世の中の流れは速いものだとつくづく感じるが、ちょっと前に「年収103万円、年収106万円、年収130万円の壁」について検証してみたら、今度は厚生労働省が「年収106万円の壁」について、厚生年金加入の年収(月収)要件を撤廃することを発表したようだ。時期が遅れたが、今回は年収106万円の壁について振り返ってみたい。
- 年金の3種類の被保険者の定義
- 「年収106万円の壁」の撤廃は、キャリアアップ助成金の新コース創設から考えると既定路線。
- 「年収106万円の壁」は「年収103万円の壁」と似て非なるもの
- 年収130万円の壁に新たに年収106万円の壁を作ったことで廃止は規定路線
- 実際の支払額と受取額を計算してみる
- 年収の壁を越えて自ら保険料を支払うメリットがあるか
- 第3号被保険者の創設時の家庭像
- 第3号被保険者の前提は崩れ、不公平感が膨らむ状態へ
- 本当の問題は少子高齢化の進展
1万字を超えたので、一旦改行。
年金の3種類の被保険者の定義
御存知の方も多いと思うが、国民年金について語るには、被保険者が3種類に分かれることを知らないと理解ができないし、この「年収の壁」の問題も、今回の第3号被保険者の問題も理解できない。以下、簡単に説明する。尚、「保険制度」というのは民間の保険でもそうだが、広く加入者を集めて、お金を集めて、なんらかの理由で困っている人に困っているタイミングで支払う仕組み。助け合い。そしてその保険を集めて管理して分解する役目をする組織を「保険者」、お金を支払い、お金を受け取る人を「被保険者」という。
第1号被保険者
20歳以上60歳未満の自営業もしくは無職で、日本国に居住する者をいう。ちなみに国民年金の被保険者は、日本国民という国籍要件はない。
第1号というよりも第2号、第3号に当てはまらない被保険者と思えばいい。
例えば会社を退職し、次の会社に転職するまで無職であったら、その間の無職の期間は第1号被保険者となる。
年金は国民年金のみ。厚生年金はない。上乗せする際は国民年金基金。厚生年金と違い全額自己負担。(といってもその支払いの半分は税金。)
健康保険は、国民健康保険になる。こちらも全額自己負担。
自営業、つまりは農林水産業や個人事業主が第1号被保険者となる。また、労働者であっても個人事業主のもとで働いている場合は、第1号被保険者になる場合*1がある。
第1号被保険者の配偶者の場合は、20歳以上60歳未満の国民は、第1号被保険者になる。よって、収入があろうがなかろうが国民年金保険料の支払い義務がある。
余談だが、会社員を退職して隠居生活(無職)に入ろうとすると、国民健康保険と国民年金保険料のあまりに高い保険料に驚愕し、再就職する人もいる。
第2号被保険者
会社員や公務員として週20時間、または週30時間働く国民は、第2号被保険者となる。厳密にいうと会社員や公務員が対象なのではなく、役員も対象になるし、逆に労働時間が短い(週20時間または週30時間労働)場合は第2号被保険者になれないので注意。
年金は国民年金と厚生年金。給料から天引きされる際、給料明細には厚生年金保険料と書いてあるが、この厚生年金保険料の中に国民年金保険料も含まれている。
例えば標準報酬月額88,000円の労働者の厚生年金保険料は、8052円だが、その中に国民年金分も含まれている。
また、その保険料の支払額は会社と折半しているから、例えば上記の場合第1号被保険者の半額の保険料で国民年金と厚生年金を受け取れる。
つまり、第1号被保険者より第2号被保険者の方が年収が少ない場合は負担額が少ない。
繰り返しになるが会社の社長などの役員でも第2号被保険者となるとこがミソ。個人事業から法人化させたりするのは、このメリットもある。
加入するのは、18歳以上70歳未満。60歳すぎたら国民年金の被保険者から外れるが、厚生年金保険料は月収が同じ場合は59歳までと同額になる。つまり払い損。
では、週労働時間を20時間未満にして、第1号被保険者になり年金保険料から逃れようとしたら、国民健康保険のあまりにも高い保険料を徴収される。18歳~20歳も払い損かというと一概にそうとはいえないのだが話が長くなるので説明は省略。
65歳以上70歳未満の会社員の場合は、年金を貰いつつ、国民年金第2号被保険者として年金保険料を払うというわけのわからない状態になる。
第3号被保険者
今回のテーマ。
20歳以上60歳未満で、上記の第2号被保険者の配偶者かつ第2号被保険者の被扶養者で、かつ、厚生年金被保険者の数が51人以上の事業所で働く人は年収が106万未満、厚生年金保険者の数が50人以下、または短期パートの人は年収130万円未満だったら第3号被保険者となる。
働いていない人は年収0円なので第2号被保険者の配偶者だったら、第3号被保険者。
フリーランスで働く人も年収130万円未満ならば第3号被保険者。
第1号被保険者の配偶者は第3号被保険者にはなれない。
配偶者と同じ第1号被保険者か、第2号被保険者のどちらかである。
第3号被保険者は年金保険料の負担はない。しかし年金は第1号被保険者と同じように支払ったという扱いになり、年金を受け取れる。
年金は国民年金のみで厚生年金には入れない。というか、年収の壁を越えて働き厚生年金保険料を支払うようになったら第3号から第2号被保険者に切り替わる、という解釈。
第3号被保険者が健康保険も負担0円になる、という意味ではなく、第3号被保険者の要件が年収106万円、130万円以下であり、その場合は、健康保険も被扶養者扱いで0円になる、ということである。
配偶者によって立場が変わるので、第2号被保険者である配偶者が無職になったり、自営業になったり離婚したりすると、第1号被保険者になり、保険料の支払義務が生じる。
この自分の年収や配偶者の年収に関係なく、第3号になったり第1号になったりするのが不公平である、という意見が度々ある。
また第3号から第1号、第2号になるメリットがあまりないので、配偶者の立場からしたら正社員として働かない場合は第3号被保険者でいたほうが、今の保険料負担がなくなる→手取りが減らない。だから、壁を意識して労働時間を調整する。
「年収106万円の壁」の撤廃は、キャリアアップ助成金の新コース創設から考えると既定路線。
過去に、年収の壁突破と、そのための国の助成制度としてのキャリアアップ助成金の制度の解説記事を書いたことがある。一応リンクを貼っておく。
上の記事をみてもらえばわかるが、3回に分けて書いてある。その理由はというと単純で、この年収の壁突破のためのキャリアアップ助成金の制度と、年金制度の説明をするには大量の文字数が必要だったからである。
そして後編の記事を読んでもらいたい。令和6年5月末に作成した記事ではあるが、そこで「年収106万円の壁」は年収要件を外していく方向になる、という厚生労働省の専門家会議での紹介をしている。
つまりは、年収106万円の壁撤廃は既定路線。後は年金制度の見直しが行われる時に発表されるのを待つだけ、の状態。
そんなタイミングで、衆議院の解散総選挙があり、国民民主党が「年収103万円の壁」の上限を引き上げ、また「基礎控除等の引上げ」による手取り増を訴えて、議席数を大幅に増やした。
その一方で、この「年収106万円」を撤廃するための対策としてキャリアップ助成金を活用する対応を国民民主党の代表は有効な手立てとして支持していたわけである。たしかXで投稿されていた記憶(ここ記事を書いていた時に調べたらXででてきた)があるので、残っていたら確認してみてほしい。
結論をいう。「年収106万円の壁」は、第3号被保険者という制度の廃止が規定路線である。
ただ、前の記事でも書いたが、国民民主党は第3号被保険者の廃止を支持していたと書いた。といっても、第3号被保険者の廃止とともに第2号被保険者の負担率を下げることで家庭の総収入における負担額を考慮する策も述べていた。
また、厚生労働省の案も第3号被保険者の廃止とまでは書いていないし、”廃止”まではいっていない。会社員の配偶者が働いていない場合は負担増ではない。専門家の会議でも色々話し合いが続いているようで、まだ決定と言うわけではない。
「年収106万円の壁」は「年収103万円の壁」と似て非なるもの
年収103万円と年収106万円、わずか3万円。但し現実的にいえば似て非なるもの。
というのもこの壁に影響される層というか、人が異なる。
年収103万円の壁・・・アルバイトをする学生とその親に影響がある壁。
具体的には、扶養者たる親の扶養控除や会社の給与制度による扶養手当が、被扶養者たる学生の年収が103万円を超えてしまうと扶養控除や扶養手当がなくなってしまい、税金があがり手当が減るから、”壁”。
年収106万円の壁・・・会社員の妻で兼業主婦に影響がある壁。
年収103万円と違い、学生は対象となっていないのでターゲットが異なる。年収106万円の壁は国民年金第3号被保険者として、また。健康保険の被扶養者として、健康保険料、介護保険料、国民年金保険料が免除されながらも、健康保険と介護保険と年金制度の恩恵は自営業者やその被扶養者である第1号被保険者とそう変わらない給付が受けらえる特権がなくなる”壁”である。
昔は「年収103万円の壁」で女性の就労が妨げられるといわれていて、今でも「年収106万円の壁」が女性の就労の壁のイメージがあるが、所得税、住民税上の「配偶者控除」による「年収103万円の壁」は、「配偶者特別控除」などにより、数年前からなくなっている。
そして、Xとかを見ると「103万円の壁」を「176万円の壁」まで引き上げる主張により、「年収106万円の壁」も同様にこの上限が引き上げることを国民民主党が主張しているかのように投稿している人を見かけるが、国民民主党は、
「年収103万円の壁」は上限を上げるが、「年収106万円の壁」は第3号被保険者の廃止で、壁自体をなくすという考え、だと私は認識している。
年収130万円の壁に新たに年収106万円の壁を作ったことで廃止は規定路線
国民年金第3号被保険者に対する国民年金保険料の支払い免除、健康保険におけるの被扶養者の健康保険料の支払い免除はもともと「年収130万円の壁」の1つだけだった。
パート労働の場合は、この年収要件のほか労働時間の制限もあったが、もともとは週30時間(正社員の週所定労働が40時間の場合)だった。最低賃金も低く、週30時間内に収まるような働き方をしていた。今でも週4日・1日7時間勤務、または週5日・1日5時間半勤務の人とかがいると思う。それはこの年収130万円の壁を想定していたからだ。
そこに、平成28年10月から、特定適用事業所というある程度の人数の規模の事業所で働く人の場合は、上記の年収、週労働時間ではなく、月8.8万円以上、週所定20時間以上で働く人も会社の健康保険、厚生年金に加入させる義務を生じるルールが誕生した。
つまり「年収106万円の壁」は平成28年10月から誕生した。
といってもこの企業規模の人数が最初は人数が多かった。平成28年10月からは厚生年金の被保険者が501人以上の事業所に適用されていたので、いわゆる大企業で働く人が対象であった。
それが、令和4年10月からは、被保険者101人以上、そしてつい最近令和6年10月からは被保険者51人以上となった。中小企業でも従業員数が多い会社はほぼ対象になる。残るは従業員が少ない会社ぐらいだ。
尚、補足しておくがテレビでは”従業員51人以上”として紹介されているようだが、正確には厚生年金加入者51人以上である。年収106万円未満の人や70歳以上は従業員であってもこの人数に含まれない。よって、働く人は多いがパート労働者が大半を占める会社は対象に含まれていない場合がある。
なぜ、こんな制度を作ったのか?まず被保険者数の人数が501人からスタートしたのは、社会保険料の負担は半額が会社が負担するから。この社会保険料負担はバカにできない。被保険者でなかった人の給料が15%アップさせるようなものであり、人件費が増えるので会社経営に影響を及ぼす。
被保険者数の人数は会社が準備するための期間を用意していた、と解釈していい。事前にこの年からとアナウンスしていたのだから。
まどろっこしいから、はっきり言おう。
「年収106万円の壁」を作ったのは、徐々に国民年金第3号被保険者の人数を減らすことにある。国民年金第3号被保険者という制度を廃止するのではなく、稼ぎによって、国民年金第2号被保険者に移行させて人数を減らすことを目指している。
国民年金第3号被保険者をいきなり廃止したら、第3号被保険者およびその世帯にとっては負担増である。人口の女性の大多数と、その配偶者の男性を敵に回せば、選挙で確実に負ける。当たり前だが、その法律は通らないのがわかっているから、だったら第3号被保険者の数を減らして、反対するのが女性の大多数でなく一部になれば、選挙への影響が小さくなり、その法律は成立する。
平成28年10月から約10年かけて、第3号被保険者の廃止は進められていた、と考えてもよいだろう。
ちなみに、どんどん上がり続けていた厚生年金保険料率が今の18.3%までいきそこから率が上がらくなったのは、平成29年9月を最後としている。これは、その約10年前ぐらいに今からは率がどんどん上がりますが、18.3%を上限して、それ以上は負担率はあげませんよ、という約束のうえで、率をあげられていたからである。
これ以上率を上げられなくなり、増やせなくなった厚生年金保険料をどこから取ることにしたのか、わかりやすいでしょう?
ただ私はすぐには第3号被保険者の廃止はされないと思う。その理由は男女雇用機会均等法の存在。
男女雇用機会均等法により、それまでの努力義務から完全に差別が禁止されたのが平成9年(西暦1997年)の改正から。その改正男女雇用機会均等法が施行されたのは平成11年(西暦1999年)。
つまり、西暦1999年に大学を卒業し社会人になった女性は2024年現在で48歳(23歳+25年)。高卒だと44歳。
ということは、それより前の世代の50歳以上は就職で男性より差別・区別されていたと考慮すれば、今上記の年齢以上の人が国民年金の被保険者から外れる60歳になるまでは第3号被保険者は廃止されない、またはこの年代だけなんらかの配慮がされる、と私は予想している。それに10年ぐらい厚生年金に入っても、受け取る金額は微々たるものだし…。
実際の支払額と受取額を計算してみる
とはいっても国民年金だけだと少額すぎて老後やっていけない、厚生年金に加入しておいた方がいい、という意見がある。
まずは国民年金保険に40年間きちんと加入した時の金額を見てみる。
老齢基礎年金(65歳以上の高齢者に支給される国民年金のこと)
年816,000円 (令和6年4月分)…÷12か月=月68,000円
実際は物価により変動するし、年金支給の繰り上げ、繰り下げ、任意加入であったころの負担のない月、または付加年金などの各種制度があるので、65歳以上の国民全員がこの額というわけではないが、基本的にはこの額である。
ここから、健康保険料、介護保険料が天引きされるので手取り額はさらに少ない。とてもではないがこの額では生活はできない。よって、厚生年金は他の所得がない限り欲しいところではある。
では、厚生年金はいくらか?
老齢厚生年金は国民年金と違い、収入に応じて保険料が変動し、受取額も支払額にあわせて変動する。かけた月数に変動する。
老齢基礎年金と違い、皆一緒の金額ではない。
ただし、受取額の計算式は2003年3月以後は決まっていて、以下の通りとなる。
尚、実際の受取額は、物価や賃金の変動を考慮される。*2また色々な加算減算があると断ったうえで、原則的かつ簡略的な具体例を計算してみる。
尚、賞与をいれるとわかりづらいので賞与なしのパート労働とする。
①平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 2003年4月以後の加入月数
それでは、年収106万円の壁の方の場合の標準報酬月額はいくらになるかというと、
106万円÷12か月=月88,333…円
これも計算式があって、上記の月収の場合標準報酬月額は88,000円となる。
さて、1ヶ月間だけ厚生年金保険に加入した場合の厚生年金保険の年額は
88,000円×5.481÷1000×1ヶ月=年482.328円
たったの年482円である。
そして、標準報酬月額88,000円の厚生年金保険料の労働者負担額は
88,000円×9.150%=月8,052円
8052円(1回かぎり)払うと年482円受け取れる、ということになる。年収が変わらない限り、この保険料と受け取る年金は月数を書ければ算出できるが、かけた保険料にあわせて支払われる年金の割合は変わらない。
ただし、老齢厚生年金というのは段階的に年齢があがってきてはいるが、65歳になった受け取ることができ、以降、死ぬまで終身で受け取れることができる。つまり長生きすればするほど得になる。これが”保険”たるゆえん。では、何年生きれば元がとれるか?
8,052円÷482.328円=16.694…年
つまり、65歳+16.7年=81.7歳
計算方法としては、1000÷5.481=182.4485カ月分÷12か月=15.204年
つまり65歳+15.2年=80.2年
81歳または82歳まで生きればもとが取れる、という寸法だ。第3号被保険者の圧倒的多数は女性であるが、日本人女性の平均寿命は80歳後半なので、平均的にはもとが取れる、ということになり、損とはいいきれない。一方、男の平均は70歳後半なので、平均以上生きなければ損をする、ということになる。
尚、厚生年金の今の制度ができたのは昭和60年代である。それ以前とは制度が違う。今の年金受給者はその前の制度の時に現役であったので、上記の計算式とは一致しない。あくまで、年収106万円の壁というテーマにおいて、今から厚生年金に加入した場合での例である。
損をしない可能性が高いのはわかった。ただ、この106万円という年収においての厚生年金の金額を考えてみてほしい。
これも具体例を挙げてみよう。今40歳ちょうどでこれから初めて厚生年金に加入する兼業主婦とする。(結婚前には厚生年金に加入していなかったとする)。そして、65歳まで年収106万円のままで働くとしたら、厚生年金保険料はいくらになるか?
受取高齢老齢年金…482円×12か月×25年=年144,600円
本来の計算式 88,000円×5.481÷1000×300か月(※12か月*25年)=年144,698円
小数点の計算での差異なので間違いではなさそう。
但し、この額はあくまで”年”であるので、月額に計算すると、
144,698円÷12か月=月12,058円
たったの月12,000円である。国民年金月68,000円と足しても10万円に届かない。そして今支払う厚生年金保険料は月8,052円。そして、ここに健康保険料と介護保険料5,092円(東京都の協会けんぽ加入の場合)が加わる。ちなみに健康保険の被保険者から外れて負担が増えても、被扶養者との違いは、傷病手当金があるかないかぐらいである。
8,052円+5,092円=13,144円
まあこれは一つの例で、この通りになるわけではない。健康保険料率と介護保険料率は毎年変わるので、理屈上の一例である。
だが、手取りとしては減る上に、理屈上1ヶ月当たりの受給額は支払った金額より少ない。尚、国民年金分月66,000円は第3号被保険者のままでいて保険料を支払わなくても、第1号、第2号被保険者と同じ年金額が受け取れるので考慮しない。
まあ極論ではあるが、年収106万円程度で厚生年金と健康保険に入って保険料を支払うのならば、老齢年金に限って言えば、求める年金額、例えば月10万円は欲しいというのならば、それにあわせてより稼ぐか、または、週の労働時間を20時間未満にして第3号被保険者のままでいたほうがよい、といことになる。
年収の壁を越えて自ら保険料を支払うメリットがあるか
デメリットだけを説明しても意味はない。被扶養者、第3号被保険者の負担免除から外れて自ら被保険者として保険料を支払ったメリットを紹介しよう。健康保険と、厚生年金(第2位号被保険者)にわけて紹介する。
健康保険の場合・・・傷病手当金
といっても、健康保険の被扶養者から外れて、保険料を負担することになり、まるっきり損と言われるとそうともいえない。
その違いは傷病手当金である。
傷病手当金は、業務”外”の疾病(病気)になって働けなくなった場合、最長1年半にわたって、収入の2/3を補償してもらえる制度である。
これは健康保険の被扶養者にはない制度である。被扶養者はその収入で家計を支えるというわけではないからであるし、そもそも保険料を払っていないのにお金を受け取るのもどうかともいえる。
ただし、国民健康保険、いわゆる市町村国保はほぼこの傷病手当金という制度がない。
よって、被扶養者から外れて国民健康保険に入ってもメリットはほぼない。あるとしたら市町村によっては実施する健康診断とか、がん検診とかの料金が安くなるぐらいか。
厚生年金(第2号被保険者)の場合・・・障害厚生年金
さきほどの説明はあくまで老齢厚生年金の場合。
厚生年金には、ほかにも障害を負った場合の障害厚生年金と遺族厚生年金がある。
この障害厚生年金は、障害基礎(国民)年金とちょっと違い、いうなれば手厚い年金額となる。
さきほどの具体例を挙げた。かける月数が増えれば増額されていく仕組みだが、その月数が少ないと受け取る年金も当然減る。
だが障害厚生年金の場合は、このかける月数が300月未満であった場合は300月で計算される。300月÷12月=25年かけたとみなされる。保険料という扱いはここにある。
また、国民年金の場合は障害等級2級までだが、厚生年金の場合は障害等級3級まで年金がある。つまり障害の対象となる範囲が広い=手厚い。
しかも、老齢厚生年金(老齢基礎年金)と違い、税金上の所得と今はみなされないので、所得税・住民税は課税されない。
厚生年金は自分が高齢者になった時に受給できるかという不信感があるが、厚生年金にはこの「障害厚生年金」があるから入っておいた方がいい、という意見もあるくらいである。
尚、障害厚生年金の制度自体を書こうとすると、それこそこの記事が何文字かかるかわからないので省略する。国民年金も満額にはなるのだが、より手厚くなる、と思ってもらってよいと思う。
尚、遺族厚生年金という制度もあるが、これは被保険者が亡くなった場合に配偶者などの遺族に対して支給されるのだが、亡くなるのが女性で、男性が遺族の場合、男性には年齢制限があったりする。また老齢厚生年金と遺族厚生年金の2重どりは調整が入るので、共働きで男性も厚生年金加入者の場合はあまりメリットはない。
ちなみに遺族となる配偶者が女性の場合は年齢制限は男性より緩い(若いと働けるので年数制限がある)。男性と女性とで格差が設けられていることに注意が必要であろう。
傷病手当金や障害厚生年金を考えると、自ら被保険者になるという考えもアリ
説明した通り、被扶養者から外れて自ら被保険者になる場合にはメリットがある。
年収の壁突破、という政府のパンフレットほどメリットがいっぱいだとは私は思っていないし、傷病手当金も障害厚生年金も、もともとの年収が少ないとあまり金銭的メリットは少ないからである。
傷病手当金、障害厚生年金という稼げなくなった分の保証が必要だという場合は加入するのもありだろう。ただ、それならば年収106万円程度ではなく、もっと稼いだ方がいいとは思うし、時給が高くて労働時間が短い、スキルをもった専門職になれる道を探った方がいいとも私は思うが、それは人それぞれの判断である。
第3号被保険者の創設時の家庭像
第3号被保険者、つまりは夫がサラリーマンとして働き、妻は家で家事と子育てをし、労働はその空いた時間、または家計の足し程度、という役割分担があったのは昭和の話、ともいえる。
第3号被保険者というのはそういう夫と妻の役割分担が前提で作られているといっても過言ではない。妻が家事子育てをして、家庭を支えていて、夫は妻の代わりに稼ぐことに専念するのだから、妻が保険料を支払わなくても扶養と言う形で保険料を払ったのと同じような扱いをすることにしたわけである。
また、戦前までは隠居した親の収入については子が仕送りするか、同居することで支えていた。その親の収入を子が負担する代わりに、年金制度で年老いて働くことが難しくなった高齢者を支える仕組みを国が作ったわけだ。高齢者をその子供が支えるのではなく、国全体で支える、という保険制度ができたのは昭和からだ。
話がもどるが、先ほど具体的に計算した結果、年金が元を取れるのは81歳から82歳というのがわかったが、男性の場合の平均寿命は70代後半。
つまり男性はこの厚生年金保険料では損をする。おかしいではないかと異論を唱えた時、以下のように反論されていたそうだ。
「その厚生年金の負担額は半分は、妻が保険料を支払っていない国民年金の分とみなしてほしい。となると、17年で元が取れるのではなく、半分の8年ぐらいで元が取れる。つまり72歳で元が取れる。それにもし、72歳より早く死んだとしても、遺族厚生年金が妻に入るのだから、早く死んでも家庭全体で見ればもとはとれる制度だ。」
第3号被保険者の前提は崩れ、不公平感が膨らむ状態へ
上記が今の国民年金、厚生年金制度が成立した時点の家庭像である。
昔は成人女性のかなりの割合が第3号被保険者だが、この家庭像は崩れた。
共働きが増えた。個人の仕事で働く人が増えた。独身(離婚した人を含む)の人が増えた。
その結果、以下の不公平感が鮮明になった。
・同じ女性だとしても、健康保険料と年金保険料を支払う人と支払わない人がでてきた。しかし、支払っても支払わなくても受け取る国民年金の額は同じ。
・自分の稼ぎに関係なく、配偶者が国民年金第2号被保険者かどうかで保険料負担が変わる不公平。
・同じ女性なのに、結婚しているかどうか、または配偶者が会社員かどうかで、保険料の負担に差がでる不公平。
・主夫でない男性の場合は、配偶者が働いているのに、また扶養者がいてもいなくても、な厚生年金保険料と健康保険料が同じ不公平。
しかも、第1号被保険者となった場合は、第2号被保険者と比べて健康保険や国民年金の料金が高くなる上に、受け取れる金額が減る矛盾。
要するに、人の働き方、配偶者の働き方、結婚するかどうかで保険料に差が生じるのは如何なものか?
税金のように個人の収入に応じて、働きすぎると手取りが減る、という仕組みは変えるべきではないのか?
また国民年金は20歳になったら無収入であっても、学生という身分であっても、月16980円も負担が生じる。これが学生の時に社会人と結婚して国民年金第2号被保険者の配偶者になったら、同じ無収入なのに国民保険料負担は0円になる不公平感。
そして受給できる年金額は同じ。家事や子育てをするかどうかではなく、会社員の”配偶者という立場”かどうかが基準というのはおかしいのではないか?
こうなると、国民年金第3号被保険者の制度は廃止すべきではないか?せめて年収に応じた手取りが減ることがないよう保険料負担額を変動させるべきではないか?
この問題は何も最近始まった話ではない。民主党が政権をとる直前の公約の中には、国民年金は保険料ではなく、税金で賄おうとする案もあった。但し、その金額が消費税におきかえれば15%を超えるような額になること、またこれまで徴収した保険料をどうするか、という問題で頓挫した。あれ103万円の壁の財務省の意見と10年前からあまり変わらないな?
そういう意見を踏まえて、国民年金第3号被保険者の廃止が方向性して示される。そして、その対応策としてまずは106万円の壁を作り、次にこの106万円と言う数字をなくし、労働時間での判断に置き換えが始まるのだろう。
その狙いは国民年金第3号被保険者の人数を減らすことにある。ある程度減ったら、その時廃止であろう。
本当の問題は少子高齢化の進展
というのが、国の、または第3号被保険者の意見。もっともな意見であるし、そもそも負担額を会社員の配偶者という立場にいれば保険料負担は免除、というのもよくわからない。
出産や赤子を育てている時も年金をとるのか、というツッコミもあるだろうが、健康保険・厚生年金は産前産後から3歳までは今でも保険料免除である。例えば免除する年齢を小学校就学前まで伸ばすべき、という意見もあるかもしれないが、それはなんとでも対応可能であろう。
ただ、これは第3号被保険者廃止の建前。
国の本当の狙いは、成人女性にも健康保険料を年金保険料を負担させたいからだと思う。
とてもではないが、今の少子高齢化の進展で現役世代の男性と、結婚後も結婚前と同じように働く女性だけでは支えきれない。
だから負担する人を増やす。家事子育てがメインの兼業主婦にも負担してもらう。それが狙いである。
話は変わるが、増税に関しても、保険料に関しても行きつくところは、「少子高齢化」対応といっても過言ではない。働く人が少ない。扶養者の割合が多い。社会保障費が年々増えていく。
ニュースでは退職金課税の増税やら、高額医療費の上限金額引上げやら、手取りを減らす話が多く出てきてうんざりするが、なぜそんなことを政府が考えるかと言うと、少子高齢化で社会保障費が足りないからという理由である。しかし、それは本当の問題を解決しない限り、毎年毎年負担額が増える一方だ。
そう、少子高齢化という問題を解決させない限り、現役世代の人数や収入を増やさないかぎりは、負担率、負担額はどんどん上がる。
そして、子どもの出生数、出生率は下がり続ける一方だ。今すぐこの問題を解決しようとする妙案などない。こども家庭庁とか大層な組織を作っても、お金を集めて結局ばらまいているだけだ。
どこかの国政政党の党首が、女性の人権を侵害する極端な意見をいって撤回した。一夫多妻制という話をいう人もいた。それらを支持する気はさらさらないが、少子高齢化対策は、もう強制的に子どもを生ませるという極端なことをしない限りは、解決できない、といっているようなものである。
万が一、妙案が生み出されて来年、出生数が急激に増えたとしてもその子たちが成人するのは20年後。その前に、非正規で収入が少ない=年金額が少ないうえに人数が多い「就職氷河期世代」が65歳に到達する。この年代は年金だけでは生活できない人数が多い。幻影世代は確実にパンクする。年金制度、健康保険制度、そして生活保護制度はこれをもって確実に崩壊する。
こうなる前に何とかならなかったか?
この問題は、もっと前からわかっていたことだ。ただ政府は、問題の根本の少子高齢化の対策を何十年も有効策をうてなかったのだ。
それどころか、払った年金記録は消すわ、箱物施設に回すわで、散々なことをしておいてそのしわ寄せを後世の人に押し付けているだけである。
そもそも「106万円の壁」は小手先の延命策でしかない。
後はいつ社会保険制度が破綻するかだけだ。
・・・もう詰んでいるかどうかは、これからの若者が政治に対してどう行動するかにかかっている。
年配者が運営する既存マスメディアや公務員、既存政治家のいうとおりにしていたら若者は搾取されて潰れるだけ。
座して破綻するのを待つか
自助努力でなんとかするか
政治に参加するか
・・・各個人の判断である。