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「瓜を破る」 書評

今回の記事は「瓜を破る」というマンガの書評である。

内容は、キンドルアンリミテッドで読める4巻までのものとなる。

このマンガは、Xで結構宣伝されていてマンガアプリで数話無料だったので読んでから、なんだか続きを読みたくなり、今4巻まで読んだところである。

Xでの宣伝から、エロ漫画だと勘違いしてしまう。

それに絵柄からどうみても主人公は幼く見えて3〇歳には見えないし、処〇であるとも見えない。主人公は他のキャラクターと比較して、外見も性格も優れているぐらいのようにみえる。人間的に大きな問題や欠点があるわけではないし、深刻な過去の経験や特殊な家庭事情を抱えているわけでもない、仕事も特に問題はない。主人公自身が認めるように、特段の事情もなく他のことは人並み以上にこなせている。ただ、「性交の経験だけがない」。それがコンプレックス、という設定である。

「お前のような処〇がいるか」と北〇の拳の「お前のような婆がいるか」の画像を貼ってツッコミたくなるぐらいだが、実際そういう人もいるであろう。だがこのテーマだったら話の広がりがないだろうに、と斜に構えて、でもまあ無料だからといって読んでみた。すると…

実に面白い。そしてなにか心に突き刺さる。

引き込まれてしまい、あっという間に無料分を読んでしまった。そしてサブスク版を見つけて4巻まで一気に読んでしまった。

この面白さについて言語化して伝えたいが、どう表現するのが適当だろうかと思った。なんかこうムズムズします、で終わっては文章能力向上のために始めたブログの意味がなくなる。というわけで、なぜ面白いのか分析してみた。

まずAmazonなどのレビューを見てみることにした。主人公だけでなく主人公の周りの同僚が主人公となる話がでてきて、複数の主人公の物語となり、読者がその登場人物の誰かの話で心に引っかかるところがあるから人気になったのだ、とか、主人公と相手とのピュアな交際が良いから、とかいうレビューを見た。

その書評は的を得ていると思う。繰り返しになるが主人公だけの話だとそんなに話数はいらないだろうから、他の登場人物が主人公となる話で広げることで、漫画自体の話も広がっているだろうと思う。ただこの作品、仮に主人公以外を取り除いた他の人の話だけの物語にすると、別にどこかで見たエッセイの寄せ集めになってしまうだろう。キャリアウーマンの苦悩、歯科医という金持ちでステータスのある旦那の妻、育児と仕事と趣味に追われる同僚、どれもそれを主題にして書いているエッセイは多く見つかる。

そして、ふと気づいたのである。他の話の主人公となる女性キャラクターはまず最初に本編の主人公目線で登場しており、最初から性経験による劣等感に悩む主人公目線では、感じが悪かったり、主人公と違って人生経験を経て幸せを謳歌しているかように見える。つまり、幸せな羨ましい存在か、うっとおしい存在として最初は登場する。そして、そこからその他の人が主人公の話になると見え方が一変する。主人公が変わることでその人物の目線での話になるからだ。すると、それぞれ悩みや問題を抱えていて、その悩みや問題を解決できずに右往左往していることがわかる。他人の悩みなんてわかるはずがないことがわかる。

みんな悩んでる、とか、あるある、とかいう言葉だけでは表現できない。物語の構成が上手い、といったらよいのだろうか。そして、最初の印象からガラッと変わることで、読み手の感情移入ができる。他人の悩みや考えなど本人しかわからないし、本人しか結局解決できないということもわかる。ちなみに、4巻時点で本作の主人公(1巻の表紙の人物)は自分の相手以外の悩みの解決に関与しない。悩みを知らないからで、本編の主人公は登場しなくなったりする。これも物語として新鮮である。朝ドラの主人公のように、おせっかいで他人の問題にクビをつっこんで問題解決に尽力しない主人公である。

3巻の終わりぐらいから、主人公の交際相手候補からの目線が加わる。すると、交際相手候補から見たら、主人公は容姿も良く、性の対象としても魅力があり、会社での同僚との会話を見ても、どうみても男に困っている様子は到底見えない。相手の男からしたら自分なんて、と卑下してしまうほどに。一方主人公といえば交際相手候補と今すぐにでもセックスしたい衝動を抑えて対面しているというのに。そういう主人公だからこそ未経験なのか、と思わせる。主人公ですら他人から見たらその悩みなんてわからない。主人公が変わっていくと見え方も変わる。上手い。

そして、この物語のポイントの重要なところは悪役が殆どいないのである。(モブでは悪役はいるが)聖人というわけではないけれども、こいつが諸悪の根源という話にならない。そして社会が悪い、国が悪い、男が悪い、ホストが悪い、私たち女は被害者、という構成にはしていない。登場人物すべてが、あくまで自分がこれまでの人生で自ら選んできた道。

そして、今選んだ道中で発生している問題。女性が主人公の漫画では、時に揶揄される「理解のある彼くん」は登場しない。(1人の交際相手はいたかな?でも、その人の話は2話ぐらいで終わるし、パッととしない印象からスタートする。)良識もあって、ある程度察することもできて、優しいが「理解のある彼くん」ではない。ダメ男でもない。完璧な人間でもない。だから、男に責任転嫁できないし、男に問題解決をゆだねられない。4巻時点で話の主人公となった女性キャラクターはみな男性のパートナーがいるのだが、男が悪いという話ではない。だからこそ、誰かに責任転嫁する話でないからこそ読んでて感情移入できるというか、面白い作品になっているのかもしれない。上手い。

まとめ。

自分目線と他人目線を切り替えると見え方が変わるところ、誰かに責任転嫁できない夫々の問題で自分で解決しないといけない問題であること、そして、きっと誰もがそれぞれ問題を抱えていて、そしてそれを受け止めて、そして共に未来に向かって歩んでいけるパートナーを求めているんだなあ、と思えるところがこのマンガの良さの理由だと思う。たしか連載している漫画雑誌は青年雑誌だった気がする。絵柄が独特でなく、陰鬱としたものでなく、ほんわかした感じなのが、この物語と上手くマッチしているのかもしれない。

ちなみにエロ漫画ではなかった。早々に主人公の体目当てで迫る男がでてくる。そこで性行為して処〇喪失して、そこで性の快楽に目覚めるというエロ漫画、にはならない。主人公は処〇喪失の機会ということが頭をよぎるがその男からは逃げる。そこでエロ漫画ではないことがわかる仕様である。上手い。

あとこのマンガ、今度実写ドラマ化するそうだ。実写ドラマ…、う~ん、アラサーで美男美女なら「お前たちのような処〇と童〇がいるか~」「お前らは中、高校生か~」と突っ込んで話に説得力がなくなりそうだし、かといって容姿が優れない年配者だと、物語がモテない、弱男、弱女の話に矮小化してしまうような気がする。年齢や容姿がわかりにくいマンガだからこそできるギャップを利用した作品だと思うので、主人公カップルを演じる役者さんは大変そうである。

最後に。繰り返すが、4巻までの書評。どうやらサンプルを読むに、最新刊までには主人公は処〇ではなくなったようだ。めでたしめでたし。しかし、まだ連載中。だとするとこのマンガの話の展開は今と変わっているかもしれない。えてしてラブコメのマンガは彼氏彼女になると物語としては蛇足になって面白くなくなってしまう作品も多い。この作品は果たしてどうか?それは5巻以降のお楽しみということであろう。

令和6年3月追記

5巻以降の単行本がセールになっていたので、5巻~7巻までを購入した。

6巻にて主人公は好きな相手と間で処女を喪失しました。めでたしめでたし。以上書評終了…。

ということだと書評にならないので、私見をば。4巻で主人公に”彼”ができたようなものなので、後は性欲を抑えきれず6巻にてお互いの気持ちを確かめたうえでの処女喪失であるのでめでたしめでたしである。以上完結…。ではないようで7巻以降も続くようだ。

まあ正直言うと5巻以降は4巻までの勢いと比べて一気に面白みが下降したと私は思う。というのももう主人公が彼相手にセックスしたいだけの性欲まみれで、主人公が恋愛・セックス漫画となり、この漫画の主人公ではなくなってしまった感があるからである。周りの職場の同僚が変わって短編の主人公役になるのは4巻までと一緒である。各個人のそれぞれの悩みというのは前に書いた通りよくある短編エッセイの主人公と大差ない。主人公との主役の入れ替わりというか主観がかわることによって世界の見え方が変わるのがこの漫画の持ち味だと私は思っているのだが、主人公はもう彼しか見えていなくて同僚との接点はほぼ皆無になる。そうなると、ただの短編エッセイの集合体の漫画になってしまい面白みが減ってしまった。

あと主人公の処女喪失がこの漫画のメインテーマなのだから、物語のクライマックスとしてもっと盛り上がるような話になるかと思ったが、特に盛り上がりもなく、デートの後に性欲があふれ出てセックスしました、ちゃんちゃん、というただの恋愛漫画になってしまった。マンガは1000年生きたエルフでも見た目は子供だし年齢なんて関係ないしね。主人公さんはなぜそんなにも積極的でもうセックスしか頭にないくらい性欲まみれなのになぜ今まで処女だったの?とツッコミたくなるぐらいでちょっと拍子抜けした。

でも、これは4巻まで読んでしばらくしてから先のあらすじをある程度知ったうえで約半年たった後で読んだせいでそう思うのかもしれない。ずっと雑誌でリアルタイムで読むか、6巻までネタバレをされずに一気に読んでいたならば感想は変わった可能性は十分ある。私の購入の仕方に問題があった。今のところはそんな感想。