12月1日追記 以下の記事の内容は11月16日時点の支給要領をもとに作成したものです。令和4年12月1日以降は「経過措置期間」として別に規定が設けられていますので、ご注意下さい。
3回に渡った特例分析、その最後の1109a簡素化特例についてです。
名前の通り「簡素化」。
入力する数字や申請様式等を簡素化した特例で、令和2年5月中旬からスタートしています。
- ・小規模事業所の事業主に対する支給額 (小規模用専用申請用紙の登場)
- ・小規模事業所の事業主の休業規模要件の確認
- ・支給額の算定方法…「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(一般用)の様式」での算出が可能
- ・年間所定労働日数の算定方法・・・週休2日制の場合261日、週休2日制+祝日休日の場合240日などを用いることができる。
- ・複数の休業手当支払い率に係る算定方法・・・ 単純平均、加重平均によって算定した支払い率を採用できる。
- ・計画届の提出不要。ただし添付書類は支給申請書に添付
この特例ができた経緯は、新聞か雑誌かに載っていたものを思い出して以下記述します。当初はコロナでの休業も雇用調整助成金もこれまで通り通常版の様式で申請を受け付けていたところ、どう記入すればいいのかわからないという問い合わせでハローワークの相談窓口がパンク。また提出しても書類不備が多い、などの理由で、申請件数に支給が一向に追いつかない、という状態に陥ってしまったと。そこでその解決策として、特例で、思い切って書類を簡素化しようという流れになったと。簡素化については、当時の政治家が、大手の社労士法人に打診し、依頼を受けた社労士法人がわずか数日で用意したものである、と。現物の資料を持っていないので、正確かどうかはわかりませんが、パニック状態の中の解決策としてはアリではないかと思ったのを覚えています。
しかし、簡素化するというのは、申請と支給のしやすさというメリットと引き換えに、正しさを後回しにしてまうことにもなる。その結果、金額が本来より大きくなってしまう、誤った数字で支給してしまう、本来支給すべきでない分まで支給してしまうというデメリットもあります。
私は、恐らく、この簡素化の特例のほとんどは、通常版でなくなっていく流れだと思っています。簡素化のために計算方によって助成額がかわる、つまり公平公正さが失われている。公平公正は、税金もそうですが、支払義務のある雇用保険を財源としている以上、必要なことだと思うので。
前置きが長くなりましたが、以下、個別に説明していきます。
1109a 簡素化特例
(令和2年5月19日施行~略~令和2年12月28日改正)
・小規模事業所の事業主に対する支給額 (小規模用専用申請用紙の登場)
本来は、労働保険申告書で申告した賃金総額から算出する仕組みであるのを、労働者が20人ぐらいの小規模事業所の場合は、実際に支払った休業手当の合算に助成率をかけて計算する方式にした、思い切った簡素化です。
この方法、専業の事務職もいない、専門家に頼む余裕もない事業所にとっては助かったのではないでしょうか?でも、問題も多いと思います。
実際に支払った休業手当の合算なのだから、問題ないのでは?と思うかもしれませんが、それは、そのベースとなる給料と休業手当の額が正しかった場合の話。
極端な話、わっかんねえから、総理大臣が1日15000円っていってたから、日給15,000円×22日=330,000円×20人=6,600,000円(月)で申請しちゃおう、ということもできてしまいます。Excelにこの数字を入力すれば、月660万円手に入る…。これが何か月も続くとなると、よからぬことを考える輩がでてきそうです。
勿論、上記の数字が虚偽の数字なら不正だと思いますが、これが偽りの数字である、または間違えた数字ならどうだろうか、偽りか間違いか確認するのにどれだけの資料と人手と時間を要するのか…。
そもそも、通常版が何故前年度の労働保険料申告書の給料総額を使っているかというと、おそらく、その数字が行政機関に提出する公式資料であり、会社が支払う労働保険料の計算のベースとなる数字であり、過去の実際の給料の実績をもとに算出された数字ですから、わざと過大に計上する会社など、ありえないからです。
今の申請会社のうち、この様式を使っている事業所がどれだけいるかわかりませんが、これはどこかのタイミングで廃止になると思います。あるいは、確認用の添付資料が増えるのではないか?
・小規模事業所の事業主の休業規模要件の確認
休業規模要件の確認方法は、”休業延べ日数÷雇用保険被保険者の所定労働延べ日数”。
この”所定労働延べ日数”が厄介です。
雇用保険被保険者は、週20時間労働のシフトのパート労働者も含まれます。他、出向、休職、育児休業、月途中に入退社した人、休業していない人も含まれ、その全ての労働者の所定労働日数を足すわけです。
これは大変だというわけで、この要件で、小規模事業主の場合は
労働者2人いたら1日休業以上したら休業規模要件を満たすよ、という簡易基準を作ったわけです。つまり、この様式で申請するところは所定労働日数延べ日数を算出しなくて済むわけです。
具体的な数値でみてみると、休業10日÷労働者20人はOK。
通常の場合、もし所定労働日数が全員月23日だったとすると、
10÷20×23=10÷460=2.17%で、1/40の2.5%を下回っているのでOUT。
ただ、この簡易計算、あくまで、小規模用の用紙を使った場合のみ採用されているので、小規模用の用紙が廃止されたら、自動的になくなります。
・支給額の算定方法…「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(一般用)の様式」での算出が可能
通常版の様式を使う場合の簡易的な対応として、労働申告書の給料総額の代わりに、源泉所得税の支払いに使う計算書のひと月の給料総額を利用しようという方法です。
おそらく、労働保険料申告書のどの数字を使うのかわからないという事業所用に別の基準として、ほかの公的な人件費の提出書類を探したのだと思います。それが、原則毎月税務署に提出する公的な数値であるこの計算書。この計算書を採用したのは、申告書同様わざと多くの金額を書く会社はいないだろうという考えからかと。
ただ、この数値を使うには、致命的な欠陥があります。この計算書を作成したことがある人なら気づくはず。その欠陥はあえて書きません。
この計算方法は、小規模より問題だと個人的に思うので、今回の簡素化の中では、最初になくなるのではないかと予想しています。
・年間所定労働日数の算定方法・・・週休2日制の場合261日、週休2日制+祝日休日の場合240日などを用いることができる。
会社の年間所定労働日数は何日かわからない会社が結構あったため、決め打ちしてもよいようにしたのだと思います。会社の年間所定労働日数、シフト制とか、夏季休暇、年末年始に休みがあるところとか、人に休みの日が違うとか、色々ありますし、この年間の期間は、労働保険申告書に対応する年度の4月1日から3月31日の所定労働日数です。賃金締切日が20日だろうが、決算期がどうであろうが、この期間固定だそうです。
今後どうなるかは予想できません。だって、面倒くさいやん?
・複数の休業手当支払い率に係る算定方法・・・
単純平均、加重平均によって算定した支払い率を採用できる。
これも報道か何かで聞いたことがあります。休業手当として給料の何%を支払うか、という取り決めを労使でするのですが、業務でその率を分けたりする場合があるそうです。100%にしたら、休んでも働いても給料一緒、それなら誰も働かなくなるので、あえて差を設けるみたいな会社があるそうです。
・計画届の提出不要。ただし添付書類は支給申請書に添付
過去記事参照。来年3月末まで提出不要です。ここに1回目に書いた特例の読み替え規定があります。もともと生産性要件の確認する月が「計画届の提出月」が基準なのですが、その計画届が不要になると基準月がなくなるからです。
以上、3回にわけてお送りしました。
11月中に、この特例についてどうなるか、アナウンスされると思います。
とても1枚のリーフレットでは書ききれないと思うので、ガイドブックか、支給要領を見ないとわからないと思います。
尚、1111a(緊急事態宣言等対応特例)、1112a(地域特例)、1113a(業況特例)の3つは、終了、または終了を予告されていますので、省略します。