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雇用調整助成金 計画届の私見 令和5年7月1日以降 (仮)

雇用調整助成金の計画届が令和5年7月以降の休業分から完全に復活しました。また、ガイドブックも令和5年7月28日に更新されて、”コロナ特例”に関する”特例”の表記がなくなりました。そこで以前記事としてあげていた「計画届」の記事をリニューアルして再掲します。以前の記事はコロナ特例の説明など今掲載すると間違いのもとになる箇所があったので、コロナ特例の時期に書いた記事は削除しております。

尚、間違えなどに気づけば随時修正していきます。

はじめに

そもそも、雇用調整助成金に限らず雇用関係助成金の殆どは、「計画届」という名の事前の準備を宣言する書面を提出しておく必要があるものが多いです。

しかし、新型コロナウイルス感染症に関する特例期間中は途中で”計画届”というのが省略されておりました。これは予測不能の新型ウイルスに対して事前に計画するのが困難だったのと申請件数の多さ、色々な理由が考えられますが、当初は計画届自体は申請と同時に提出するのも可能という時期もあり、”計画届”自体の省略するということはレアケースです。

そしてその計画届が”コロナ特例”の終了を経て、3か月の猶予期間が過ぎて、通常どおり復帰した、というわけです。

では計画届には何を書くのか、というと、ざっくりいうと、事前に休業する日の計画を立てること。詳しくは1~3の判定基礎期間*1の間にいつ休業するのか事前に計画し、それを提出するわけです。名前通りの意味そのまんまです。

その休業がいつになるかなんて事前にわかるか!と思うかもしれません。ですが、雇用調整助成金というのは、前提として「景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、その雇用する対象労働者の雇用の維持を図るために、「労使間の協定」に基づき「雇用調整(休業・教育訓練・出向)」を実施する事業主が支給対象となります。”休業”は”事前に”労働者(の代表者)との間で事前に決めておくという前提があるからです。”休業”というのは新型コロナウイルス感染症の流行時の対応のイメージが強すぎるかもしれませんが、火事とか災害以外の理由で労働者を休業させる、と行為というのは事業所にとってかなりレアなケースであり経営の根幹を揺るがす重い決断です。

新型コロナウイルス感染症はいまだ流行しています。その新型コロナウイルス感染症に対応する場合であったら予測は不可能ですが、そもそも感染者は”病欠”扱いであって”休業”ではないので雇用調整助成金の対象外。また、「濃厚接触者」というものも令和5年春以降なくなったので、それだけでは休業対象にならない。インフルエンザが流行したというのと同じ状況。労働者に感染が広まったので急遽事業所を休みにするという理由は、本来はこの助成金の対象にならない、ということです。理由は簡単、上記赤字で書いた通り「経済上の理由による事業活動の縮小」が要件なのだから、感染者急増だけではその理由には該当しない、というわけです。

では今までのコロナ特例の期間はどうだったのだ、という反論がでてきそうですが、あれはその名の通り”特例”です。通常ではありません、という理屈。ですので、台風で事業所が壊れても”通常”では対象外でしょうが、”特例”が新たにできれば、その”特例”で対応するかもしれません。

前置きは以上。

ここから計画届の中身について。計画届には作成書類と添付書類があります。以前にも書きましたが、作成する書類や添付書類は”コロナ特例”の”緊急対応期間”の時とは殆ど同じものでもありますが、中身は微妙に違います。この記事ではこれについてご紹介。

尚、教育訓練、出向については説明するとややこしくなるので省略し、”休業”のみの場合の説明となります。

あと、クーリング期間中、つまりほとんどの会社は前回の申請(支給)から1年間申請できませんが、これは過去記事をご覧ください。休業延べ日数の上限がありますがその説明はこの記事では割愛します。

様式1号(1) 計画届

まずは専用用紙4種類について。

全部ExcelかPDFになりました。以前はWordだった記憶があります…。企業情報に、休業日を入力するだけです。適当に書くとのちに記述する様式第1号(3)や支給申請時の休業日と一致しなくなるかも。日数も上限がありますしね。

注意すべきところは、計画届にある「対象期間」の始期。初めの日から1年間が対象期間となり、その終了日から1年間は「クーリング期間」に入り休業しても助成されない。

その初めの日ですが、事業主が指定できるのです。素直に休業の開始日にしてもよいし、給料計算しやすい判定基礎期間の初日にしてもよいし、休業協定書の日でもよいし自由だと読み取れます。ただし、その始めの日からまるっと1年間が「対象期間」になるわけなので、1終了日近くになってから休業したいからといって変更できないはず。きちんと考えて書かないといけません。まあ、ハローワークの窓口で勧められるかもしれませんが。

そして計画届の提出期限はは休業開始日の前日。判定基礎期間の初日でもなければ、上記対象期間の初日でもない。わかりにくいですが、まにあわなかった計画届は支給されないので、これも注意が必要です。

その下の段に、以前の対象期間を記入する欄があります。これは休業上限の”3年150日”のための欄でしょうが、”コロナ特例”の間の”対象期間”は短く、その前となると3年150日の枠外になるので、ほとんどの事業所には関係ないのかな、と私は思っています。

様式1号(2) 売上高の増減確認。

ざっくりいうと、コロナ特例でもあった生産高比較。1か月比較が3か月の前年同月比較になるなど違いはありますが基本は同じようなもの。ざっくりいうと「売上が減ってないなら、事業活動が縮小していないよね。なら、雇用保険で助成する必要ないよね」ということ。

令和5年7月からは、判定基礎期間の前月、前々月、前々々月の3か月間の前年比較。判定基礎期間の初日のある月、つまり”当月”は比較対象から外れています。まあ、事前に計画するのに当月はわからないからでしょう。コロナ特例のように、適当な月という自由に選んだ月とは比較できません。それだったら、月ごとの売上の変動が大きいところは殆ど対象になるので、あくまで前年比較。

前年はコロナ禍最中のところも多く、今年より売上高が10%以上低い、というのは今年に関しては結構ハードルが高いと思います。また、前年の売上がない場合は支給対象外です。雇用保険被保険者がいなかった場合も同じ。開業時の最初の数か月をすぎてからうまくいっていない事業所や、”計画休業”の事業所は排除されるということでしょう。

あと、売上の数字を書く下に「はい」「いいえ」を書く欄があります。実は2の災害等でのはいいいえが曲者で、災害等での売上減は”通常”の雇用調整助成金では対象外です。台風等での災害で被害が尋常でない場合は、”特例”対応だったと思います。

様式1号(4) 雇用量の増減確認。

簡単に言えば雇用している労働者数の数が一定率、一定数増えていないかを確認する表です。これはコロナ特例で省略されてきましたが、経過措置期間から初回の事業所から復活しました。ざっくりいうと、「労働者数を一定数増やしているなら、事業活動は縮小していないよね。なら(以下略)」ということ。この指標、人数を一定数増やした場合は、雇用調整助成金が貰えない、ということになります。受け入れている派遣労働者の数も対象になりますので、多くの派遣労働者がいる場合は準備が大変です。派遣先管理台帳を全部つけないといけないですから。あと、注意書きに月末の離職者は含まれないとはっきり明記されたようです。月末日に労働した後に退職してもその人は人数としてカウントしない、ということです。あと被保険者も被保険者期間が6か月以上ないと対象になりません。別に新入社員を差別しているわけでなくて、入社してすぐ休業するという行為を防ぐためだと思います。

あ、話が変わりますけれども、コロナ特例で大量に人員を増やしてすぐに全日休業させて給料100%保障していて、特例が終ったあと退職していたら不正調査のターゲットと思います。これは不正公表案件にあったからですが、この助成金目当てに労働者を雇った形にしてすぐに休業させる、というケースがあったらしいので。(不正があったのは緊急雇用安定助成金だったかな?)

様式1号(3) 労働者ごとの休業日一覧表。

コロナ禍前とExcelの表がだいぶ変わったかと思います。前は上段と下段があって休業予定日と実際の休業日を労働者ごとに1か月分毎日記入するという、ややこしかった表だった記憶がありますが、今は支給申請時とほぼ同じような様式になったようです。所定外労働時間と、実費算定の場合の休業手当の欄が追加されています。コロナ特例時の小規模事業所のものと合体したようなもの、というとイメージしやすいかも。これは残業相殺対応と、助成金額の計算方が2種類になったのが影響しているのでしょう。

続いて、確認資料の3種類について。

確認資料(1) 休業(教育訓練)協定書。

これはコロナ特例でも必要でしたが、組合員名簿または労働者代表選任書が復活したようです。組合がない場合は労働者代表選任書が必要ですが、この表が結構厄介です。資料が見当たらないけれども、確か労働者の半数以上の記名(署名?)が必要だったのでは?

確認資料(2) 作成資料に書かれた中身の証拠書類。

そういえば、証拠書類をエビデンスという人、ほとんどいなくなりましたねえ。

①中小企業か大企業かの根拠資料。

助成率が変わってくるのでここは結構重要です。中小企業か大企業かは計画届に書きます。中小企業か大企業かの判断は資本金か常用労働者数です。産業ごとに基準額、基準人数が違います。資本金で中小企業になる場合は、登記のデータで確認できるので、それほど苦労はしないかと。資本金が大企業扱いだが、常用労働者数中小企業に該当する常用労働者数だと主張する場合は色々ケースがあるようです。

ガイドブックに例示されている資料を全部提出する必要があるかどうかは不明。根拠は支給要領0605a。ただし、提出せよ、といわれて拒否したら、最悪審査に協力しないという理由で不受理、不支給になるので、提出する必要がないとはいえないです。

②売上高の根拠資料。

これはコロナ特例でもあったのでわかると思いますが、経理処理によるデータを証拠書類として出すということです。ちなみに”月次”データなんて速報値だよ、と思っているところがいたら要注意。後で確定数値がでて売上が下がっていなかった場合は助成金は回収です。

派遣労働者数の根拠資料。

特例では雇用量要件がないため、これも提出が省略されていましたが、そのまま復活したようです。その場合、受け入れている派遣労働者数が多い事業所は提出書類が多くて大変です。派遣先管理台帳は1人1枚ですしね。

④所定労働時間等を確認するための就業規則と給与規定。

特例では提出は省略されていましたが、本来就業規則の規定で記載事項との照合をするのが雇用関係助成金の基本。就業規則や賃金規程は会社のルールブックであり証拠書類です。雇用契約書(労働条件通知書)はぶっちゃけなんとでも後から作れますが、就業規則労働基準監督署に届け出義務があります。つまり、つじつまあわせに就業規則を作っても労働基準署内にある就業規則で嘘はバレると思います。

残業相殺確認のためにも所定労働時間が確認できる就業規則は必須です。賃金規定は判定基礎期間と支給申請期日とかで確認するのでしょうねえ。あと、休業した時の休業手当額の参考にもなりますし。え、就業規則の規定が現状と違う?常用労働者が10人以上いるのに作ってない?…それは助成金以前の問題になるかも…。

確認資料(3) 教育訓練のための確認資料。

教育訓練も事前準備が必要です。内容は割愛。私見ですが、教育訓練をするなら人材開発支援助成金を使った方が”今は”いい気がします。後、計画届で不受理にならなかったからといって、教育訓練の内容がOKと判断されたわけではないので注意。(計画届の受理に関する支給要領に、教育訓練の中身について確認してから受理する、という規定がないため)

以上です。新型コロナウイルス感染症がまた流行りだしたらしいので、5か月ぶりに雇用調整助成金のガイドブックと支給要領と資料のダウンロードページを読みましたわ。

*1:1か月分の給料の計算期間のこと。例えば20日締切なら、21日~翌月20日までの1か月が1判定基礎期間。尚、最初の月がこの計算期間の途中の場合は例外あり