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緊急雇用安定助成金 終了にあたっての私見(12/29)

過去の記事にも書きましたが、令和4年12月28日、緊急雇用安定助成金が令和5年3月末で終了予定であることが発表されました。今回はこの終了予定の緊急雇用安定助成金と休業支援金・給付金についての私見を書きたいと思います。例によって、エビデンスなしですので、一旦区切ります。

 

はじめに

緊急雇用安定助成金が令和5年3月末で終了予定と発表された。
12月1日から「経過措置期間」と位置付けられたことから想定できたことではあるが、なにせ年の瀬の発表。あまり報道されていないようなので、来年になって知らずにびっくりする事業所も出てきそうなくらいである。

職業安定分科会の資料について

職業安定分科会で決まった模様。分科会での資料も公開されており、その中に2つのデータがあって興味深かったので、以下取り上げる。

まず1つは「支給決定件数と支給額の推移」というグラフ。
緊急事態宣言かまん延防止措置期間に増えて、終了後は減るというとても分かりやすい資料。令和4年春のまん延防止措置が終了してからは、件数、金額も落ち着いてきた模様。この件数と金額が国レベルで見るとどうなのか私にはわからないが、少なくとも休業要請をしなければもう増えないだろう、とも読み取れる。データは11月までのようだが、おそらく助成率が下がる12月分からは金額はさらに減ることが予想される。

もうひとつのデータは「業種別の支給金額」。
業種別では飲食と宿泊が47%を占めていて、緊急事態宣言等がこの業種に直撃したことがはっきりとわかるデータである。この業種は雇用保険の対象外である学生アルバイトや、週20時間未満の労働のパート、副業で働く人が多い業種だろうから余計突出していると思われる。ちなみに雇用調整助成金では製造業が一番多かったはずだと記憶している。

ここからはこの制度があったことのよかった点と問題点について述べていきたい。

よかったところ

まずは良かったところ。当初この制度がなければ飲食業で働いていたアルバイト、パートは、時給制が多いため、労働できなれば収入は激減し、かといって代わりのバイト先もなくお金に困っていただろう。なので、この層を救済したのは良かったと思われる。特に令和2年の春頃に関しては、以下に書く問題点を凌駕するほどメリットがあったと思う。

次からは問題点をあげていく。

問題点① 雇用保険料を払っていない人対象の助成金を続ける意味

雇用調整助成金の原資は雇用保険2事業。事業主は雇用保険被保険者の賃金に上乗せして”保険料”を支払っていた。この支払った”保険料”をもとに雇用調整助成金が支払われており、こういう時のために保険料を徴収し、積立をしていたという論法も成り立つ。(助成率や上限額の上乗せ部分は税金だが、話がややこしくなるので割愛する。)
しかし、雇用保険未加入者分はその”保険料”を払っていない。つまり緊急雇用安定助成金の原資は、これまで集めていた雇用保険料でなく、純粋に全額税金が原資である。コロナ禍では、国民の多くは生活に苦労している。その中で国民の一部であるこの層の給料を税金で補償していたのは不公平。しかも未加入者への助成を約3年継続して制度もほぼ変えず続けたのは、”緊急”だからと理由にしては他と比べても長すぎると思うのだが。
 勿論、労働者の支援を雇用保険の加入/未加入で区別することが不公平という考えもある。それはもっともであり、なにも支援するなといっているのではない。ただ、失業の防止などのために事業主や労働者は”雇用保険料”を毎月支払っているのだから、保険料を支払っていない人への支援は、雇用調整助成金とほぼ同じ制度である緊急雇用安定助成金でなくてもよかったのではないか、というのが私の意見である。その理由は以下述べる。

問題点② 本当に正しい休業日、休業時間なのか

私の推測だが、緊急雇用安定助成金の対象労働者の労働時間はシフト制の人が多いのではないか。なにせ週20時間未満の労働者、学生、ダブルワークの副業が対象なので、いつが所定労働日で所定労働時間かあらかじめ決まっていたか疑問がある。コロナさせなければ、これぐらいはシフトに入っていただろうとある程度の予測はできるであろうが、確証がある休業日、休業時間はどれくらいあったのか。マスコミ報道によると、当初は雇用契約で所定労働日と所定労働時間が決まっていないといつが休業なのかわからないこと*1で混乱があったようだが、批判を踏まえ、厚生労働省は申請以前までのシフトから判断した休業日、休業時間を認めたらしい。だが、果たしてそれが正しかったのか。通常より多めのシフトを参照した結果、コロナ以前より多く稼いだ人もいるのではないか、またダブルワークの労働者は、本業、副業それぞれの事業所から受け取る分を合算すると、普段の合算した賃金より多く受給される場合があったのではないか。1つの事業所だと大抵の人は週20時間以上を休業として申請されることはないと思うので金額がそれほど多くはならないとも考えられるが、果たしてではどれくらいが正しいかというと疑問が残る。そもそも事業所の”予測”をもとに税金を投入する行為を3年も続けたのは如何なものか。

問題点③ 本当にこれからも働き続ける労働者なのか

申請書に記載された労働者は本当に今後もそこで働く予定で休業したのか。前の記事にも書いたが、労働者であることが確認できる者が対象と規定されてはいるが、当初タイムカードと賃金明細の添付だけで申請できた。雇用保険被保険者は、1人につき複数の事業所でしか登録できないし、登録データと照合は可能だ。*2。一方、未加入者は複数の事業所で申請できる。副業している場合は複数での申請も可能なので、たとえ複数で申請があったからといって直ちに誤りとは言えない。
また、さすがに存在しない名前や名義貸しは不正なので論外だが、例えば勤務が不規則で、もともとの労働日がかなり少ないヘルプのような労働者がずっと休業をしている場合、休業が終わったらそこで働くのか、それとも退職するつもりであったのが全休業で助成金をベースとして給料をもらえるから在籍したままにしていて、休業がなくなったら勤務につくつもりがなく退職する形になるのかわからないのである。要するに、その労働者が今後そこで働くつもりがあるのかわからないのである。あとになって対象労働者にグループ内や知り合いの間の役員を労働者として働く形にした場合は対象外になることが追加されているが、これはをわかりやすく言い換えると、知り合いの会社に頼んで、雇用保険被保険者になれない役員、事業主の同居親族などを、知り合いの会社に労働者として新規雇用し、すぐに休業して、緊急雇用安定助成金を申請していたのが発覚したからでないか。
結局何が言いたいかというと、上記の例のような今後も働くかどうかわからない”労働者”もどきの雇用まで、助成金を使って安定させる必要があるのか。*3

問題点④ 迅速支給と事後の不正調査というスタイル

性善説を採用し、まずはスピード支給して、不正は後になって調査する方式を3年も続けたこと。当初は混乱期なので仕方ない。だが、何度も繰り返しになるが、2,3年目とかはどうなのか。マスコミの記事とか見ると、当初日本が支給は遅れているのは申請書が多く審査に時間がかかるためで、欧州などは書類3枚で迅速支給し不正かどうかは後で調査している、といって日本政府の対応を批判し迅速支給を促した。その結果が申請から2週間後の支給である。これにより金銭面で助かった事業所、労働者は沢山いるだろうし、令和2年春頃はこの意見を間違っていないと思う。
ただ、その後はどうなのか?問題点2であげたように、短時間労働者の休業日と休業時間は結構アバウトな人もいるだろうし、申請する側から見ても申請の内容に間違いはない、と胸を張って言えるほど自信がある事業所はどれくらいあっているだろうか?お金が振り込まれているから間違っていないということだ、という考えの事業所は注意してほしい。おそらく、この迅速支給は、今後調査が入ることを前提にして支払われているので、その考えは甘い。申請する担当者の立場からいわせてもらうと、間違いがあるならば支給前に正しい数字に修正されるほうが、後になって不正とか返還せよといわれるよりもよっぽどよい。犯罪者扱いにされるのは勘弁である。かといって、過少申告と労働者にいわれても困る。迅速支給を続けて後になって不正調査されることは事業所にとっていいことではないのだ。

これに関する問題の発端はマスコミであり、その責任はマスコミにもあると思っている。(当然その迅速支給の判断をしたのは当時の政府なのだから政府に責任が一番ある。)ただ、彼らは過去の自分たちの発言を忘れたようである。その証拠に、中国の現在をみて色々言っているが、自分たちが当初ゼロコロナ、ゼロコロナと騒ぎ立てていたのを完全に忘れているるのか全く触れていない。不正を見つけて正義の味方になるのも結構だが、過去の自分たちの発言は棚に上げる、それはあまりにも都合がよすぎないか?

私見 この助成金でなく別の対応でもよかったのではないか

さて、問題点2と3は、不正をしていれば当然ペナルティがあるが、そもそも不正とは何か、その定義も私にはよくわからない。途中から運転免許証等のコピーを提出書類に追加したのは、本人確認を始めたということだろうし、始めた理由は、おそらく調べたら休業した労働者自体がいなかったケースがあったのではないかと邪推している。いくら”緊急”とはいえ、正しい休業時間等複数あやふやな制度であることを認識したまま約3年もの間続けるべきではなかったと思う。

令和2年の春などはともかく、その後は休業要請した事業所の個別対応でもよかったのではないか。どこかの資料で、雇用保険未加入者に対するフォローの仕方は緊急雇用安定助成金ではなく別の方法が良いという指摘を見たが、全く同感である。セーフティネットの再整備、と今後の資料に書いてあるが、もしかすると今後は別対応にするつもりだから終了するのかもしれない。

だから、上記の問題点から見て、緊急雇用安定助成金はもう終了してもよいと思っている。雇用調整助成金の支給額が6兆円と金額が大きいので、緊急雇用安定助成金はあまり話題にもならないが、5千億円”も”でているのはたしか。

また、週20時間未満の労働者、学生、副業先は、今となっては働く場所はありそうだし、その短い労働時間の人達ばかりに頼り続けている業種というのは、今後もその労働者の構成を続けるつもりなのか、そもそも学問がメインの学生が事業所をささえていることへの疑問もある。
学生を支えるのは労働者としてではなく、別の制度の対応でよい。
週20時間未満ならば雇用保険に加入して雇用調整助成金で対応すればよい。
副業との兼ね合いなら副業への対応を用意すればいい。
つまり緊急雇用安定助成金がいらない、というのでなく、他の方法で対応した方がよいと思うから終了でもよいと思うわけである。

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金について

続いて令和5年3月末で同じく終了予定となった、休業支援金・給付金について。

これは、そもそも雇用調整助成金が事業主経由での申請であるため、事業主が申請しなければ労働者は休業分の賃金を貰えないという問題があったから。事業主の対応でわかれるのは労働者からみれば不公平という形で始まった制度だと思っている。もともとの雇用調整助成金は今後も残るのであるから、これも早くやめてもよかった。前の記事にも書いたが、この制度を記事にしなかったのは、各労働者の申請というのがよくわからなかったのもひとつだし、そもそも雇用調整助成金か緊急雇用安定助成金で申請をすればよいし、なによりホームページで不正のことが大きく表示されたからである。おそらく、雇用調整助成金と休業支援金の2重どりをしている労働者がいることを会計検査院から指摘されて、あの不正表示がされているのであろう。

そもそも”休業”というのは労働基準法が根拠であり、そこで”休業”というのは”事業主の都合”によるというのが前提になっている。緊急事態宣言等に基づき、国や地方公共団体に休業を”要請”されたため”休業”した事業所でも、なぜ”事業主都合”の”休業”を前提とする雇用調整助成金で補償してきたのか、私はいまだよくわかっていない。だから、事業主が雇用調整助成金を申請しなかった場合にも強くでれなくて、休業支援金・給付金という制度を作ったのではないかと邪推している。ただ、労働者全員が労働基準法などの知識があるわけでもないし、労働者単位で対応できるほど役所の人員も施設もない。
ちなみに、子どもの学校が休校になって休みになった親が対応のため休みをとった場合、この”休業”ではなく”特別の有給休暇”扱いである。子どもの休校は流石に、事業主の都合の休業とはいえないからであろう。しかし、これらの制度と雇用調整助成金をごっちゃにしている労働者のSNSのコメントを見たことが何度もあった。それだけにこの制度もまた緊急扱いなのであろう。*4

まとめ

長くなった。要するに、緊急雇用安定助成金は、緊急の雇用の安定のための制度であるから、休業支援金・給付金も、緊急の対応であったから、ようやくその役目を終えるということであろう。また想定外のことが起きヤバくなったら、また”緊急”に対処すればいいだけの話である。

ただ、この終了という発表を聞いて、政府は令和4年度をもって、コロナ対応のひとつである労働者を休業させて雇用を守るという強化策は、もう延期をせず終わらせるつもりなのだな、と思った次第である。尚、雇用調整助成金は2月からはクーリング期間や支給限度日数などの要件緩和の問題になるかと思われるが、予算としてどれくらい計上したのかわからないので何ともいえない。

*1:(休業日ということは、その日が所定労働日であったことが前提となる。労働日でなければ単なる休日である。休日に賃金が支払われるということはなく、それは単なるお金をあげただけになる。)

*2:中途入社した社員の雇用保険の加入手続きをしたときに、前職の喪失手続きが終わるまでは加入手続きがきなかった記憶があるので、それがわかるということは、被保険者番号で1人1人管理されていると予想している

*3:これについては100%助成が11月末で終了し、令和5年3月末で終了予定ということがわかったので記述した。不正指南とみなされるのを避けるためである。ちなみに12月以降新規の場合は入社して即休業しても6か月以上の在籍期間が必要なので、3月終了までに6か月たたず実現不可能である。

*4:休業と休暇の違いはネットで検索すれば専門家の解説がでてくるので割愛