けーせらーせらー

仕事、メンタル、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

雇用関係助成金の要件の読み方のコツ

久しぶりに雇用関係助成金の話。今回は、助成金の支給、不支給を左右する要件をどう読み取るかというコツについて。

私は何回か助成金の申請を行ったことがあるが、この支給、不支給の判断となる理由が理解できずに苦しんだ記憶がある。

とある助成金が自社にあうのでないかと思い、ハローワークにある1冊にまとめた本を読んでもピントこないので、とりあえず、計画書・申請書に直接書いて提出をした。かなり時間がたってから、審査部門(労働局の部署)から問い合わせがバンバンくる。相手は何を根拠にそんなこといっているんだ?と思っていたが、どうやらガイドブックと支給要領をベースに話していたようだ。公的機関の助成金補助金は何度か申し込んだことがあったが、この労働局管轄の助成金はどうやらかなり細かいところまでみてくるようだった。

ということでがわかったが、本を読んでもなかなか理解できない。そんな時、書き手、作り手の意図を考えれば理解が進むのではないかと思ってよんだところ、理解が進んだと思っている。勿論、作り手に会ったことも話したこともないので推測でしかないが…。

具体的には、助成金の制度を作っている人は以下のことを考えているのではないかということだ。

  • 1 助成金が作られた趣旨から外れたことを防ぐため対象外としたい
  • 2 不正、不適正、制度の穴をついたやり方を対象外としたい
  • 3 他の法律を含めて、その整合性はとらないといけない

具体例として、キャリアアップ助成金の正社員化コースの対象となる労働者のルールを見ていく。尚、断定口調にしているが、当然ながら、私の推測であって正しいかどうかは保証できない。…だと思う。とすべて文末に続くが、実際書くとうっとおしいので省略している。ご了承いただきたい。

 

 

①有期雇用労働者または無期雇用労働者 (次のアからエまでのいずれかに該当する労働者)

有期雇用、無期雇用労働者のうち、次のアからエのどれかに当てはまらないといけない。4つといえども、アが通常版、イが派遣先労働者の直接雇用、ウがアの例外、エが本来対象外の紹介予定派遣の特例である。

ア 支給対象事業主に、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算(※1)6か月以上受けて雇用される有期雇用労働者(※2),(※3)または無期雇用労働者

通常の大原則の要件だが、いきなりの難問である。それにこの※。これを面倒になって読み飛ばし無視したらここに引っかかって不支給になりかねない。以降、切り離してみていく。

ここで対象となる有期、無期雇用労働者の定義が述べられている。

1「賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分」について

これはわかりにくい表現なので別用紙のQ&Aで説明されている。そこで賞与、退職金、基本給で計算方法が異なる、と書いてある。これでも意味がわからないが、複数のQ&Aを読むに賞与の支給方に変化をつけるか、基本給を月給と時給にわけるなどすればよいということらしい。

また、同一労働同一賃金にも気を付けないといけない、と書いてある。つまり、正規と非正規の間に差をつける必要があるが、その差にも合理性を持たせないといけないわけである。例えば、〇〇手当の金額に差をつけるだけではダメな可能性がある。

尚、この定義は令和4年10月1日から追加適用された定義である。計算方法はわけるが、同一労働同一賃金も気をつけろというのは一体どういうことだ?という疑問がでてくる。

Q&Aに明示されている、非正規は時給制、正社員は月給制というやり方が一番わかりやすいかもしれない。

そして、なぜこのような定義がでてきたかという理解をするために、最初に述べた作り手の理由の1、2が重要になるわけだ。過去の記事にも書いたが、例えばキャリアアップ助成金獲得狙いのために、以前は時給1000円の人を非正規とし、時給1030円にして正社員と言い張れば、助成金獲得ができたわけだ。賞与も退職金もなしのまま。それでは、何のために正社員化を助成金で後押しするか意味がわからない。単に時給アップして契約期間を定めありっからなしにしただけで1人あたり60万円もらえる。この時給を月給に置き換えても同じ。今最低賃金の上昇率がかなり高い。となると最低賃金分をあげただけも対応できてしまう。これが抜け道。国が求めている「正社員」というのはその給料で生活が安定する、結婚にも子供を持つことにも踏み切れる固定的な給料を求めているのであろう。そういう趣旨のためにこの規定を作ったと理解。

2「就業規則等の適用」について。

まず「就業規則」とわざわざ明記しているのは、労働条件通知書などでは後付けでも急にでもなんとでも会社内部で変えられるため不正の温床になりやすい。そこで「就業規則」という会社のルールであり、労働基準監督署に届出済のものを根拠としている。では「就業規則」の届け出は申請後でもできるからこちらも対応できるでしょ?と思った方。その抜け道を防ぐため、後に述べる「適用を受ける」と、Q&Aにある「遅くとも申請前の届け出」が決められているわけである。

3「就業規則”等”」について。

”等”などは労働協約でも可能としているから。基本的に「等」という言葉は法律上、何をさすか具体的に決めておかなければならないルールがある。よって、例えば社内規則は”等”に含まれない。

4「6か月」について。

正社員化コースは転換前に必ず6か月間の非正規雇用の期間を設けないといけない。早く正社員化するのは労働者にとって有利だから早くしてもいいだろう、と勝手に解釈してはいけない。なぜ「6か月」必要なのかは、例えば1日だけ非正規にして2日目から正社員にしてもOKになってしまう、つまり、本当は正社員だったものをわざと数日間だけ非正規雇用するという不適切な行為を防ぐためだからである。就業規則に定めたルールに基づいて転換する。これが大前提である。尚、触れてはいなかったが障害者正社員化コースは違うケースもあるので注意。

5「適用を受けて」について。

これにより、例えば正社員転換1日前の正社員転換が決まった後に急遽就業規則を作って届け出をしても、この規定で不支給となる。

※1

支給対象事業主との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と次の有期労働契約の初日との間に、これらの契約期間のいずれにも含まれない空白期間が6か月以上ある場合は、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は通算しない。また、学校教育法に規定する学校、専修学校または各種学校の学生または生徒であって、大学の夜間学部および高等学校の夜間等の定時制の課程の者等以外のもの(以下「昼間学生」という)であった期間は通算しない。以下同じ。

→これは「6か月間」の定義を明示している。「6か月」は”通算”であり”連続”ではない。だが間が空いた場合、その”間”は6か月以内に限るということ。また学生アルバイトから卒業後すぐに正社員した場合は適用しないという意味である。

※2

有期雇用労働者から転換する場合、雇用された期間が通算して3年以内の者に限る。有期雇用労働者から正規雇用労働者に転換される場合、当該転換日の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所において、無期雇用労働者として6か月以上雇用されたことがある者は、転換前の雇用形態を無期雇用労働者とする。

→有期雇用労働者の定義その1。※2という表現だがかなり重要箇所で3年以上雇用していた場合対象外となる(現状)。そして、無期雇用だったのにあえて有期雇用に変えて、助成金額を増やす行為を防止するための文章が続く。

※3

有期雇用労働者等に適用される雇用区分の就業規則等において契約期間に係る規定がない場合は、転換前の雇用形態を無期雇用労働者とする。

有期雇用労働者の定義その2。これも重要。就業規則に「有期雇用労働者」とはどういったもので、どの規定が適用されるのか、と言う定義を設けていない場合は、無期雇用扱いにする、という意味。Q&Aに書いてあるとおり。就業規則等に正規社員、有期契約社員、という定義を作って契約期間についての定めを記入しておかないと、有期でも無期扱いにする、という意味である。

これも急ごしらえで転換前は”有期”と言い張るのを防止するためであろう。

イ 6か月以上の期間継続して派遣先の事業所その他派遣就業場所ごとの同一の組織単位における業務に従事している有期派遣労働者または無期派遣労働者(※4)

派遣労働者を直接雇用する場合のことをいっている。同一の組織単位における、とか意味不明な人もいるかもしれないが、派遣法には色々ルールがあって、それのことを指している。派遣社員を受け入れるならば知っておいておかしくないルール。派遣会社任せでは不支給になりかねない。

※4

昼間学生であった期間を除く。有期派遣労働者から直接雇用する場合、雇用された期間(派遣元事業主に有期雇用労働者として雇用された期間)が3年以内の者に限る。同一の派遣労働者が6か月以上の期間同一の組織単位における業務に従事している場合に限る

→派遣法のルールその2。派遣社員を受け入れる場合は当然知っているべき3年ルールのことを言っている。

ウ 支給対象事業主が実施した有期実習型訓練(人材開発支援助成金(人材育成支援コース)によるものに限る。)を受講し、修了した有期雇用労働者等(※5)であって、支給対象事業主に、賃金の額又は計算方法が正規雇用労働者等と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上(転換日までの雇用期間が通算6か月に満たない場合は、雇い入れから転換日までの適用を)受けて雇用される者

アの例外。その例外とは「6か月」の期間の例外である。5行目の赤字が重要。人材開発支援助成金の旧名「特別育成コースのうちの有期実習型訓練」受講者の場合は訓練終了日の2か月以内に支給申請期限があり、その申請日時点で正社員化していないと人材開発助成金の支給は受けられなかったが、それを受けようとすると、「6か月」未満になってしまうケースがあるから。つまり、他のルールとの整合性を取るための例外措置。ちなみに人材開発支援助成金のコースはかなりあって、そのうちの一部はキャリアアップ助成金の上乗せができるが、「6か月」未満の例外は、この人材育成支援コースの有期実習型訓練だけ。

※5

有期雇用労働者から転換する場合にあっては、雇用された期間が3年以内の者に限る。
賃金の額又は計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用については、令和5年10月1日以降に転換する者より適用する。

→これはアと同じことを言っている。

新型コロナウイルス感染症の影響を受け、就労経験のない職業(※6)に就くことを希望する者であって、紹介予定派遣(※7)により2か月以上6か月未満の期間継続して派遣先の事業所その他派遣就業場所ごとの同一の組織単位における業務に従事している有期派遣労働者または無期派遣労働者(以下「特定紹介予定派遣労働者」という)(※8)

紹介予定派遣というのは、もともとはキャリアアップ助成金の対象外であったはず。いつの間にか、新型コロナウイルスによる例外規定ができた。それがこれ。キャリアアップ助成金はほんとにさらっとこういうことをする…。

※6

職業安定法第15条の規定に基づき職業安定局長が作成する職業分類表の小分類の職業をいう。パート・アルバイト等を含め、学校在学中のパート・アルバイト等は除く。

→小分類については検索するとでてくる。他の助成金でも終了経験のない業種とかの判断に使われる分類表。

※7

当該派遣期間中に次のaからcまでのいずれにも該当する派遣元事業主が実施するOFF-JTを8時間以上実施受講 (派遣労働者のキャリアアップに資する内容のもの)しているものであること。当該派遣期間の開始日の前日から起算して過去6か月以内に、公共職業訓練、求職者訓練または労働移動支援事業として、厚生労働省が派遣事業者による研修・紹介予定派遣を活用した就労支援等を委託して行う事業(紹介予定派遣を活用した研修・就労支援事業)に基づく訓練を修了した者を除く。
a 紹介予定派遣に係る派遣労働者を雇用する事業主であること。
b 訓練期間中の対象労働者に対する賃金を適正に支払う事業主であること。
c 次の(a)から(c)までの書類を整備している事業主であること。
(a) 対象労働者に係るOFF-JTの実施状況を明らかにする書類
(b) OFF-JTに要する経費等の負担の状況を明らかにする書類
(c) 対象労働者に対する賃金の支払いの状況を明らかにする書類

→長い!要するに、これは紹介予定派遣の直接雇用が対象になるのは、人材開発支援助成金やほかの訓練制度を利用した場合限定ということ。

※8

昼間学生であった期間を除く。有期派遣労働者から直接雇用する場合、雇用された期間(派遣元事業主に有期雇用労働者として雇用された期間)が3年以内の者に限る。また、同一の派遣労働者が2か月以上6か月未満の期間同一の組織単位における業務に従事している場合に限る。当分の間の取組における暫定措置。

→しつこく、例外であることと、派遣の期間のことを言っている。つまり、派遣労働者の直接雇用は「派遣期間」が最重要であるから、これだけ繰り返し言っているわけである。

正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期雇用労働者等でないこと。(正社員求人に応募し正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた者ではないこと。)

正社員で内定を出したけど、初めは非正規雇用で雇う形にすれば、キャリアアップ助成金を貰える、金稼げる、俺賢い!というふざけた行為を防ぐため。正社員求人なのにキャリアアップ助成金を受けるために非正規雇用で雇う形にするね、ということをしてはいけない、ということ。これは支給申請書に「はい」「いいえ」の記入欄がある。つまり、後になってそんなルール知らないとは言わせないための証拠書類。これを破れば不正受給とされても文句をいえまい。求職者も、正社員で募集し内定したのに、最初は非正規で、といわれたらこれを疑うこと。不正の片棒を担ぐことになる。自分の署名欄も支給申請書にあるから。

③正社員化の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所または資本的・経済的・組織的関連性からみて密接な関係の事業主(※9)において正規雇用労働者として雇用されたことがある者、請負もしくは委任の関係にあった者または取締役、社員(※10)、監査役、協同組合等の社団もしくは財団の役員であった者でないこと。

グループ会社間を渡り歩きする労働者は、キャリアアップ助成金は受けられない、ということを長々と説明している。それができたら、グループ間移動で助成金が打ち出の小槌になってしまう。また役員であったものが退任した際、非正規雇用にして正社員化しても同様に趣旨から反するのでダメ。

※9

財務諸表等の用語、様式および作成方法に関する規則に規定する親会社、子会社、関連会社および関係会社等をいう。以下同じ。

上記グループ会社の定義。連結決算に似たような定義。

※10

社員について念のための説明だろう。他の※は用語の定義を説明しているが、これは注釈。

④ 正社員化を行った適用事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族(※11)以外の者であること。

親族を正社員化して助成金を貰うのは趣旨に反するから。というか、親族ならばはじめから正社員として雇えよ、または役員扱いだろ、という話。

※11

民法明治29年法律第89号)第725条第1号に規定する血族のうち3親等以内の者、同条第2号に規定する配偶者および同条第3号に規定する姻族をいう。

→親族の定義。根拠となる法律を明示している。

⑤ 支給申請日において、正社員化後の雇用区分の状態が継続し、離職(※12)していない者であること。

キャリアアップ助成金獲得のための期間が過ぎたら、もとの非正規に戻したり、解雇したりする輩がいるからだろう。

※12

本人の都合による離職および天災その他やむを得ない理由のために事業の継続が困難となったことまたは本人の責めに帰すべき理由による解雇を除く 。

→だからといって自己都合退職など事業主のせいでない退職まで不支給にはしない、という注釈。

⑥支給申請日において、有期雇用労働者または無期雇用労働者への転換が予定されていない者であること。

上記⑤に似たようなものだが、助成金獲得のために一時的に正社員とさせる行為は趣旨に反するから。不適切対応への脅しのようなものである。

⑦正社員化後の雇用形態に定年制が適用される場合、正社員化日から定年までの期間が1年以上である者であること。

定年まで1年未満ならば、それは1年契約の有期雇用契約と同じじゃね?ということ。これが認められるならば、ずっと続いた1年契約の非正規雇用を定年の1年間だけ正社員化しただけでも対象になる。助成金が打ち出の小づちになる。

⑧ 支給対象事業主または密接な関係の事業主の事業所において定年を迎えた者でないこと。

例えば60歳で定年し、退職しました。65歳までの再雇用制度で非正規として引き続き働くことにしました。半年後正規雇用として契約しなおしました。キャリアアップ助成金を下さい、というのはダメということ。

障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律施行規則に規定する就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること。

終了支援施設A型という制度を知っている人ならわかるはず。A型は結構助成金の対象にならない場合がある。B型は雇用契約を結んでないのでそもそも該当しない。

以上。具体例が悪すぎた。7500字にもなった。長すぎる。反省している。しかし、これ「対象労働者」の定義だけでこの文章である。

キャリアアップ助成金の正社員化コースを題材に選んだのにはわけがある。要するに要件が厳しくなり、注釈が増えまくったのは、不正というか、ルールの抜け穴を狙って、形上の正社員化をして助成金を稼ぐ行為を止めるためだろう、ということをいいたかったのである。

このとばっちりを受けて、数年前と同じ正社員化をしたら、要件に合わないので不支給といわれたところは、こういう風に趣旨に反する行為を防止するための改正があったことを把握しないといけなくなったわけである。特にキャリアアップ助成金は。

うちの会社はそんなとこと違うと弁明しても明文化された以上無理。そもそも、不適正な行為をしているかどうかの見分けなどそうそう簡単にできるわけではないから、要件を厳格化して対処しているのだろうから。