案を見る限りでは、このコースを少しいじるだけ、つまり、所定労働時間の延長は関係なく賃金を挙げる形のものを追加し、所定労働時間の延ばす時間と賃金の上昇率の数値を変えて、助成金額を増加させて、事業所の上限人数を撤廃するだけにしか今のところは見えない。あくまで「施行規則」での話なので、なんともいえないが。

ただ、このコースが既にあったからこそ、このコースを改変する形で、社会保険の問題を解決しようとする根拠になったのだろう。だからこそ、現コースを理解することは新コースの理解の一助になるかと思い、今回調べた次第。

尚、内容の精度についてはいつものとおり保証できないので、あしからず。

ちなみに、キャリアアップ助成金には過去「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」という、特定適用事業所になる前までに対応するコースがあった。今は廃止されているが、私はまったく記憶がない。

さて長々と話してきたが、利用されなければ、「年収の壁」対策を発表した総理大臣のメンツが立たない。よって、会社側、労働者側にこの2年間の間に社会保険に入った方がいいと思わせるような何かがあるかもしれない、と私は邪推している。

後は新コースの詳細が発表されるまで引き続き様子見。