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雇用関係助成金の私見⑬ 建設業向けの助成金 まとめ

これまで記事にしてきた雇用開発関係助成金の各助成金のうちの一部においては、各コースの中に”建設業用”というのが散らばっていると紹介してきた。”建設業用”のコースは助成金名で調べるより、建設業用は別枠としてみたほうが早いとして説明を省略してきた。今回はその”建設業用”の助成金についてピックアップしたい。

法的根拠

そもそも、この建設業という業種に限った助成金が存在する理由は「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」があるからである。その条文”第9条”で、建設労働者の雇用の安定、能力の開発に関する”助成”について規定し、”第10条”で第9条の助成の財源として「雇用保険料」を上乗せするという規定している。そのため、建設業の区分が「雇用保険法」上の建設業は雇用保険料を多く支払っている。雇用保険料率において”建設業”が高い理由の一つはこの法律のためでもあるともいえる。そして、高い理由がこの助成金のためならば、建設業事業所としては利用できるのならば利用したい。

経緯

色々な助成金に散らばった各コースはかつては「建設労働者確保育成助成金という名称の助成金だった。これが平成30年に今のように色々な助成金に分離された。なぜかは私は知らないし、分離したのにホームページやパンフレットはそのまま建設業で別枠にし一括りで説明するというというよくわからない仕様なのも理由は知らない。

ただ、これは名称の問題として対応すれば結果的には問題はないだろう。

尚、私は建設現場の業務経験がないので、現場にとってどんな訓練や施設が必要なのかもわかっていない。そのため以下の記載に間違いがあるかもしれないのでその点はご容赦いただきたい。建設業の方は労働局や業界団体や登録教習機関*1などが詳しいので、そこで確認するのもひとつの手だと思う。この記事はどちらかというと”非建設業”の方か”建設業”でもこの助成金自体を知らないところ向けになっていると思う。

ここでの建設業とは雇用保険料率が高いの建設業

この記事で言う建設業は基本的には、高い雇用保険料率(令和5年度は労使合算で18.5%)支払っている建設業である。建設業法に基づき許可をとっている”建設業”とイコールではない。どうやら支給要領を見るに建設業の許可を得ていても雇用保険料率は「一般の事業」扱いのところがあるからのようだ。だからなのか、一部の助成金は申請書の添付資料に雇用保険料申告書(雇用保険料率がわかる)があったりする。

尚、コースごとに取り扱いは異なる。雇用保険法上の建設業”だけ”のコース、建設法上の建設業”でも”対象となるコース、雇用保険法上と建設法上の建設業両方のミックスでも”場合によっては”対象となるコース、女性労働者が対象ならば建築法上の建設業でもよいコースなど色々ある。詳細はホームページなどで確認されたいが、高い雇用保険料を支払っている建設業はほぼ対象と思えばいい。そんな会社がいるのか?と思うだろうが、世の中複数の業種をやっている会社はあるので一般保険料率で支払っている会社もある。

対象となる事業所

中小企業限定のコース(大企業は対象外。他の助成金では助成率は低くとも対象となったりするのが多いから注意)がある。また、解雇要件がないコースもある。

前置きが長くなったが、以下各助成金のコースについての説明に移る。忙しい人、読むのが面倒な人は、一番最後の、人材開発支援助成金の”技能実習”コースだけでも良いと思う。このコースが一番利用が多いと聞いたので念入りに調べている。

トライアル雇用助成金

トライアル雇用助成金の建設業は1つでありかつ上乗せ助成金である。

・若年・女性建設労働者トライアルコース

トライアル雇用には「一般」と「障害」のコースがあるが、この2つのコースの上乗せ助成である。「一般」「障害」のコースで助成金が支給される場合であって、対象労働者が建設業で働く35歳未満または女性であって、建設現場で働く対象職種の人(対象となる職種は定められている)の場合に上乗せ助成される。このコース名で若年だったらどの業種でもいいように見えるがそうではない。あくまで建設労働者のなかの「若年」と「女性」を対象にしているコースである。

人材確保等支援助成金

人材確保等支援助成金の建設用のコースは3つある。人材確保等支援助成金だが、離職率は関係ない模様。なぜ人材確保等支援助成金の枠組みにいるのかよくわからないが、建設業用の雇用管理コースがかつてあったからだろうか?以下その説明。

・建設キャリアアップシステム等普及促進コース

このコースは事業主ではなく、建設事業主団体・職業訓練法人向けである。そのため、パンフレットの事業主向けには掲載されていない。「建設キャリアアップシステム等普及促進事業」をすすめるにあたってかかった経費の一部を補助する助成金である。

・若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)

またもや若年と女性である。長い名称で、スローガンのようなコースだが、労働者の技術向上、労働災害防止、技術力向上、女性労働者の入職や定着の促進、建設事業の役割や魅力を伝える啓発活動などの色々な事を行った場合に助成されるということで、どうやら何も若者、女性限定ではないようだ。かかった経費の助成であり、その経費は3種類あるようだ。制度導入助成という一律固定金額ではないのでかかった費用との差額で「利ザヤ」で稼げるわけではない。

・作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)

①「女性専用作業施設設置経費助成」と②「作業員宿舎等経費助成」の2つがある。

①は女性専用の更衣室、現所、浴室、シャワー室を建設現場にて賃借する場合に助成される。またもや女性用。建設業の女性労働者をなんとしても定着させたいのかもしれない。女性”専用”のものが対象であって、男性労働者が使用できる施設も当然必要である。

②はコース名には書いていないが被災3県(岩手県宮城県福島県)に所在する工事現場において作業員宿舎、賃貸住宅、作業員施設の賃借を行う場合に助成される。対象となる県が限定されていて、また「新たに雇い入れる」労働者の宿舎に限っていて、かつ新たに雇い入れるルートはハローワークや民間職業紹介事業所経由に限っている。

結構利用しやすそうなコース名ではあるが、支給要件のハードルは高いイメージを持った。

人材開発支援助成金

人材開発支援助成金のコースは2つの建設業用のコースがある。人材開発支援助成金の対象訓練というのは、職務に関連する専門的な知識や技能の習得でありこれは建設業用のコースでもあっても変わらないのだが、建設業用のコースというのは、ある程度最初から訓練の内容が指定されていて別枠になっていると考えるとわかりやすいかもしれない。利用の大部分は”技能実習”コースのほうらしい。

・建設労働者”認定訓練”コース

このコースは都道府県が認定する訓練、略して「認定訓練」を実施した場合に助成されるものである。根本的な部分は同じなのだが、「経費助成」と「賃金助成」は別物と考えたほうがいい。現に同じコースでも「経費助成」と「賃金助成」はそれぞれ別個に申請書を提出する形になる。

「経費助成」について

はじめにいっておくと、この経費助成を受け取るのは、訓練を実施するもの、つまり訓練実施期間である。訓練を受講する側の事業主ではない。

対象となる実施者は下記の2つを満たす必要がある。

イ 認定訓練を実施するものであること。
ロ 当該認定訓練の運営に要する費用について、広域団体認定訓練助成金」の支給又は認定訓練助成事業費補助金の交付を受けて都道府県が行う助成を受けるものであること。

助成金額は”助成対象経費”とされた額の1/6支給される形である。

都道府県から書面で受け取った「認定訓練」の書類が証拠書類となる。

「賃金助成」について

「人材開発支援助成金」の「人材育成支援コース」の助成対象となった訓練”日数”に1日あたり3,800円を乗じた額が支給されることになる。

ざっくりいえば、人材育成支援コースの助成金に金額が上乗せされるコースなのだが「賃金助成」は労働局が支給決定した助成対象訓練”日”に上乗せされる形ということになる。

ちなみに認定訓練の場合、人材育成支援コースの方では経費助成は受け取れないだろう。というのも、都道府県からの補助金助成金を受け取っている場合の受講料は経費助成対象外だからである。申請書の中の訓練時間を記入する欄に訓練実施団体が〇をつける欄があるのは、この都道府県からの補助金助成金のことを指す。

・建設労働者”技能実習”コース

この建設業向けのメインコースといっても過言ではない

「認定訓練」コースは上乗せだが、「技能実習」は単独で申請する訓練である。尚、人材開発支援助成金の「人材育成支援」コースでも申請可能な訓練があるが、こちらの方が助成率が高い。あと「外国人技能実習生」用のコースという意味ではない。(外国人実習生=対象あるいは対象外、というわけではない)

労働安全衛生法という法律がこの訓練のベースとなる。その法令に労働者の安全衛生に必要な講習、教育、教習などが規定されていて、その中には「安全衛生教育」「特別教育」「教習及び技能講習」などが定められている。

「人材開発支援助成金」の「人材育成支援コース」は上記のうち「教習および技能講習」などが対象であり「安全衛生教育」「特別教育」などは対象にならない。(対象となる訓練の内容は事業主向けQ&Aを参照のこと)

雇用調整助成金の教育訓練は「免許及び技能講習」でさえ基本訓練対象とならない。(ガイドブックより法令で義務付けられている訓練は雇用調整助成金は対象外)

一方、この建設労働者技能実習コースは「安全衛生教育」「特別教育」「技能講習」も対象となりうるのである。ただしパンフレットに指定されたものに限定される。

そもそも人材開発支援助成金の訓練というのは助成金の対象なのか対象外かわかりづらいのだが、建設業用のコースは具体的に表に書いてあるものであるため、比較的わかりやすいという利点がある。勿論、表だけでは判断がつかないものもあるが、訓練実施期間である登録教習機関等が助成対象かどうかを大体は把握しているらしいので、ぶっちゃけ他のコースと比べてかなりとっかかりやすい。登録教習機関と訓練によっては助成金のことを教えてくれる場合もあるだろう。さらに訓練の実施団体が登録教習機関で全て完了する場合などは計画届の提出はいらない。

尚、建設業の労働者には、”技能実習”コースしか使えないという意味ではない。建設業でも他の業種同様、人材開発支援助成金の各コースを使える。”技能講習”コースに該当しない訓練は他のコースを利用すればいい。

ややこしいのが、訓練のなかには人材開発支援助成金の”人材育成支援コース”と”技能実習”コースの両方で申請が可能な訓練があるということだろう。

では人材育成支援コースと建設労働者技能講習どちらでも申請できる場合、どうすればいいか?結論から言うと、建設労働者技能実習コースを利用した方がいい。以下理由を説明すると…。

  1. 「人材育成支援コース」の教育訓練の時間は10時間以上が最低ラインだが、このコースの場合は訓練時間が1時間でも可能である。
  2. 2賃金助成は1””あたりの金額である。(ただし原則1日あたり3時間以上の訓練)他の人材開発支援助成金の賃金助成は〇分単位で計算される。
  3. 経費助成は、45%、50%,75%、80%のいづれかである。人材育成支援コースの中小企業の助成率は45%だから、それよりは有利である。
  4. .建設用コースの方が申請書類が圧倒的に少ない。要するに事務負担が少ない。(これは提出書類のチェックリストを見ればわかるであろう。)
  5. 支給要件に解雇要件がない。(賃金要件、手当等要件を除く)

また「技術検定」もこのコースの対象になる。これもあらかじめ対象のリンクがパンフレットに張られている。(7/11時点ではリンクで飛んでも該当ページがエラーになると判明…おいおい…)

なにもかもいいように思うが気を付けないといけないところもある。

1つは法令に規定されている「技能講習」等の”すべて”が対象ではないということ。ガイドブックに書かれている表にのってあるものしか対象ではない。例えば、フォークリフトの操作は法令上「特別教育」と「技能講習」があるのだが、「技能実習」コースの表に記載されていないため訓練の技能講習コースでは助成対象外である。ただし、フォークリフトの技能講習は人材育成コースでは対象訓練になるので、人材育成支援コースで計画し、申請することになる。

また計画届がないということは実際講習を受けて申請した後に初めて対象外という事実を知る、というケースもある。これは申請する側としてはちょっと怖い所がある。計画届を1か月前に事前提出するというのは事前提出忘れというリスクがあるが、助成対象外の訓練である場合は申請前(時期によっては訓練開始前)に知らせてもらえる場合があるという利点もある。*2

2 対象となる労働者は雇用保険料率が高い事業所で働く労働者が原則

高い雇用保険料率を支払っている事業所で勤務する労働者が対象。

留意事項

ただ紹介だけしては匿名ブログとしては面白くないのでひとつ留意点を。それはどこかというと、所定労働時間(日)と時間外労働に関する割増賃金であろう。これは助成金全般にいえることだが時間外労働分について法律に基づいた割増賃金が発生する場合、その割増賃金の支払いが確認できなければ、助成金が不支給になる可能性がある*3。1日の所定労働時間より訓練時間が短かったからと言って給料が所定労働時間分支払わなかった、つまり給料を減らした場合は不支給になる可能性がある。

なぜこんなことを書いたかというと、上の”技能実習コース”は1日当たりの賃金助成だが、1日あたりとなると、所定労働時間外で行われた訓練にも助成されるということである。訓練が数時間でその前後の時間休んだとしても助成金が1日分でるが、一方で、給料も1日分支払う必要があるということである。他の人材育成支援コースは令和5年度の現時点では、”所定労働時間内”の訓練しか賃金助成はない。つまり、建設業用の訓練は訓練時間によっては、”所定、法定労働時間””外”部分も賃金助成を受けられる、とも読み取れるのである。

だが、そうなった場合”所定、法定労働時間外”に行われた訓練については、割増賃金が支払われているか確認されると支給要領に記載があるので、上記赤字の通り時間外管理と割増賃金の支払いは必要事項となるであろう。

*1:労働安全衛生法に則って、技能講習又は教習を行う機関として都道府県労働局長に申請し登録された機関

*2:但し、計画届の受理されたことをもって訓練が助成対象となると認定されたわけではないので注意。計画届を見て対象外であることを教えてくれる場合があるという意味である。人材開発支援助成金の計画届の受理の判断は基本的には申請用紙の提出漏れや記入間違いがないかであり、計画段階で助成訓練の対象かとどうかという判断するという規定はない。尚、一部労働局ではトラブル防止の為事前に知らせてもらえるケースがある

*3:賃金が適正に支払われていること、という支給要件に抵触するため