けーせらーせらー

仕事、メンタル、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

雇用関係助成金の私見⑭ 令和6年度予算概算要求を見て(9/3)

8月末に厚生労働省の令和6年度予算の概算要求がホームページで公開されていたのに気づいた。
そこで今回は、その中の雇用関係助成金に関して私が最初に思ったことを記事にしたい。
尚、見た資料はほとんどが1ページでコンパクトにまとめられおり、詳細についてはわからないことが多い。そこはご了承いただきたい。

キャリアアップ助成金(正社員化コース)

私は過去にこの助成金のこのコースをけちょんけちょんに書いている。
理由は、一部の社労士が「採用をあえて”有期雇用”雇用で雇い始める制度にすることで助成金が貰える!」と堂々と動画サイトで紹介しているのを見て、「非正規雇用を逆に生み出すことを誘引する助成金なんてやめてしまえ!」と思っているからである。そして、悪用が多いらしく、毎年のように要件が厳しくなっているからである。悪用を防ぐために善意の者を弾きだす、そんな助成金は必要あるのだろうか。

とまあそんな評価をしている「正社員化コース」だが、なんと予算額を増やす要求をしたらしい。冗談かと思ったがそう書いてある。

だがよく読んでみると、申請する側の助成金額は増えるのかというと微妙、という印象を持った。

まず第1に、1人あたりの助成金額が60万円になっている。令和5年度の金額が1人あたり57万円なので若干の増額である。令和4年度をもって生産性要件の加算が廃止されたので、多少の増額はありえるかとは思われた。ただし、よく見ると「2人目以降は50万円」と小さい字で書いてある。50万円だと令和5年度より減っている。2人目、というのはどういうカウントの仕方なのか、どういう意図があるのかは不明だが、単純に考えれば、2人申請だと去年より金額が減ることになる(57万円×2=114万円 > 60万円+50万円=110万円)

次に有期雇用労働者を正規雇用に転換する場合、これまで対象となる雇用した期間が6か月以上3年以内に限定されていたのが、6か月以上になり上限がなくなっている。これはよい改定だと思う。もともとこの3年という上限は5年の無期雇用転換ルールとか派遣社員の3年ルールを考慮したのだと思うが(過去の資料にそう書いてあったと思う)、この5年を経過しても有期雇用労働者のままである人を正社員に転換しても、金額は半分(5年経過したものを無期雇用とみなすため)になるが助成するということ。まあそうしないと、ちゃんと会5年の無期転換を進めている会社が損をしてしまうので当然だろう。ちなみに、無期雇用契約の人が正社員転換する場合は、もともと雇用契約が6か月以上であって、3年以内という制限は令和5年時点でもない。有期契約雇用契約の上限がなくなったということである。

令和5年度で無期雇用と”みなす”改定が増えたようだが、さらに追加。助成金額は半分になるが、支給か不支給かという0か100かの選択よりはましだろう。ただ、”無期”雇用と”みなす”はわかりづらい。無期から正規の場合は、無期の定義がきちんと正規と区別されていないと不支給になるが、無期とみなされた場合は規定がない場合でも支給されると思われる。なぜなら、法律上の”みなす”は、そうでないものをそうであるという扱いをするという意味だから。多分、初見者や法律をかじっていない人間はお断りかもしれない。

そして、限定正社員の上乗せ分がかなり拡充されたようだ。ただこの限定正社員というのは今かなり要件が難しい。ただでさえ難しくなっているキャリアアップ助成金の正社員化コースの中でもかんり難しい。一例をあげて簡単に説明すると、労働者個人の希望や状況に”配慮”して勤務時間を短縮しても限定正社員に該当しない。就業規則で定めているか、通常の正社員の定義との比較とか、他の労働者も限定正社員に該当する人がいるとか、色々確認ができて初めて支給対象となる。自社で”地域限定正社員”と呼ぼうが関係がない。あくまで助成金の定義に該当しないといけない。しかも、なんとこの上乗せ額は1事業所1回限りのようである。要件を緩和しない限り、利用するところがそんなにあるだろうかと疑問に思う。

最後に、人材開発支援助成金の自発的訓練と定額制訓練のコースを利用した場合の上乗せの拡充。これも下に数字が書いてあるが、人材開発助成金の該当するコースを利用した成立件数がかなり少ない。そもそも該当コースの成立が難しいからか、もしくは、知られてないからであろう。あと人材開発支援助成金における有期労働者の正社員化は訓練終了後から支給申請書提出日まで、つまり訓練終了後2か月以内の申請期限までに正社員化しないといけないが、そのタイミングによってはキャリアアップ助成金の正社員化コースの要件にあわなくなってしまうからではないだろうか?

最後に。報道で話題になっている「社会保険130万円(106万円)の壁」対策は載っていない。推測だが、これは令和5年度中、というか今年10月頃には開始するからであろう。

9月末追記 9月末に「106万円の壁に対する当面の対応策」」が発表されている。パブリックコメントを見るに、令和5年10月1日から数年間の期間限定の対応のようである。詳しいことがわかれば別途記事にするつもりである。

人材確保等支援助成金

なんと、休止されたコースの1つを再開するつもりのようである。ただ、私がけちょんけちょんに書いたコースについては再開するとは書いていない。(停止継続とも書いていないし、廃止とも書いていない)もう一つの方だけ再開と書いてある。数人の労働者の会社が低額の健康診断に行っただけで固定額の助成金が貰える制度をそのまま再開するとは書いていないが、この資料ではそこまでわからない。

尚、予算金額は令和5年度より減っている。休止していたものを再開するが減るとはこれいかに。多分助成金が出るのは時間がかかるからかな、と推測している。

別の資料にあったテレワークコースも引き続き実施されるようだが、右下に書いてある件数がさみしい。都道府県によっては1件も申請ないのでは?と勘繰ってしまうし、今更とも思う。

あと、よく読むと「介護福祉機器」のコース名がない。なくなるのか、単に書いていないか、別枠扱いなのかは不明。

人材開発支援助成金

今一推しの助成金、らしい。予算金額は減っているが、期間限定の人への投資促進コースと事業展開等リスキリングコースは増額である。どれだけデジタル、DXにこだわっているんだと思ったが、医療に関しての予算もそうだがDXを推したいんだろう。紙ばかりの行政の業務のデジタル化はすすめた方がいいと思うが(マイナ保険証も選択制ならば賛成である)、デジタル人材は助成金をばらまいてもわずか数年の期間、多少の訓練をしてもそう簡単に養成できないと思うが…。

と、ここまで書いたが、どうやら拡充されたコースはデジタル人材限定ではない。人への投資促進コース扱いとなった「長期教育訓練休暇付与コース」が拡充されるようだ。短期間でスキルを得られるわけがないということで、長めの休暇を取って労働者が業務命令でない自主的に選んだ訓練をした方がよいということだろうか?もともとこのコース所定労働日数連続30日以上が必要であり、高いハードルであるコースではあるが、どうなるか?

ちなみに、人材開発支援助成金だと事業主からの申請ベースだが、雇用関係助成金ではない、労働者個人が会社を介さずに申請できる「専門実践訓練給付金」などは補助率が大幅アップのようである。

これは、どこかの諮問機関か審議会か何かが言っていたとおり個人ベースでの申請のほうがいいと思う。会社の訓練では業種や職種によってはやれることが限られている。会社にとって一番多いであろう”営業職”用の訓練が明確でないから利用しづらい。”総務”なんてさらにわからない。そんななか、効果が不明な営業力アップセミナーとかを業務命令で受けさせて対象外訓練といわれるよりも、やる気のある個人がメニューから選択して自発的にスキルを得たほうがいいと私は思う。

…しかし、厚生労働省は国家資格の「キャリアコンサルタント」が好きだな~。キャリアコンサルタントの資格は維持費が高いからそのコストに見合う報酬が得られるかというと微妙である。

あと「リスキリング」が「リ・スキリング」という表現に代わっていた。リスをキルすると思われたのだろうか?

産業雇用安定助成金

コロナ禍で生まれた出向用の助成金だが、なんだかコロナ禍対応のコース以外のものはそのまま継続する予定のようである。コロナ禍を理由にしないスキルアップ出向や、専門人材の雇い入れがどれだけ利用があるのかは知らない。

終わりに

以上である。特開金やトライアル、建設用のコースなどは現状との変化があまりわからなかったので記事にしていないが、資料にあったので令和6年度も継続予定、と推測している。あと、予算要求なので金額が中心の資料。要件とかについてはわからない。確定するのは3月末。素人にとっては、厚生労働省は来年度こういう考えなんだな、というぐらいの理解でよいと自分で思っている。