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雇用関係助成金の私見⑮ 令和5年度補正予算案をみて

どうやら、令和5年度補正予算閣議決定されていて、もう少ししたら成立するかもしれないらしい。(らしい、というのは国会での決議がまだされていないようなので、らしいと書いた)

そこで、なにやら、キャリアアップ助成金の正社員化コースが拡充される案が出ていると人づてに聞いた。厚生労働省のホームページをみたところ、たしかに1枚のページではあるが、拡充するようだ。

そして、ホームページを見るに11月20日に雇用環境・均等文化会が開かれるとなっているので、今月末か遅くとも年内には成立するのではないか。(年明けなら、令和6年度予算で良いという話だろうから)

そこで今回はとりあえず1枚の内容について記事にしたい。どうやら令和6年度概算要求に書かれていたものと全くの新規のものが混じっているので、一つずつ見てみたい。

補足:当然この原案通りに決まるということではない。あと、以降の数字は中小企業の数字を用いることとする。大企業と混ぜるとわかりづらくなるためである。

1 助成金の額

 これまでは1人当たり57万円だったのが、2期目というのが新設されて、1期目40万円、2期目(12か月経過後)で40万円、計80万円、という風に制度が変わる模様。

 令和6年度概算要求では、1人当たりの助成金額が1人目60万円、2人目以降50万円だったので、予算要求自体の内容が変わったといえる。2期目というのが新設されていて、2人目以降というのが消えている。本来正社員化コースは正社員転換後6か月経過した後の給料支払日以降に申請することになるが、これを見るに6か月経過後40万円、12か月経過後40万円、計80万円という形になることが想定される。

1期目、2期目とか特定開発者雇用開発助成金みたいだなと思ったが、なぜ2期目というのを追加したのかがこの資料では理由がわからない。6か月経過し申請した後に退職しているのが多いのかと邪推したぐらいだ。

これまで申請した人も2期目を遡って(差額精算して)申請できるのか、それとも今後の施行日以降からなのか、それともどこかで設定した日からなのか、また2期目と1期目の支給要件にどんな違いがあるのか、年度途中に1期目の金額が57万円から40万円に下がるのか、とわからないことだらけだ。これについては内容が発表されるのを見てからのほうがよさそうだ。

2 対象となる有期雇用契約者等の要件緩和(拡充)

これまで有期契約から正社員に転換する対象となるのは入社から6か月以上3年以内の人だった。この3年以内という上限を撤廃するのがこの要件緩和。令和6年度の概算要求にあったのが令和5年度補正予算に計上されるということは、前倒しでこの拡充がスタートする、ということだろう。いつからスタートなのかはこの資料ではわからない。尚、3年以上の人は追加されたとはいえ、助成金額は無期雇用から正規雇用の場合と同じ金額、つまり有期雇用から正規雇用の金額の2分の1であることに注意。5年以上働いた労働者が希望すると無期転換されるのだから、金額が有期雇用からと同じになると、無期転換させると会社は損することになるので当然の措置であろう。

3 正社員転換制度の規定にかかる加算措置(新規)

正社員転換制度を新たに設けて正社員転換すると、最初の1回に限り20万円加算される。これは令和6年度概算要求にはなかった全くの新規だと思う。上記1とあわせると80万円+20万円=100万円である。これは大きい。これまで正社員転換をしたことがない新規の会社を呼び込みたいのだろうか?噂でキャリアアップ助成金の正社員化コースは同じ事業所が新しく採用した人にこればかりを使っている、と聞いたことがある。つまり、新規雇い入れは金稼ぎ。さらに毎年雇って辞めれば辞めるほど儲かる。そうでなく今まで導入したことがない正社員転換をするつもりがない会社を呼び込みたいのだろうか?私は、社員をこれから雇い始める小さな会社か創業間もない会社に社労士等が営業をかけるだけだと思うが。つまり、新会社の非正規雇用での雇い入れの制度化を助長するだけでは?と思うのだが果たして。

4 多様な正社員制度の規定に係る加算措置(拡充)

多様な正社員制度を新規に導入した場合、1回限りで40万円支給するという加算措置である。内容としたら、上記3に近いが、令和6年度概算要求にもあったことから、前倒しという面では2に近い。勤務地限定正社員、短時間正社員というと今の労働者の要望に合わせた柔軟な対応ともいえるので一見良い制度だと思われる。ただ、キャリアアップ助成金の正社員化コースの多様な正社員制度は結構要件が厳しかったはず。YouTubeとか見ても、難しいので省略、とか言っていると思う。例えば各労働者の要望に応えた労働時間にしました、だと不支給だったと思う。きちんと就業規則に規定していて、比較できる通常の正社員がいて、とか色々ルールがある(らしい。全部は知らない)。無期雇用の人と違いがわかりにくいからだろう。この要件が変わらない限りはどうかなあと思う。

5 人材開発支援助成金の訓練修了後の正社員化に係る加算措置(継続)

これは継続なので令和6年概算要求にはあるが、令和5年補正予算にはのっていない。一応載せてみた。

まとめ(私見

以上が一枚の資料でわかることである。補正予算が成立したら詳しい決まった内容がわかるだろう。

これからは私見

おそらくこれが補正予算になったのは、前倒しという面もあるが、いわゆる年収の壁対応なのではないかと推測している。根拠となる証拠は何もないが、社会保険適用促進コース?とかいうややこしい新コースを用いて社会保険に入る非正規労働者を増やすならば、いっそ正社員化した方がわかりやすいのでは?ぶっちゃけ正社員になるのが一番シンプルじゃん。だったら、正社員化コースを拡充して呼び水にしたらいいんじゃね?という風になったのではないかと。新規利用の加算や、短時間正社員の新規加算なんかそれに沿う内容である。

このブログでは何度も言っているが繰り返して言っておきたい。”今の”キャリアアップ助成金の正社員化コースは不支給になる支給要件が沢山あり、専門家の社労士でさえ苦戦がSNSなどで報告されている助成金である。要するに相当難しい。この助成金が貰えること前提で正社員にしようとして、ガイドブックを見ながらとりあえず自前でやってみよう、恐らく高確率で足元をすくわれる。

あと、正社員化コースを拡充するなど、私は反対である。正社員化コースは制度設計を見直すか、辞めるべきだ。雇い入れでわざわざ非正規雇用を生み出すことがYouTubeやX(旧Twitter)などで平気で語られているのに、なぜそれを拡充するのか理解に苦しむ。まあちょっと増税メガネとかSNSで批判されたのに反発して1回限りの減税をする補正予算を組むような政権なので、これぐらいことは些細なことなのだろう。

勿論制度が簡素化されるか、制度設計が行われるのならば話は別だが、簡素化はここ数年の動きと逆行する。まあ、詳しい内容を見ないと何ともわからない。

他の助成金

補正予算はキャリアアップ助成金の正社員化コースだけではない。どうやら、産業雇用安定助成金、両立支援等支援助成金も新コースが登場するようである。たしか去年は人材開発支援助成金の新コース「事業展開等リスキリング支援コース」が令和4年12月に初登場したから年度初めの4月から開始ではないだろう。もうすぐ年末なのだから、4月から開始の方がわかりやすいと思うのだが、国の考えていることは私にはわからない。

尚、どうやら雇用調整助成金についても、令和5年11月21日の審議会でテーマになるそうだ。そういえば雇用調整助成金は令和6年1月から助成金の計算方法が実際に払った休業手当ベースに一本化されることになったようだ。これで少なくとも制度上例え助成率を100%に一時的にしても会社が利ザヤを稼ぐことはできなくなった。これ以上、なにか話があるのかな?とも思う。先週あった行政レビューとか現状を踏まえてさらに何か変わるのか、報告か。5年の時効を前に不正受給の大々的な調査を開始する、とかだったりして。

11/21追記 

上記の雇用調整助成金については、ホームページ上の資料によると研究者による分析結果と今後の課題整理だったようだ。

三者が行政に対して結果の評価と今後への課題を提言することの重要性はわかるが、当時の現場を知っている人間としては、中身があまりにも机上の空論と言うか…。ちょっと一言まとめたい。

・行政のデジタル化について…コロナ禍をきっかけにまだ始まったばかりだし、デジタル大臣を前に、今後デジタル化を進める契機としたいがための話に思えた。当時に今の記憶をもってタイムリープしても、デジタル機器がないので解決しない。行政のデジタル化自体はいいことだが、コロナ特例の雇用調整助成金に関していえば、あまり意味がない議論。もし、雇用調整助成金よりデジタル対応が進んでいた持続化給付金の方が成果があったという結果がでたなら話が別だが、持続化給付金のほうが不正受給が多かったイメージがある。予測不可能な未知のものを今の技術でデジタル化しても解決したとも思えない。

・教育訓練…読んで開いた口がふさがらない。なぜこれを議論の対象にしているのか意味不明だった人もいたのでは。いったいどんな訓練を想定しているのか具体的内容が見当たらない。あの時、先が全く見えない中で、会社が生きるか死ぬかの状況下で、会社が労働者に対し、どんな訓練を、どれだけの間しようと判断できただろうか。雇用調整助成金は教育訓練の内容が対象外だと”通常の労働日”と解釈されるため、賃金100%保障したのに、1円も助成されない。休業分は貰えるという制度にするのならともかく、今のままだと、変に上乗せしようとして不支給になったら、担当者のクビは飛びかねない。会社と担当者はかなりのリスクを背負うことになる。せめて1円も助成されないという要件を変えないと話にならないと思うが、そういった意見は見当たらない。

飲食や宿泊、旅行など大打撃を受けた業種は人が集まってナンボの業種。そこが休業を余儀なくされた。なにを訓練するというのか?例えば家で各自皿洗いの練習をしたら教育訓練の対象になったのか?それにあのスピード支給をしていた時期に誰がその訓練が妥当だと判断できるのか?電話もつながらない状態だったのに?教育訓練のための助成金である人材開発支援助成金でもいまだに訓練内容が妥当かどうかは明確化されていないというのに、リスキリング(これもいまだ明確化されてない)というゴールありきの発言だなあというのが率直な感想。教育訓練に夢を見すぎではないですかね?