雇用関係助成金の私見7回目。今回はトライアル雇用助成金について。
まずは、この助成金の一般トライアルコースの原則金額を示したい。
助成金 …月額4万円×最大3か月=最大12万円
雇用関係助成金としてはかなりの少額である。助成金の獲得目的を優先して行う金額ではない。よって、「トライアル雇用」という制度を理解し利用しようとすることが先にあって、助成金の受給は2の次といったところだろう。
最初にこの額の助成金を勉強しても…と思ったが、会社として利用する意義と価値がありハローワークで「トライアル雇用」として求人をかけるのならば、助成金についても知っておいたほうがいいだろうとは思い直したところである。労働者にとっても基本3か月間という雇用制度について理解したうえで応募されたい。
- 制度の基本的な仕組み
- 助成金額(途中で退職した場合)
- 1か月のカウントの仕方
- Ⅰ一般トライアルコース
- Ⅱ障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース
- Ⅲ若年・女性建設労働者トライアルコース
- 小噺
- 終わりに
制度の基本的な仕組み
非常にわかりやすい。HPから抜粋して説明すると以下のとおり。
- 職業経験の不足などから就職が困難な求職者等を
- ハローワーク等の紹介を通じて雇い入れ
- 一定期間試行雇用(以下「トライアル雇用」)した事業主に対して助成。
事業主の方で具体的な話をすると、ハローワークに「求人票」を作成するときに「トライアル雇用」の話をすれば、担当者が案内してくれると思う。(全国すべてのハローワークがそうだとは断言できないが、ハローワークに聞けば対応してくれると思う)。申請書の名前が「報告書兼申請書」になっているのはそのため。つまり、助成金の申請と同時にハローワークに報告する形。
一応補足すると、トライアル雇用(つまり1~3か月の有期雇用契約)終了後に雇い入れをしなくても助成金は受けられる。
雇い入れる場合は”一般”のコースの場合は、トライアル雇用終了後、常用雇用として契約(期間の定めがなく、かつ所定労働時間が正社員と同等)を結ぶ必要がある。”障害者”トライアルの場合は有期雇用契約でも可能。
また「トライアル雇用」を労働者本人が希望することが要件であるため、雇う側、雇われる側双方が合意の上で「トライアル」雇用がスタートする形になる。
助成金額(途中で退職した場合)
最初に月4万円と書いたがあくまで原則。途中退職したり労働日数が減ったりする。「特開金」と異なり、自己都合の退職をしても減額されるが支給はされる。よって、例えば1日出勤した後2日目に出勤してこなくても1万円は受給できる。(申請するかどうかは別の話だが)
尚、トライアル雇用終了後、契約を結ばなくてそこで契約終了をしても良いのだが、その件数が多いと(過去3年以内で3人以上)トライアル雇用をしても助成金がでなくなるので注意。
1か月のカウントの仕方
また、上記で「3か月」と書いたがこの期間のカウントの仕方は、トライアル雇用の開始日から起算し、1か月の終了日はその応当日の前日である。
具体的に言うと、5月17日から開始した場合は、6月16日で1か月となる。1か月目、2か月目、3か月目の終了日は賃金締切日でも賃金支払日でも暦の末日でもないので注意。
尚このカウントの仕方、「特定求職者雇用開発助成金」(以下、「特開金」)とは異なり、「特開金」の場合は賃金締切日の翌日から1か月目がスタートする。
なぜそうなのかといわれてもしらない。だが、雇用関係助成金はこの期間計算のスタートや申請締切日がそれぞれの助成金で異なるのは事実である。
前置きが長くなったが、以降3つのコースの説明に移る。
Ⅰ一般トライアルコース
障害者の労働者以外のコース。”一般”なので対象者は多数ある。実際の定義は厚生労働省の公式資料を見てもらうとして、基本的には
①転職を繰り返したり、失業期間が長かったりするなど転職が上手くいかない人
②妊娠、出産、育児等を理由として退職した人
③生活保護受給者、母子家庭の母、ウクライナ難民などが対象になる。
③は「特開金」の対象と被っている人もいる。そのため、無期雇用締結後も6か月雇用すれば「特開金」の2回目の対象にもなりえる。
助成金額は最初に書いた通り月4万円×最大3か月だが、母子家庭の母、父子家庭の父の場合は月5万円×最大3か月になる。
以下あくまで私見だが、Ⅲのコースの建設業でないのならば、3か月後の常用雇用のことや金額を考えるとこのコースよりも「特開金」か「キャリアアップ助成金の正社員化コース(有期⇒正規)」を目指す企業の方が多いのではないかと思ったのだがどうだろうか。そもそも企業も労働者も積極的に一般の「トライアル」雇用を利用しようと思うのかなあというのが率直な感想。
ただ、例えば時給1000円の週20時間労働だとすると、月8万6666円(1000×20×52÷12)。約半分助成金がでると思えば、アリと言えばアリ。
Ⅱ障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース
障害者用のトライアルコース。略称は「ショートラ」。単純に障害者の方全員が対象ではなく、6か月以上失業中だとか、転職を繰り返しているとか要件がある。
単純に対象者が障害者になっただけというわけではない。一般トライアルコースと違うところは下記のとおり。
- 労働時間が所定労働時間が短時間(週10時間以上20時間未満)から開始しトライアル期間中に20時間以上を目指す”短時間コース”がある
- トライアル雇用終了後は、「1年の期間を超える継続雇用」であり、無期雇用でなくてもよい。
- 「精神障害者」に関しては助成金の金額が最初の3か月間は月8万円に増額され、トライアル期間も最大1年に延ばせる。助成対象は最大6か月だが、4か月目以降は月4万円になるので、8万円×3か月+4万円×3か月=36万円
- ショートトライアルの場合の助成金は最大4万円×12か月
- 障害者は「特開金」の対象でもあるので、「特定求職者雇用開発助成金(以下「特開金」)」の2回目以降の受給も可能。短時間コースの場合は「特開金」は1回目から可能。
上記のとおり、トライアル雇用助成金の中に位置づけられているが、助成金としての条件も要件も異なる。障害者雇用率の上昇を目指す意図がよくわかる。このコースの後に、「特開金」「キャリアアップ助成金の障害者正社員化コース」を組み合わせれば、助成金額はかなりの金額になる。正直、「一般」よりかは需要はあるかとは思う。尚、ハローワークの求人票に「トライアル雇用(専用)求人」とあらかじめ記入が必要。ハローワークの障害者雇用を通じて手続きをする形になるのかと思う。
Ⅲ若年・女性建設労働者トライアルコース
このコースは建設業の労働者向けのコースであり、かつ、Ⅰ、Ⅱのコースの上乗せコースである。Ⅰ、Ⅱで助成金を受給した後、雇用する事業所が建設業でかつ対象労働者が若年者(35歳未満)または女性であった場合に助成額が増えるというコースである。「若年・」という名称だが、若年だけのコースがあるという意味ではない。
小噺
以上、トライアル雇用助成金の説明。尚、「新型コロナウイルス感染症」で離職した人を対象にしたコースが令和4年度まであったと思ったが、令和4年度で廃止になったようである。
…とただの紹介で終わったのでは面白くないのでひとつネタを。
「特開金」の2期目以降と併給できるという話に触れたが、トライアル雇用助成金を使って3か月雇い入れた後、無期雇用契約をし、その後正社員転換すればキャリアップ助成金も貰える場合があるという話がある。(一般トライアルの場合)
ただし、トライアル雇用+キャリアアップ(無期⇒正規)の合計額は、キャリアアップ助成金(有期⇒正規)より助成金額は少ない。
計算例(加算がない場合):4万円×3か月=12万円+28.5万円=40.5万円<57万
もともとの助成金の趣旨が違うので結果的に両方申請することになったのなら話は別だが、トライアル雇用の助成金をもっと貰おうという考えで、はじめからこの合わせ技をしようとするというのは助成金の難易度と金銭面から個人的にはどうかな?と思う。最初から有期雇用契約をしてキャリアアップ助成金正社員化コースを検討すればいいと思うし、そもそも正社員でない無期雇用ってどうなの?と思っている。一方、障害者コースのこのやり方はアリかと思う。トライアル雇用終了後も、有期雇用契約を結ぶことも可能なので。
終わりに
長々と説明してきたが、そもそも「トライアル雇用」という制度を利用するかというのは各事業主、各労働者がそれぞれが判断すること。双方が理解し納得の上で利用する必要がある。障害者トライアルは一般トライアルよりも助成金額的に利用しやすいともいえるが、裏を返すと、労働者にとって好ましくない利用の仕方をしてくる事業主もいると聞くし、そもそも働き始めが労使双方にとって難しいケースがある場合があるからこそ助成金制度があるという理解が必要だろう。