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「年収の壁」対応④ パブリックコメントが秀逸な件について

10月12日に行われた、労働政策審議会雇用環境・均等分科会における「「雇用保険法施行規則※1の一部を改正する省令案」に関する意見募集(パブリックコメント)に寄せられた御意見について(雇用環境・均等局) 」の資料の内容が実に面白い。意見が実に的を得ているので、この記事ではその意見を転載させてもらい、勝手ながらその意見を一部抜粋しコメントしてみた。

※1「雇用保険法施行規則」の改正が、キャリアアップ助成金の新コース設立のために必要な施行規則の改正のようである。

 

社会保険制度における対応について】

そもそも「キャリアアップ助成金」の新コースは、いわゆる「年収106万円、130万円の壁」といわれる、厚生年金保険の対象外から外れるため、また国民年金保険料の支払いを免除対象となる国民年金第3号被保険者であるために年収をコントロールする問題への対応である。年収106万円、130万円を超えたら急に収入の約15%を天引きされると、それまでの天引き0円から比較して手取りが減ってしまう。そのため、まずはそもそもの「社会保険制度」自体へのコメントが掲載されている。


 そもそも助成金で対応すべきではなく、社会保険料の免除・引き下げや期間を定めての納付義務の免除を行ってはどうか。

おっしゃるとおりである。社会保険料の構造上の問題なのだから、社会保険料の負担の仕方で対処すべき、という当然あるべき姿である。急に第1号、第2号として満額とろうとするから手取りが下がるわけであるから、それを段階的にするなど社会保険料の支払い方で調整すればいいのではないかという意見だと思われる。

 第3号被保険者制度を廃止する必要があるのではないか。

政府の本音は、おっしゃるとおり第3号被保険者制度自体を廃止したいと思う。だけでも急には辞められない。だからとった行動が今回の助成金対応。それなら本音通り廃止すればいい話といっている。

だが政府というか政治家はその手段はとれまい。有権者の半数は女性。そしてその何割かはこの年収の壁をこえないように働いている。急に辞めたら、その有権者の投票行動がどうなるか、創造するに難くない。また、その人達が急に労働条件の変更を求めるだろうから、労働者に混乱をもたらすのも想像に難くない。

 社会保険の適用拡大の停止、社会保険料の税徴収の促進を行えば、助成金の対応は不要ではないか。

そもそも106万円の壁なんか辞めて130万円に戻せばいいという話をされているのだと思う。

また助成金の原資は何か?雇用保険料2事業であろう。取られている対象者は会社だけである。(税負担もあるかもしれないが)

 健康保険・厚生年金の問題であるにもかかわらず、なぜ雇用保険から支出するのか。

上記と同じ意見。野党かマスコミに必ず聞かれるだろう。その時、政府はどうこたえるのかで?「そもそも、今でも、というよりかなり前から「キャリアアップ助成金」にそういうコースがあるから」と答えるのではないか?

上記のとおり、社会保険料の対応は社会保険料で行うべきという当然の意見の連続であった。だがそうあるべきなのは政治家も役人が知らないわけがない。お金がどこからでてくるのも徴収しているところが知らないはずがない。それをあえてしないのである。

おそらく、社会保険料の確保と、第3号被保険者の”数”を減らしていった上でなし崩し的に廃止するのが狙いだからであろう。もしくは、助成金対応の方が行政側の手続きがラクという、どうしようもない理由。

助成金について】

今回の「キャリアアップ助成金」の新コースに対する意見である。キャリアアップ助成金については過去の記事に書いたが、他の助成金と比較してかなりややこしく、社労士等に依頼するか、しっかりした人事部(イキった採用担当しかいない人事部では絶対に不可能)がいないと対応は不可能なものと思ってよいと私は考える。

 助成金の仕組みが実務上分かりづらい。

雇用関係助成金自体、申請までのハードルは高い。管理部門がない零細企業、個人事業主で対応するのはかなりキツイ。そして相談窓口が設置されるのかどうかは現時点で不明。正直、厚生労働省はどのくらいの利用件数を想定しているのだろうか?

 助成金は事務手続が煩雑であり、資金的、人員的に余裕のある会社しか活用できない可能性が高い。また、キャリアアップ助成金は、支給決定までに長くて半年以上かかっており、助成金のコースを増やすことは、より審査に時間がかかることが予想される。このため、キャリアアップ助成金として実施するのではなく、全く別の助成金として行うべきではないのか。

キャリアアップ助成金を申請したことのある人の意見だと思う。資金的、人員的に余裕というのが、社労士に委託(成功報酬は2、3割と言われている)か人員的に余裕、つまり仕事を追加できるだけの要員を管理部門に確保できる会社を指していると思う。

長くて半年かかるというが、これは都道府県によって異なるようだ。私は申請してから1年ぐらいたっていきなり電話がかかってきて書類の説明を求められた経験があるので、雇用関係助成金はそんなものだと思ってはいるが、コロナ特例の雇用調整助成金がその遅さが問題になって早く支給した結果、不正の温床になってしまったので、こればかりは早く支給するのが正しいとは私はいえない。

ただ、キャリアアップ助成金が時間がかかるのは、支給要件が明らかに多いせいだと私は思う。難易度が高すぎて素人では申請できないというのは、裏をかえせば、その申請が正しいかどうか審査する人も素人では対応できない、ということではないだろうか。後、コロナ禍前だったら助成金の不正受給といったら「キャリアアップ助成金」が筆頭格だったと思う。不正かどうかも確認しているのでは?と思っている。

まあ、そんな厚生労働省の実情などどうでもよくて、半年も支給に時間のかかる助成金だったらあっという間に2年の期限になるが、といいたいのだろう。

キャリアアップ助成金は私も大嫌いである。よって、せめて他の助成金に変えてくれ、というのは大賛成である。だが、今回の話は、もともとキャリアアップ助成金にあったコースを作り直しているものであるから、新しい助成金の作成は時間的に無理だったのではないかと推測している。ただし、キャリアアップ助成金は「計画届」が必要。それは今回の新コースも外していない。申請回数も何回かしないといけないようだ。

果たして対応できるか、また、資金的、人的負担に耐えうる会社であったとしても負担に見合うだけのメリットがある制度かどうか?現時点ではかなり懐疑的だ。

 社会保険の被保険者 100 人超の会社では、既に昨年 10 月に社会保険に加入した人たちは手取りが減ってもそのまま働いているなど、社会保険に加入した時期により、不公平が生じるため、すでに社会保険に加入済の人も対象にすべきではないか。

かなり的をついた素晴らしい意見である。東京などの大都市では特定事業所の拡充や最低賃金アップにより、既に去年に対応済のところが多いと聞いたことがある。去年はダメで今年は良いという不公平な扱いは、国会で野党に、記者に突っ込まれると対応できないのではないか?ここは対応可能になるか、途中で変更になる可能性があると私は睨んでいる。会社の人事も去年から扶養から外れた労働者に不公平だと言われることが予想されるからである。

 社会保険の資格取得の要件に該当すれば保険料を事業主と折半して払うのは当然であり、これから2年間だけに限り、特別な措置をするのは不公平ではないか。

不公平な取り扱いその2である。わざわざ不公平なことを2回連続で載せてきたのは、わかっててあえて載せてるだろ、厚生労働省。本当はこんなことやりたくないんだろう?厚生労働省の人?

 「手当等により収入を増加させる場合」に補助するのは、労働時間を延長した場合と比較すると、働かなくても給与がもらえるため働かない人が多くなり、人手不足に苦しむ企業にとってはマイナスになるのではないか。

天引き分を「手当」で補填するという構造をとると、働いてもいないのにない「手当」という金銭を手にする。これは構造上よろしくないという意見。またこの助成金が労働時間延長とセットでなくてももらえるなので、労働時間延長=人員確保に繋がらないから、趣旨に反するやり方にも見える。と私はこの意見を解釈したが、どうだろうか?

 有期雇用労働者について、企業側が有期契約を前提として、助成金目的で一時的に雇用する可能性や、助成金の申請対象期間の終了と同時に雇用を継続させない可能性があるため、その点を考慮した制度設計とすべき。

キャリアアップ助成金の問題点をついた意見。キャリアアップ助成金はそもそも「非正規雇用の処遇改善」であるから、非正規雇用が不利になってはいけないし、非正規雇用を増やしても意味がない。まあ、事務負担の軽減をすればこういう助成金目的の輩が寄ってくるのは必至だが、支給申請の後に各社の状況を把握するのは現実的に困難であろう。助成金取得した場合は、契約終了することに制約をつけなければいけないが、有期雇用契約の終了の判断を国が決めることではないだろう。ただ、この発言者の危惧した通り非正規雇用者に被害者がでてくる可能性は高いだろう。

 「雇用保険のみ加入している短時間労働者」についても助成の適用対象にしてほしい。

これは他の意見とはちょっと狙いが違う意見。

今のペースで時給があがっていき、特定事業所になる被保険者数の人数(今は100人超、来年10月から50人超)を減らしていけば、ほとんどの会社が雇用保険加入=社会保険加入になりそう。だからこその2年間限定なのかもしれない。それに東京都の被保険者100人超の会社は去年から雇用保険加入=社会保険加入になっていると思う。

雇用保険加入者の月労働時間 週20時間×52週÷12か月=月86.666…時間

時給1,000円×月86.66…時間=月86,666円 

特定事業所 月88,000円以上 

月88,000円÷86.7時間=時給1,015円 

※東京の最低賃金 2013年 時給1,113円 2022年 時給1,072円

私の試算ではあるが、東京の場合は週20時間労働すれば、月8.8万円以上の収入になるので、被保険者が100人以上の会社は雇用保険加入=社会保険加入になると思われる。 

 短時間労働者の出勤日数が病気等によりゼロ日かつ企業が保険料相当額を「社会保険適用促進手当」として支給した場合、助成金の対象としてはどうか。

社会保険適用促進手当」が、雇用保険所得税最低賃金の算定対象となるのかどうか、取扱い方法を明らかにしてほしい。

社会保険適用促進手当」という「金銭」に対する意見。要するに「社会保険適用促進手当」がどういうものかというのが今のところ、標準報酬に含めないとしか発表されていないからでてくる意見である。労働もしていないし、休業手当のような法律上の根拠もない、この「手当」は果たして「賃金」扱いなのだろうか?これに関してはおそらく役人は既に考えているはずだろう。現時点で発表されていないのは、調整中か手続き中か、漏れがないか確認中のどれかだと思う。

まとめ

う~ん、労働者からの質問に対応するために勉強しているのだが、果たしてこの制度、そんなに利用されるのだろうのか?テレビで話題にもなっていない。まだガイドブック等の詳細な資料が公表されていので何とも言えないが、かなり私はかなり懐疑的である。おそらく、事業主には労力に見合うメリットはないのでは?ただし、労働者から求められたら何らかの対応(回答)をしないとならないだろう。

もしかしたら衆議院が解散して話が有耶無耶になるかもしれない。引き続き様子見である。