けーせらーせらー

仕事、メンタル、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

よく働く人は、思い入れが強くなり、対立しがちである。

複数の会社で複数の数十人の従業員がいる部署にいて実感したことだが、組織というのは「よく働く人」「普通の人」「あまり働きがよくない人」の3パターンに分かれるなあ、と改めて思っている。

「働きアリの法則」というのだったと思う。働く人2割、普通の人6割、働かない人2割。どこかの割合の人が辞めても増えてもこの割合はどうも大体同じらしい。

そして思うのだが、どうもこの「働く人2割」には、率先して与えられた職務以上の仕事を自分で考えて熱心に働く人が含まれる。今回は、「働く人」のお話。

この率先して自分で考え熱心に働く人は、経営者が求める「理想の労働者」として位置付けられる傾向があるが、どうも最近デメリットがあるのではないかという印象を持っている。というのも、この「働く人」は仕事に対する思い入れが強すぎる傾向があるのである。その思い入れは周囲をも巻き込む。そして「働く人」はその自己主張が強くなりすぎていく。主張すること自体はいいのだが、だんだん、仕事はこうすべき、組織の在り方としてこうあるべき、自分は評価されるべき、という「べき論」が多くなる。そして他人にもそれを強要し始める。そしてその「べき」が上司に認められないと、反発心から仕事への文句が増え、時に他人に怒りをぶつけ始める。

思い入れは時に組織の規律を乱す。具体的には誰かのやり方を否定して自分のやり方を押し付けるため衝突する。組織のトップのやり方にも口を出す。そして自分の権限を越えて組織の方向性や仕事の割振り、ついにはメンバー構成にも介入を試みる。そして自分の意見が認められないと悪口を周りに言い始め社内の雰囲気が悪くなる。さらには世の中10人集まれば最低でも1人は嫌いな人がいるものので、その嫌いな人を「組織に害を与える者」という正義のもとに排除しようとする。論理的な思考から感情的な偏った思考が強まっていく。

「働く人2割」同士が、それぞれの思い入れ、いや、思い込みにより感情的に対立が激吾kすると組織が分裂崩壊しかける。特定の部署の在籍期間が長くなればなるほど、仕事の経験値や専門性はあがっていくが、その経験や専門性が上司より上回る結果、組織の立場が逆転する。組織の維持にとって悪い方に作用し始める。

その結果、「よく働く」メリットを「規律を乱す」デメリットが上回る。

「働く人2割」の人は自分が悪いことをしているとは思っていないし、実際に成果を出しているので解雇しにくいし、会社としては給料以上に、組織の発展のために働き成果を出す人は残ってもらいたい。だが、上記のデメリットを放置すると組織は雰囲気が悪くなり他の人は退職してしまう。そして人手不足がすすむ。組織としては異動や担当替えという形をとらざるをえない。そうなると、「働く人」は被害者意識が強まり退職するか、「組織に悪影響をもたらす人」に変貌する。

そうなるのを防ぐのが管理職の役割であり、マネジメント能力ともいえる。人事としては「ジョブローテーション」、つまり定期的な異動がある組織にすることが一番なのだと思う。最近流行りのジョブ型と相反するし専門性は磨かれないかもしれないが、長期間同じ職務にいると、取引先との癒着、排他的になり他部署との対立を引き起こし、自分にとってかわられないよう新しく入ってきた他人を排除し始める。長期在職の場合は異動ありの方が、人数がある程度いる会社にとっては「組織の硬直化の弊害防止」に良いと思う。降格と思われないように異動をすることは「働く人」「普通の人」が退職するのを思いとどまらせる効果もある。

さて、自意識過剰かもしれないが、どうも私もこの「働く人2割」に長いこと含まれていた。異動先で長期に在籍する「働く人2割」を客観的に見て気が付いた。他人の振り見てわがふり直せ、とはこのことだろう。その思い入れが上層部や同僚との対立を生み、周りとの軋轢を生んでいる気がする。思い入れというと聞こえがいいが、言い換えれば自分のルールを他人に押し付けているだけ、ともいえる。

そこで、今年の2月から、他人に何も強制せず、期待せず、自分の仕事のみを集中して行うよう意識して仕事をしてみた。その結果、見事「普通の人」の括りに当てはまるような感じがする。他人に期待するのは、仕事のやる気の表れともいえるので、他人に関心を寄せないというのは組織への貢献度も下がるのは間違いない。パワハラの中に含まれる感情的な暴言に分類される発言というのは「働く人」から他人の仕事ぶりへの不満や怒りから来る発言が多い、という話もなんとなく感覚的にわかる気がする。(勿論パワハラはよくない)

一方で「普通の人6割」にいるといい面もあることがわかった。まずストレスがあまり溜まらないし心身の疲労も溜まらない。そして何より、仕事や他人に対する警戒感が減少し、感情的な発言が減っていることを感じる。先入観による偏見や考えの違う他人への怒りや不満も減っている。これはいいことである。そして何より個人の成果という面で言うと、よく働いていた時よりむしろ仕事の質は上がったのではないかと感じる。焦り、不安、完璧主義が少ない方が結果的に質の高い仕事ができる、といったらよいのかもしれない。

勿論「率先して働く人」がいるからこそ、組織が発展し組織が維持できるという面を忘れてはいけない。「率先して働く人」は存在すること自体が悪なのではない。そのデメリットがあまり大きくならないうちに管理職が上手く対応すればいいだけのことである。みんなが個人主義になる、または普通の人と働かない人だけになったら会社は成長せず衰退する。結局組織として重要なのは、管理職のマネジメント能力、ということになる。

尚、組織の為によく働き、自分の成果もあげ、不平不満という主張もしない「聖人」のような人が一番なのだろうが、この「聖人」というのはそうそういない。彼らは無理と抑圧をしているので、どこかで心身のバランスを崩して、仕事に穴をあける。世の中そんなに上手くいかない。