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雇用関係助成金の私見③ 産業雇用安定助成金 

さて、雇用関係助成金私見③から個別の助成金について私見を述べていきたい。1回目は「産業雇用安定助成金」。コロナ禍の令和3年2月、雇用調整助成金の出向部分が拡充した形で新設された助成金だ。これが令和5年4月時点で3つのコースがつくられている。以下、コースごと述べていきたい。

①雇用維持支援コース

10/11、12追記 分科会の資料によると、このコースを令和5年10月末をもって廃止(計画届提出済のものは経過措置で継続)することが審議されたようだ。そして10月12日にホームページにて廃止予定であることが公表されている。令和5年11月1日以降は新規の計画届は受けつけないようだ。現在進行中の出向の対応については継続予定のようだが、詳細はホームページでご確認いただきたい。

分科会の資料を見るに、6月26日の制度改正から新規の出向がほとんどなくなっているようだ。公表された資料を見るに、コロナ禍による雇用維持のための出向の必要性と役割は殆ど終えたといえるのだろう。

もともとは、雇用調整助成金の出向を拡充する形で創設された助成金のコース。雇用調整助成金が通常に戻っている以上、出向も通常に戻る=雇用調整助成金の出向対応になるということだろう。

ちなみに雇用調整助成金の出向は、出向”先”企業は助成金は貰えない。おそらく産業雇用安定助成金は出向先に”引き受けをお願いする”、という意図があったからであろう。

6/22 追記 6月14日に、6月26日から制度改正が改正され、6月26日以降の出向計画から支給要件が変わるとの発表があった。詳細は厚生労働省のホームページを見て確認していただきたいが、”過去”1年の間に出向元の事業所の雇用保険被保険者となった者がいないこと、という要件はかなり厳しい。簡単にいえば過去1年間で1人も被保険者を採用していたらアウトと読み取れ、これだと4月に新卒を採用するような事業所はほぼアウトだろう。詳細はガイドブックや支給要領を見ないと断定はできないが、他の要件とあわせるとこのコースは事業所の新規受付が”一部を除き終了”したようなものと思われる。

以下の文章は上記の発表以前の記事になるのでご注意いただきたい。

もともとの「産業雇用安定助成金」はこのコースのこと。新コースが増えてコース名がついた。ガイドブックをそのまま転記すると、新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が雇用の維持を図ることを目的に行う出向に対して、その賃金および経費を助成する制度である。目玉は助成率。最大90%、上限1日12000円で初期経費に10万円が支給されている。今となっては最大90%という助成率は高く見えるが、このコースができた時は雇用調整助成金のコロナ特例があり、その時の雇用調整助成金の助成率は最大100%、上限1日15000円だった。雇用調整助成金と比較し助成率で負けていた。また、雇用調整助成金のコロナ特例の休業の提出書類は大幅に簡素化されていたが、産業雇用安定助成金は計画届も必要で契約書などの書類も複雑、また出向となると出向先も見つけなくてはならず、税務処理とかも考えないといけない。コロナ禍がいつまで続くか見通せない時に事業主が休業と出向、どちらを選ぶかというのは明白であろう。利用率は詳しくは知らないが、某航空産業の会社以外どれぐらい使われていたのかと思う。

だが、このコースは令和5年4月からが本番かもしれない。というのも、雇用調整助成金の特例は令和5年3月で終了し、他の助成金補助金も軒並み3月末で終了したが、この助成金は令和5年4月以降も生き残ったからである。しかも助成率最大90%を維持したままである。また、出向終了後訓練すればこれまた助成金が出るようになった。人材開発助成金がくっついたようなものである。グループ間の出向も助成率は下がるが可能になっている。中身を見るに恐らく予算が尽きない限り令和5年度中は助成金は続くのではないか?人手不足の会社が多いと聞いているので、いまだコロナ禍で苦しんでいてまだまだ回復の見込みがないところではこの助成金の需要があるかもしれない。
ただ、この出向というのは会社が出向というものをやったことがない場合はかなりハードルが高いと思われる。例えば、出向と派遣との違いを説明できるだろうか。ただこの助成金の名前の由来をご存じだろうか。エビデンスはもっていないが、おそらく「産業雇用安定センター」からとったのだと私は思う。「産業雇用安定センター」は出向などの仲介をしている公的機関。ここに出向のことを聞けばハードルは下がるかもしれない。

と、「産業雇用安定センター」のまわしもののような発言をしてみたが、出向制度が理解でき無事出向できたかどうかと助成金が受給できるかどうかは別の話である。産業雇用安定助成金のガイドブックのわかりにくさは雇用調整助成金のコロナ特例の比ではない。ハローワークの窓口に行ってその日ですぐ書類が完成する代物ではないと思う。すでに出向制度がある会社かしっかりとした人事部門がないと恐らく計画届を作るところで躓くだろう。

スキルアップ支援コース

令和4年12月に新設されたコース。このコースも”出向”が必要になるが、こちらは”コロナの影響”というコロナ縛りがない。その名のとおり、スキルアップのために出向にいって出向から復帰した後賃金がアップしたら助成金が受給できるコースである。助成率は最大2/3と雇用調整助成金の通常版とほぼ同じである。出向にキャリアアップ助成金、または令和5年から賃上げ加算がくっついたような感じである。
なんだか使えそうな制度のようにも見えるが、Googleで「産業雇用安定助成金」を検索してみると①雇用維持支援コースと後から述べる③の事業再構築支援コースとは違い、検索に表示されないのである。そういえば、いつかの分科会の資料の議事録であまり評判のよくないコメントが載っていた気がする。支給要領を全部読んでないのでなんともいえないが、利用するにあたって制度上ハードルの高い何かがあるのかもしれない。
あと、よくみると助成金を受給できるのは出向元のみのようだ。①は出向先も助成金を受け取れるのでここは②とは違う。受け入れる出向先は助成金も得られず、スキルという名のノウハウを出向元の労働者に提供する形になる。出向先のメリットはあるのかといわれると、?である。

③事業再構築支援コース 

令和5年4月から新設されたコース。新型コロナウイルス感染症の影響等で事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、新たな事業への進出等の事業再構築を行うため、当該事業再構築に必要な新たな人材の円滑な受入れを支援するもの。ポストコロナ対応といったほうがよいか。①コロナ禍を理由に②別事業に進出する際に③特定の人を④新規雇用すると助成金がでるというものであって、産業雇用安定助成金というくくりから出向が要件からなくなった。今度は、特定求職者雇用開発助成金もどきになっている。
多分雇い入れた際の助成金額はかなり高い部類に入ると思うが、4月に新設されたコースでガイドブックを読んでいない。令和5年4月1日~令和5年6月30日(第10回分の締切日)までに中小企業庁の実施する「事業再構築補助金」の応募書類を提出し、交付決定を受けていることというのがどれくらいの難易度なのかを私は知らないので、紹介するのみのコースとなる。

以上が産業雇用安定助成金の3つのコースである。雇用調整助成金の資料で何度も取り上げられている助成金なので調べていたが、要するにコロナ対応を休業ではなく出向を促し、令和5年からは別事業進出のプラスして促している助成金だという印象。そしてさらに色々な助成金の要素も組み入れている。
ただ雇用調整助成金のコロナ特例が終ったからこれを利用しようか、という軽い感じなら最初はガイドブックの難解さにつまづくであろう。助成率90%の計算方法を一読して理解できたらすごいと思う。(多分、申請書の自動計算Excelを使った方が文字で読むより理解できると思う。)