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「年収の壁・支援強化パッケージ」 令和5年9月末時点の私見②

先日、いわゆる「年収の壁」について記事にしたところ、9月27日に発表されていました。

「年収の壁」で検索すると厚生労働省のホームページが検索上位にくるので、詳しくは見ることができます。その資料を一読した結果、私の感想は以下のとおり。

この資料は正直わからない点が多いです。もっと内容がわかってから動いてもいいと思います。

わからない理由を以下まとめました。

「106万円の壁」の定義がよくわからない

数日前の記事で、私は106万円の壁は助成金で、130万円の壁は助成金でなく、2年間の扶養維持で対応するのであろう、と書きました。

ですが、このホームページを見るとどうやらその解釈は違うようです。

どうやら、

「106万円の壁」というのは「厚生年金保険に入るかどうか」。

「130万円の壁」については「国民年金の支払いが免除されている第2号被保険者に扶養されている第3号被保険者から、国民年金を支払う義務がある第1号、第2号被保険者になるかどうか」、つまり国民年金保険料(厚生年金を含む)を支払う義務が発生するかどうか、という定義のようなのです。

だから、「106万円の壁」について助成金を支給するのは、厚生年金保険の被保険者が101人以上いるかどうかでなく、被保険者が100人以下であったとしても、厚生年金保険に入る要件に該当する可能性があったらこの「106万円の壁」の対応策に該当すると思えるわけです。要するに「適用事業所」といわれる、人数5人以上の特定業種以外の法人で働く人は対象に入ってくるわけです。

そもそも厚生年金保険に加入するかどうかという判断は収入ではなく、所定労働時間によって決められます。たとえば1週間の所定労働時間がフルタイム勤務の人が週40時間の会社では、週所定30時間以上働く場合は年収がいくらかに関わらず会社の厚生年金に入らないといけないわけです。(年齢とか事業所によっては入らなくていい場合もありますが、その説明は省略)つまり、年収130万円なくとも、週30時間以上の勤務で契約していれば厚生年金の被保険者(国民年金第2号被保険者)になります。もっとも、今の最低賃金だったら週30時間働いたら年収130万円はあるかと思いますが…。(1,300,000円÷52週×30時間=833.33…円)

そして「106万円の壁」というのは、「特定適用事業所」というのが数年前から作られて、その「特定適用事業所」で働く「短時間労働者」は上記の所定労働時間を週20時間以上、所定内賃金が月額8.8万円以上の場合に厚生年金に入るようにしたため、結果として新しい壁「106万円(8.8万円×12か月=約105.6万円)の壁」が発生したものです。従来は扶養から外れるラインである「130万円の壁」だけだったのです。厚生年金に関して「特定適用事業所」というのを新たに作ったせいでわかりにくくしているわけですね。

この「特定適用事業所」は最初できた時は、被保険者500人超の会社だったのですが、1年前に101人超に引き下げられました。そして来年10月には50人超になります。

「特定適用事業所」については年金機構のホームページの方がわかりやすいのでこれ以上の説明は省略しますが、何がいいたいかというと、「106万円の壁」は「特定適用事業所」限定ではなさそうだよ、ということです。

社会保険適用促進手当」の対象者がよくわからない

今回の「106万円の壁」の対応の肝の1つです。

例えば、106万円を超えた場合、厚生年金保険料と健康保険料の個人負担が「15万円」発生すると結果、手取りが「15万円」減る。だから、その負担分、賃金を「15万円」を増やす。そうすれば、収入が一定の割合を超えたら急に手取りが減るということはない、という考え。

また15万円増えたら、厚生年金保険料と健康保険料は収入が増えた分負担金額が増えるので、また手取りが減るということになり、永遠に手取り減少は解決しない。この「15万円」は厚生年金保険料と健康保険料の計算から外しますよ、ということですね。

理屈はわかります。

ですが、これは、だれが対象なのか?というとちょっとわからない。これから106万円の壁を突破する人だけなのか、ちょっと前に突破して厚生年金保険料と健康保険料の負担を開始した人も対象なのか、もともと厚生年金保険料と健康保険料の対象になるような所定労働時間の人も対象になるのか、よくわからない。

資料のなかで対象者を、標準報酬月額10.4万円(10.1万円~10.7万円)以下の人としています。これを単純計算すると年収124.8万円(10.4万円×12か月)になります。一つ上の等級が1月額11万円なので、これを単純計算すると年収132万円になります。つまり、対象者はざっくりいって年収130万円未満の人が対象になる、と言いたいのでしょう。これから見ても106万円の壁の人ではなく、130万円の壁の人が対象です。但し、標準報酬月額の金額がいつの時点のものか、どう決めるか(定時決定or随時改定or資格取得時決定orこれ専用?)はこの資料ではわかりません。

また、税金はサンプルの計算から除外されています。所得税、住民税の計算からこの手当は外されるのかどうかわかりません。税金の管轄は厚生労働省ではないからでしょうか?

加えてこの手当が「賃金」カウントされるのかどうかも不明。賃金にカウントされれば、当然時間外労働の割増手当の割増の基礎額にもなりえますし、最低「賃金」にもカウントされるかもしれません。そうなると、最低賃金分の補填として利用される可能性もあります。

あと給料計算の事務負担もバカにならない。この手当だけは標準報酬の計算から外すとなると新たにシステム導入するのでしょうか?たった2,3年の時限措置のために?

どこか事務負担の軽減に繋がるのか?ちょっとよくわかりません。

「キャリアアップ助成金」の「社会保険適用時処遇改善コース」の中身がよくわからない

上記15万円の負担はあくまで労働者負担分。事業主も15万円(実際はこども手当の拠出分もあるので15万円より多いのですがその説明も省略)新たに負担が発生します。労働者自身が制限をかけている場合もありますが、会社にとってもこの15万円の費用負担を嫌がってきました。だから、小売業を中心にパートアルバイトが増えてきたたわけですね。

よって、この事業主負担分1年15万円と労働者負担分1年15万円の手当分、あわせて年30万円(中小企業の最大値。手当額が上限)を「キャリアアップ助成金」でフォローします、ということのようです。

ですが、この「キャリアアップ助成金」は大変難しい助成金です。過去の記事にも書いてますが、この助成金の申請は、社労士等に委託している比率が非常に高い助成金です。理由はかなり難解な助成金であるからと、一部の問題のある社労士等の稼ぎに使われているから。おそらく今の制度で委託せず自社で申請して無事支給されているのは、人事部の労働者がしっかりしているか、過去からのノウハウが毎年蓄積され、かつバージョンアップされているところでしょうか。

たった2年ぐらいの助成金で会社が人手を割いて準備するかどうか。社労士事務所もそう新規でそんなには対応はできないはず。このコースは事務負担を簡素化してくるようですが、「130万円の壁」自体理解していない人もたくさんいます。理解できなくても対応できるよう簡素化すると不正が横行するのはコロナ禍の雇用調整助成金で証明されているはず。

後、キャリアアップ助成金は「計画届」の提出が必要ですが、この新コースも資料を見る限り「計画届」が必要なようです。また、申請回数も多い様子です。

加えて既存の「短時間労働者労働時間延長コース」と、この新コースの「労働時間延長メニューとの兼ね合い」がどうなるのかもぱっと見ではわかりません。(利用した、申請したことがある会社や社労士だったらわかるかもしれませんが)

日本中の適用事業所すべてに対応するつもりならば、厚生労働省側の労働者ももかなりいるはず。(コロナ禍用の各種助成金で対応していた人を横滑りさせるつもりなのかもしれませんが)果たしてどうなるのか、不透明すぎます。

「130万円の壁」の対応は、単に収入が一時的に増えた月だけなのかよくわからない

130万円の壁は、国民年金保険第3号非保険者から外れる年収130万円のことをいっているようです。というか、健康保険の被扶養者から外れる年収130万円のことをいっているといいった方といってもいいかもしれません。

報道では、年収130万円未満の人が130万円以上になったとしても2年間は扶養者として保険料の支払いを猶予するといった内容だったと思いますが、資料を見ると、どうやら繁忙期などで(どういったケースが具体的に該当するかは不明)一時的に月収が増えた場合に、1年に2回を限度に事業主の証明で”月換算”で年収130万円を超えていないことにする=猶予するという意味のようです。

そもそもこの年収130万円というのは、税金のように確定した年収ではなく、今年の見込み。どう見込むからは保険者次第。実務上、極論すれば、健康保険の保険者の担当者の考え次第のところもあったりします。月額計算で10万8333円(130万円÷12)をひと月でも超えたら、被扶養者から外すというところもあります。そうすると、月10万8千円以上になる勤務は残業やシフトの穴埋めを含めて絶対にしないと労働条件を要求するパート労働者もいます。それを防ぐためのものが事業主の証明。

いや、これ、前からやってたましたよ?わが社のパート労働者の配偶者が務める会社の健康保険の担当者に提出するよう要求されて、謝罪文のようなものを会社の代表者名で出してたましたよ。「会社の都合で想定以上に働かせてしまいました。今後はこのようなことは発生しません。年収は130万円未満に押さまることを確約します。」といった趣旨の誓約書を提出しろ、といってくる保険者の担当者からいわれましたから。

え、どこからって?某公務員共済。公務員のお仲間は既に実施済みですよ、厚生労働省

・・・というのが私の感想です。結局、「130万円の壁」を猶予するのではなく、単に見込みの計算方で”月額”が繁忙期で一時的に増えた時の対応を保険者ごとの判断で決めさせるのを国が基準を示しただけのようですな。そもそも、”見込”なんて基準を決めたのは国。それをさも画期的なことをしたかのようなこといっている。失笑。

では一時的ではなく、例えば10月1日からの最低賃金の引き上げで年収130万円以上になりそうな人はどうなるのか?資料を見ても見つかりませんでした。「業務改善助成金」で対応しろ、という意味でしょうか。あれは「設備投資」しないと成立しなかったと思いますが。

現場はどこが担当窓口なのかよくわからない

前の記事では、助成金だと労働局、猶予だと年金事務所と書きましたが、この資料を見て内容を聞くのはどこか?というとよくわからないのが実情です。管轄が厚生労働省なのはわかりますが、ホームページにある東京の年金局が全国一律で対応するとは思えません。労働局の雇用環境均等室が担当?ハローワーク年金事務所は窓口で対応するのか不明だし、外部に委託するのかも、フリーダイヤルや専用窓口が用意されるのかも不明です。

結論

 

会社では、自称年金に詳しい人があれこれ予想していましたが、聞いてみたところ、自分の年金の話をベースとした、法令上の国民年金の第1号から第3号被保険者の区分を知らない人による井戸端会議レベルでした。この資料の段階では、方針はわかっても、予測はできても、実務に落とし込むことまではできない、というのが政府の人でない、年金制度を理解している人の回答になると私は思います。

ホームページの冒頭に書かれている「各対応策については、本パッケージに基づき、今後、所要の手続を経た上で、関係者と連携し、着実に進めていくこととしています。」のとおりです。所定の手続き(まだ予算措置とか省令作成の準備中?)や関係機関との連携(という名の調整、準備)によっては内容が変わる可能性もあります。

つまり、詳細な続報がでてくるまで様子見でいいと私は思います。ちなみに私なら、現時点の内容ならば、会社としては該当者がでてこないか、メリットがはっきり見えない限りは率先して動かないかな~。勿論、詳細内容次第です。

但し、今の厚生労働大臣がテレビで話していたとおり、厚生労働省の狙いは国民年金の第3号被保険者という区分をなくすことだと思いますので、それを考えれば、現在第3号被保険者の人は、厚生年金ももらえる第2号被保険者にこの政策が実施される2,3年の間になっておく、というのも将来設計として考えるのはアリだと思います。(60歳以上または2,3年以内に60歳になる人を除く)