人材開発支援助成金の私見 令和6年度5回目は、【人材育成支援コース】の中の【有期実習型訓練】について。
- はじめに
- 対象労働者の違い
- 国家資格のキャリアコンサルタント等が訓練計画に関与しないといけない
- ジョブ・カードも必須
- 計画届の注意事項
- 訓練内容や実訓練時間数の違い
- 定期的なキャリアコンサルティングの実施は求められない
- 訓練終了日から2カ月以内に正社員転換するかどうか決める
- 助成率
- 新規学卒者の利用には注意
- まとめ(私見)
はじめに
実は人材開発支援助成金のなかの【有期実習型訓練】については令和5年度で人材育成訓練を色々と説明していたが、その際に一切触れていない。
その理由はというと、”ややこしい”からである。より踏み込むと以下の通り。
- 手続きが他のコースよりかなり難しい
- 【人材育成支援コース】の中には【人材育成訓練】【認定実習併用職業訓練】【有期実習型訓練】の3つあるだが、他の2つと違いが多いのに、パンフレットでは一緒になっていて、その違いを見分けるのにかなり骨が折れる
- 令和4年度までの【特別育成コース】との違いがわかりずらい
正直、人材育成支援コースに混ぜるのではなく、令和4年度までの【特別育成コース】のように別のコースのままの方が区別がつきやすかったと思う。
あと、このコースはキャリアアップ助成金の正社員化コースを利用することが前提ともいえる。乗個人的にキャリアップ助成金の正社員化コースが嫌いな私は調べる気がしなかった。
ただ、令和6年度のガイドブックで他の2つとの違いがかなりわかりやすくなったと思う。そいうわけで今回アウトプットした次第。
記事構成としては【人材育成訓練】との違いと、このコース独自のものをピックアップすることをメインにする。というのも、【人材育成訓練】が理解できないとこの【有期実習型訓練】は理解できないと思うからである。
尚、言い訳であるが、本当に人材育成訓練とこんがらがっていて、他のコースより間違っている可能性が高い。そこはご了承いただきたい。
対象労働者の違い
対象労働者は、有期契約労働者”等”であり、かつ、正規雇用労働者等に転換することを目的とし、有期実習型訓練を受けることが認められる者である。
この”等”は、無期契約雇用労働者のこと。
有期契約労働者等の訓練≠【有期実習型訓練】。よって、有期雇用労働者等でも、Off-JT訓練”のみ”の訓練を受ける場合は、【人材育成訓練】。
正規雇用労働者等に転換することを目的とするが、正社員に転換することが条件ではない。キャリアアップ助成金の正社員化コース前提の訓練なのだが、逆に正社員に転換すると断言すると、正社員になることを約した者として対象外となる。…詭弁である。
有期契約労働者等が全員対象ではない。過去に正社員であったり、過去に同様の職種経験を持っていたり、専門性の高い職種の人は対象外。
これは【有期実習型訓練】が正社員の経験が少ない、職業能力開発の機会に恵まれなかった人を対象としているから。過去の職歴の確認は必要である。
尚、紹介予定派遣の場合も利用できるが、ただでさえわかりにくい有期実習型訓練がさらにこんがらがってくるので、割愛する。
国家資格のキャリアコンサルタント等が訓練計画に関与しないといけない
有期実習型訓練の特徴として、国家資格であるキャリアコンサルタントが関与したOJTとOff-JTの訓練計画(様式15号)を作成する必要がある。
【人材育成訓練】などで必要な定期的なキャリアコンサルティングは、別に国家資格のキャリアコンサルタントを保有しなくても良いが、この【有期実習型訓練】は国家資格のキャリアコンサルタントが関与しないといけない。キャリアコンサルタントがOJTとどんな訓練が必要かを面談して決める形になる。
キャリアコンサルタントは厚生労働省が委託する専用窓口の【学び直し・リスキリング支援センター】に連絡すれば対応してもらえる。
ちなみに、計画届(様式1-1号)の32欄に書いてある学び直しリスキリング支援センターというのは、このキャリアコンサルタントに関することだと思う。
インターネットでこの名称を検索すればヒットする。
ジョブ・カードも必須
新規学卒者の人は提出不要のものがあるが、ジョブカード3-3-1-1に関しては提出の省略ができない。ジョブカードがどんなものかについては、これもジョブカードで検索すれば出てくる。キャリアコンサルタントがこのジョブ・カードを作成することになる。
計画届の注意事項
計画届は原則1か月前提出は他のコースと同じ。だが、有期実習型訓練は他より厳しいルールがあるので注意が必要。
①対象労働者が既に雇っている人か、新規に雇う人かで提出順が異なる
有期実習型訓練にはキャリアコンサルティングを受ける必要があると書いた。さて、このキャリアコンサルティングと計画届を提出するタイミングが、既に雇っている人(キャリアアップ型)と新規に雇う人(基本型)でタイミングが違う。
新規に雇う場合(基本型)の場合は、先に計画届を出して、後にキャリアコンサルティングを受ける形になる。
既に雇っている場合は(キャリアアップ型)は、先にキャリアコンサルティングを受けて、その後に計画届を出す。
既に雇っているか、新規に雇う予定かは、計画届提出日が基準になる。つまり、計画届提出日までに雇用されているかどうか。
どちらでもいいでしょ、というわけにはいかない。キャリアコンサルタントがキャリアコンサルタントを実施した年月日を記入する必要があるので、この日と計画届提出日を比較され、提出の順番が違うと最初で躓くということになる。
②1か月前の例外が人材育成訓練と異なる
人材育成訓練、認定実習併用職業訓練は、対象者が新規雇用労働者”のみ”の場合で、雇ってから訓練開始日までの間が1か月未満の場合は、計画届の1ヶ月以上前提出の例外扱いとなる。
一方、有期実習型訓練の場合は、この新規雇用労働者のみの場合の例外規定がない。つまり、新規雇用労働者のみであっても1か月前厳守である。
だったら、新規雇用労働者を雇ってから訓練開始日まで1か月を切っている場合とかはどうするんだ、という話だが、恐らくまだ作成していない雇用契約書などは訓練開始日前までに提出すればよい、と書いているので、追加で出す方式なのだろう。
または、雇うことが決まってから1か月未満で有期実習型訓練にするのはどうなのか、といいたいのかもしれない。
尚、天災等やむをえない場合は除かれるし、このやむを得ないかどうかの判断についてはガイドブックによると各都道府県の労働局に相談の上で決まるようだ。
訓練内容や実訓練時間数の違い
実訓練時間数も人材育成訓練や認定実習型訓練微妙に違うので列挙する。
①OJTとOff-JTを組み合わせないといけない
その配分は、総訓練時間に関するOJTの割合が1割以上9割以下である。
また訓練時間は6か月あたりの時間数に相当して425時間である。
訓練時間は2カ月以上である。特別育成コースの時は6か月以内という期間の上限もあったが、人材育成コースに統合されたら、いつの間にかなくなっていた。
上記の期間の計算方は参考様式2号で確認する形になる。
様式15号でキャリアコンサルタント等が確認して訓練計画を作ると思う。
OJTとOff-JTの組み合わせという意味では【認定実習併用職業訓練】と同じだが、OJTの割合、訓練期間が異なる。
②オリエンテーションなどの時間
人材育成訓練などはオリエンテーションは1訓練あたり60分までだが、有期実習型訓練は5時間まで認められる。過去の訓練コースを見るに、”評価する”時間が必要だから、その時間分を考慮しているようだ。
定期的なキャリアコンサルティングの実施は求められない
人材育成訓練でも、有期契約労働者のみの場合は定期的なキャリアコンサルティングを求められていない。
訓練終了日から2カ月以内に正社員転換するかどうか決める
計画届に記載のあるとおり、転換日を訓練終了から2カ月以内に定め、その日までに正社員転換するかどうかの判定をする。その判定基準を決める必要がある。この2カ月以内というが特徴。
キャリアップ助成金の正社員化コース狙いで入社後6か月経過した日、と決めるという表現だと恐らくダメだろう。(結果的に入社半年後になったという場合は除く)
尚、繰り返すが訓練を終了したからと言って正社員転換しないといけないわけではない。あくまで正社員化を目的としているのであって、正社員化が必須ではない。
ただし、正社員転換するかどうかの基準を計画届に記載する必要がある。また、支給申請書に正社員転換したことがわかる書類を添付しないと、経費の助成率は有期契約労働者のままと同じになる可能性がある。
正社員転換日、支給申請日、どちらも重要である。
また、その事業所のはじめての正社員の場合は、就業規則に正社員の規定が必須。ちなみにキャリアップ助成金の正社員化コースで初めての正社員を助成対象にしようとすると、かなり難しい。なぜなら、比較できる正社員が社内にいないからである。
入社から2カ月訓練して2カ月以内に正社員化したら、キャリアップ助成金の転換前6か月の期間がないのではないかと思った方は、キャリアップ助成金のガイドブックを見ていただきたい。有期実習型訓練の場合に限り、転換前6か月なくても良い。(ただし就業規則にその明記しておく必要がある。)
助成率
中小企業の場合で賃金要件の加算は省略すると以下の通り
Off-JTの賃金助成…760円
Off-JTの経費助成…
①有期契約雇用等のまま 60%
②正社員転換した場合 …70%
OJT(固定)…一律10万円
ガイドブック2ページの一覧表をみてもわかるように、賃金助成、経費助成は【人材育成訓練】と同じである。
尚、ガイドブックだけ見るとOJTの時間の賃金助成と経費助成があるように見えるが、支給要領をみるにOff-JTのみの賃金、経費助成である。令和3年度までの【特別育成訓練】コースはOJTの賃金助成(実施助成)があったのだが、令和4年度から一律固定になっている。
新規学卒者の利用には注意
新規学卒者についてはガイドブックに注意書きがあるが、ここでは支給要領を引用する。
支給要領08031
新規学校卒業予定者を対象として選定する場合には、正規雇用労働者等として雇用することを前提に雇い入れられたり、これまでの当該事業所の雇用慣行等を踏まえ、助成金受給目的等により新規学校卒業者が合理的な理由なしに有期契約労働者等として不安定な地位に置かれたりするようなことのないよう、こうした例が想定される場合には、本人、学校等からの同意書の提出、事業所からの申立書等の提出を求めること。
助成金受給目的のために学生を犠牲にしない措置であろう。YouTubeを見ると、学卒者も有期雇用契約にさせて、有期実習型訓練とキャリアップ助成金の正社員化コースの両方を受給して助成金をゲットしましょう、といっている人がいる。
だが、それは新卒は含まれていないのだと思う。新卒の有期契約労働者での雇用はキャリアップ助成金でも厳しくなった。安易に助成金目当てで試用期間を有期契約者にすると痛い目に会うかもしれない。
まとめ(私見)
最後に一言。
ここまで書いておいて何だが、有期実習型訓練はこれから初めてやる会社についてはおススメしない。
難易度が高いので不支給になる確率も他のコースより高くなることが予想されるからである。
有期契約労働者等でも【人材育成訓練】はできるし、助成率も人材育成訓練とほぼ同じで違うとなるとOJTの経費助成一律10万円(大企業は9万円)ぐらいである。
10万円のために、この面倒な手続きをするかどうか…。それに、キャリアップ助成金の正社員化コースの上乗せは人材開発支援助成金の他のコースでも可能になった(令和5年度、6年度。今後もそうかは不明。)
他の訓練と比較して優位性は今は殆どない。よって、既に有期実習型訓練が恒例化している会社が利用する訓練だと、邪推している。
パターン化した会社がこの記事を読む必要などないので、いったい誰に向けて書いたのかといわれると、有期実習型訓練は今やっても面倒くさいだけでおススメしないよ、という結論になる。
将来は知らない。
ただ、新入社員用にOJTつきの訓練をしたいのならば、大臣認定訓練のほうがいいと私は思っている。有期雇用限定ではないし、マニュアルがかなり整備されているからである。読むのは面倒くさいが。