巧遅は拙速に如かず

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雇用関係助成金の私見⑨ 余談② おススメする助成金、おススメしない助成金

さて、5月のGWからいくつかの雇用関係助成金をいくつか記事に挙げた。あくまで自分が勉強したものを私見を含めてアウトプットしただけのものであり、人様のお役に立つ代物ではない。ただガイドブックを読み上げている、転記しているものよりは役立つとは思っている。まあ、それは無責任な匿名ブログのメリットともいえるが。

実際書いてみると自分の頭が整理され、自分の理解度が深まった感がある。頭で覚えるだけでなく、書きだし、そしてそれを外に見せる行為は理解を深めるうえででかなり有効性が高いと再認識させられた。皆様にも書くという勉強方法はおススメしたい。

そして書き出した結果、今あげた助成金のなかでこれはアリかなナシかな、ということについて書きたくなったので今回記事としてまとめてみる。

あわせて記事に挙げてから1か月たったのでアクセス解析からどの助成金が閲覧されたかも大体わかってきた。それについての自己分析も今回は記事にしたい。

題して「これから初めて助成金を利用する場合、おススメしたいしたい助成金とそうでない助成金」。

 

まず、おススメしたい助成金は今の「人材開発支援助成金」である。

これは今の政府が推奨している助成金ではあるが、これは他の助成金とはちょっと違うな、利用価値があるなと思う助成金だった。雇用関係助成金というのは大体が国としての目標、目的があってそれを後押ししたいから助成されるのだが、この助成金は会社としても労働者としても将来性を考えたうえで前向きで柔軟性のある助成金と感じたからである。

反対例として最近までよく利用されていた「雇用調整助成金」を例に挙げてみる。この助成金は一定の条件下で”休業手当”を支払い雇用を維持すれば助成しますよ、という制度。コロナ禍やリーマンショックのような非常時での失業率の急激な悪化を防ぐ緊急避難的な側面がある。会社としては何人、何日休業させるかぐらいの自由度がない。しかも、現状は不正をする輩のとばっちりで疑いの目で見られ調査対象となったりしている状態である。一方労働者にとっても仕事がないという状況は不安要素でしかないし、休業は一時避難であって、将来的にはプラス要素がない期間である。

一方「人材開発支援助成金」は違う。会社にとってどの労働者にどんな役割を持ってもらいたいか、そのためにどう教育をしていくかはそれぞれの事業や考え方で千差万別。そのため具体的にどんな訓練をするかを行政でなく事業主がある程度決めることができるというのは前向きかつ柔軟性がある制度である。

労働者にとっても給料が補償される中で原則所定労働時間内に賃金を補償されながら技能や免許を取得するということは、自身の将来への投資ができるという面もあわせてかなりメリットがある。

勿論、訓練内容に制約が多く、お役所につきまとう面倒な書類作成の煩雑さがあるが、それは雇用保険という強制徴収されている保険が原資である以上、ある意味仕方あるまい。

ただこの助成金、問題点もあるのでそこは挙げておきたい。

  • コースが多すぎるうえに違いがわからず、かつ難解すぎること。
  • 実体の怪しい訓練機関からお誘いがあること。(悪徳セールスに引っかかるリスク)
  • 上記のあやしい訓練の調査のため実地調査が来る確率があること
  • 業種、職種によっては対象訓練が見つけにくいこと

尚、「人材開発支援助成金」の中の「人材育成支援コース」のなかの「有期実習型訓練」については、これまで利用している会社以外はおススメしない。理由は個別の記事に書いたので詳しくはそちらを読んでもらいたいが、簡潔に言えば、訓練機関が長い、労働局の審査も長い、要件も厳しい、そして不正調査対象になりやすいからである。

さて雇用調整助成金の悪口を書いたが、雇用調整助成金にも”教育訓練”があるではないか、という反論があるかもしれない。そのとおりではあるが、雇用調整助成金は仕事がない日にやる訓練が前提のため、予定が立てにくい上に人材開発支援助成金よりも訓練の中身に制約が多い。

そして、私はコロナ特例の時の教育訓練には疑念を持っている。今更だからこそいうが、ロナ特例の雇用調整助成金の教育訓練はおススメできなかった。現に私はかなりリスクがあると疑って一切記事にしなかった。あれは緊急避難的な教育訓練ぐらいしか使えたものではない。本当に訓練をしたいのならば、コロナ禍でも人材開発支援助成金で訓練すべきだったと思っている。

雇用調整助成金は今不正・不適正調査が進行中らしい。教育訓練加算があるため、それを狙って胡散臭い業者からのセールスも自社にあった。FAXで、コロナ禍の今なら、私たちに任せれば、実際に訓練をしなくても助成金を多くもらえますよ、というセールスが届いたこともある。当然、これにのっかれば不正であるので、流石にこんなセールスに引っかかる会社は殆どないと思うが、助成金を加算して貰おうという魂胆で訓練するネタもないのに延々と訓練していた会社は警戒した方がいい。こんなセールスがあったことを私のような一般人でも知っているのだから、不正調査をしているところが知らないとは思えない。

尚、不正でなくても教育訓練が否定されたら、その分は教育訓練の加算分が減るのではなくその日分は労働日扱いなので休業日にならないからその日の分の助成金は”全額”減る。恐ろしい返金金額になる可能性がある。

あと、最近リスキリングをして転職したらお金がでるという政策が発表された。中身を見ない限りは判断ができないが、正直微妙だと思っている。転職を支援をする会社に丸投げされてもねえ…。

続いてのおススメは「特定求職者雇用開発助成金」である。

これは就職するのに困難な人をハローワーク等を通じて雇った時、一定の条件を満たせば助成金が貰える。うちは新卒以外は雇わないよ、という会社は今時限られている。ハローワーク等の利用価値は地域や企業によって異なるであろうが、ハローワーク等からの求職者の雇用も考えているのならば利用する価値があると思う。

そもそも就職困難と定義されている60歳以上などの対象労働者を雇用するケースもあるだろうし、助成金は雇用形態を正社員に限定されていないし、高い給料を求められてもいない。申請も他の助成金と比べてはるかに簡単な部類。求める人が見つからなければ雇用しなければいいだけの話でハローワーク経由ならば初期費用は殆どない。100%助成されるという謳い文句を信じるな、とこの助成金の記事には書いたが、100%助成されないならば雇わないという助成金が絶対条件でなければ利用価値はある。

そもそも助成金がなければ雇わないという考えをもった経営者ならば、その労働者は不幸になることは確実だし、労働者1人をそういう目で見る経営者はおそらく他の労働者への態度も同じようなものだろう。次に書くキャリアアップ助成金もそうだが、雇い入れという人の人生を左右することを助成金稼ぎのために行うという考えを経営者が持っているということを知る上でも、対象にならない労働者にとっても有効な助成金である。

そしておススメしないのが現時点での「キャリアアップ助成金」である。

まずは利用者が多いと言われている「正社員化コース」について

この助成金は利用がかなり多いらしく、社労士等の専門家からはおススメの訓練らしい。しかし記事の閲覧数が最下位である。

私はその理由を

①そもそも利用を考えてもいないのか

②専門家任せになっているので素人の意見など見る価値もないか

のどちらかではないかと分析している。実際のところ記事を書いたが長文の文句になったので読まれなくてもよいかな、とも思っている。

今まで利用をしていない、考えてもいない会社は、今年はそのまま知らずに利用しなくていいと思う。というのも今のこの助成金は支給要件が難しすぎて、これから初めて申請するのならば正直外部に依頼するしか手に負えないぐらいになったと思う。(もともと難解で社労士等に任せるケースが多いので、社労士が薦めてくるのだが…)

これまで専門家任せになっている場合は、一度”自社”で考えてこのまま利用するかどうか考えなおされたらいいと思う。令和4年度の改正に影響された結果の令和5年度の件数や影響如何で、令和6年度以降に難易度が下がる可能性もあるし、逆にもっと難易度があがる可能性もある。

この改正について社労士の反応は表向きは分かれているようだ。ぶーぶー文句を言っている人も一部いるようだが、以前より多少まともな助成金になってきていて”金稼ぎのために”雇い入れという行為を悪用されにくくなったと冷静にみている社労士もいるようだ。まあ、これは社労士の収入の中心か助成金かどうかにもよるだろうが…。

そもそも”非正規雇用”自体がダメなのではなくて、”低賃金かつ不安定”な非正規雇用を減らすための政策。それなのに名前が”正社員”になっただけで中身が非正規のころと変わらないのなら助成金の意味がないからである。クソみたいな給料の”無期”雇用への転換を令和4年4月で助成金の対象から外し、待遇が”非正規”の時と殆ど変わらない”正社員”もどきを同年10月から対象から外したのだと思っている。

さて経営者(専門家の指南を受けた場合も含む)が、この助成金を使って金稼ぎをしたいがために自社の労働者の雇い入れを蔑ろにつもりかどうかの判別する方法として2つ具体例をあげてみる。

1つは、正社員だけの求人募集をする時でも「有期契約社員」「パート社員」「正社員」の3つの雇用形態で応募するケース。
*1

もう1つは、会社の制度として、労働者を毎年全員”有期契約社員”として雇い入れる形にして、6か月以上3年以内に正社員転換できる仕組みに変更したケース*2

私は金稼ぎのために労働者を無理やり非正規から始めさせようとする事業主と社労士を白い目で見ているし(動画サイトで一部の社労士が名前と顔を出して助成金の趣旨に反するやり方を話していて正直どうかと思う)、そんな労働者に不利なやり方には断固反対だ。こんなやり方は労働者の処遇改善でもなんでもない。処遇改”悪”。だからおススメしないし、もしこういう考えが助成金のせいで蔓延していたのならば、この助成金を廃止すべきだと思っている。

そもそもパート有期契約法の転換規定はそういう意味で使うための規定ではないだろう。まあこんな悪用をわかっていながら継続している厚生労働省が一番悪いのだが、統計的にはそんな会社は少なく趣旨にあった会社の方が多いのかもしれないので、一部のアホのために趣旨にあった会社が不利益を被らないようにしているのかもしれない。また、よくよく考えれば、派遣社員や非正規を約20年前から大量に生み出したのは国の政策のせいでもあるのだから、国に期待するほうが悪い、ということかもしれない。

尚、これまで時給制の短時間労働のパートだった人を月給制で賞与も退職金も昇給もある”正社員”にしたい、そして労働者も乗り気という場合などは別である。小さい会社や新しい会社で最初は正社員で雇う余裕がなかったという会社も同様。それは労働者にとっても良いことだし、助成金の趣旨にもあう。そういった、助成金の趣旨にあった”労働者”の本当の”処遇改善”につながることは大賛成である。但し趣旨に会ったとしても、難易度が高いことは変わらない。

尚、正社員化コースには障害者の正社員化コースもあるが、こちらには評価が難しいと思う。障害者用の雇い入れに関しては数多くの助成金補助金があるため、どれが良いか悪いかという判断がつかないからだ。

後、キャリアアップ助成金の他のコースについてであるが、こちらも現時点はおススメしない。

他のコースというのはあくまで”非正規雇用”用の処遇改善であり、正社員化コースとは別物。非正規雇用の賃金関連の整備がまだで、これから整備をしようとしている事業所については”アリ”なのではないかと思っているが、処遇改善用の他のコースもかなり支給要件が難しい。キャリアアップ助成金の記事のアクセス数が殆どないので加筆していないが、最低賃金の上昇にあわせて急いで対応しようとすると足元をすくわれると思う。それなりに準備期間が必要。処遇改善用のコースは非正規雇用者全員の場合も多いので不支給になったらかなりダメージが大きい。極端な話、1人の非正規雇用者の対応をミスっても不支給になりかねない。

要するに、助成金獲得のために、自社の現状に合わない賃金(賞与・退職金を含む)制度を規定することをおススメしないのである。助成金目当てだと非正規の賃金アップの原資に助成金を充てようとしているはずなので、助成金が不支給ならば人件費だけ上がって、資金的に目も当てられない事態になる。

以上であるが、補足を書きに記す。

補足1…今回の記事はあくまで令和5年春時点の「今」の制度の話であって、今後改正された場合は別である。

補足2…助成金の申請は都道府県によって異なるという話は以前記事にした。地域差はあるだろうから、所在地によってはススメられる助成金は変わってくるかもしれない。

*1:これは、「正社員」として求人をかけていて、入社時「有期契約社員」で雇用した時に、後になって労働者やハローワークからあなたの会社は正社員で募集していたのに、なぜ有期雇用契約で雇っているんですか?と言われないためである。勿論、助成金目当てなのだが正直にいえないから、そう案内しているわけである。キャリアップ助成金の正社員化コースのために、もともと正社員予定の人との間でわざと”有期雇用契約”を締結しているよね?それがばれないように、有期雇用契約の求人を合わせてだしているのである。まあ、こういう会社は過去にも何度か求人をかけているだろうから労働局が本気になればすぐにヤラれると思うし、場合によっては不正、不支給になる、かもしれない。

*2:そうしたら定期的に助成金が受け取れる