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年収の壁対応⑥ キャリアアップ助成金の新コース公表と初見の私見

今朝新聞を読んでいたら、20日に「キャリアアップ助成金」の新コース「社会保険適用時処遇改善コース」について発表されたということに気づいた。「所得税減税」のニュースの横にちょろっと載っていた。

ホームページで「キャリアアップ助成金」と検索したら、確かにリーフレットなどが公表されている。後日「年収の壁」で検索したら、さらに「社会保険促進手当」と「キャリアアップ助成金」という複数のQ&AがPDFで表示された。整理できたら、また記事にしたい。

ちなみに現時点での感想を箇条書きで羅列する。尚、「社会保険適用促進手当」と「キャリアアップ助成金」の「社会保険適用時処遇改善」コースはQ&Aもわかれているのでわけることとする。

 

社会保険保険適用促進手当

・「社会保険適用促進手当」については、文字通り「106万円の壁」ができる厚生年金被保険者101人以上の特定適用事業所が対象となりそう。(尚、別に100人以下でも特定適用事業所になることは可能。)その根拠は、Q&Aにあるとおり、100人以下だと厚生年金保険加入のラインは正社員の所定労働時間3/4になる。その場合、賃金が高くなりすぎて対応できないようだ。(少し下の計算方を参照)

・「社会保険適用促進手当」は標準報酬月額104,000円以下の人が対象となる。標準報酬月額104,000円は月額101,000円~107,000円の間の人だから、これより多いと対象外になる。よって、新たに月107,000円×12か月=年1,284,000円の壁が登場する。この標準報酬月額以下の人に対して、標準報酬月額に含まれない「社会保険適用促進手当」が支払われるということだろう。「年収106万円の壁」を超える前で、年収調整している人用の手当といえよう。

 〇社会保険適用促進手当…標準報酬月額 104,000円(月収101,000円以上~107,000円未満)以下の人が対象

 〇時給893円(全国で一番低い最低賃金)×30時間×52週÷12か月=116,090円>107,000円

 〇時給1,113円(全国で一番高い最低賃金)×20時間×52週÷12か月=96,460円<107,000円

・「社会保険適用促進手当」は標準報酬月額計算時には参入されないが、税金や賃金に関する他のルールは、”毎月”支払う場合は全て「賃金」として計算に入れなければならない。つまり給料計算上は普通に入れて計算する形になる。(標準報酬月額は例外はあるが原則1年固定のため)最低賃金には入れられるらしいが、社会保険加入と天秤にかけるとどうだろうか。

・「社会保険適用促進手当」は毎月支払わなくてもよい。その場合は割増賃金の基礎にも入らないようなので、一括で払った方が事務負担は楽かもしれない。但し、毎月手取りが減るだろう労働者が納得するかどうかは別の話。

・「社会保険促進適用手当」は、過去に被保険者となった標準報酬月額104,000円以下の人にも対応可能。但し、過去に社会保険の被保険者になった人は「キャリアアップ助成金」の新コースの対象とならない。また、給料の賃金の一部を「社会保険適用促進手当」に振り分けてよいかは未確認。

キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース

・令和5年9月以前に社会保険に加入した人にはこのコースは対象外。労働者の公平性から「社会保険適用促進手当」は支給できるが、助成金は受け取れないので、会社がどう判断するかというところ。

・手当を増やすが労働時間が増えずに、社会保険にこれから新規加入するというのは、任意特定適用事業所を除けば、特定事業所で月収8,8万円以下だったのをそれ以上の月収にする場合が該当するだろうが、該当するパート労働者はそんなにいないのではと私は思う。(根拠となるデータはないので、推測)

・キャリアアップ助成金の計画届は令和6年1月末まで遡って対応できる。これはあくまで「計画届」が事前に提出されている必要があることから、10月1日適用だったら、計画届未提出で不支給になってしまうことへの対処。よって、手当を支給するかどうかの判断するのに1月末まで時間があるかという意味ではない。年末調整、確定申告はどうなるんだ?ということ。

・「社会保険適用促進手当」は就業規則等に規定する必要がある模様。(Q&Aより)厚生労働省のキャリアアップ助成金の担当は、就業規則等を簡単に改定できると思っているのではないかと疑ってしまう。

・事務負担軽減というが、それほど負担軽減には見えない。賃金台帳に社会保険適用促進手当を明記する必要があるのかまだ未確認。

私が事業主および人事担当者だったら…

・対象となるパート労働者がいる場合は、対象労働者からの質問に対応する、説明する必要はあるので、情報収集と説明のための制度の理解は必要。

・キャリアアップ助成金の新コースの利用については、会社の厚生年金の被保険者数がかなり重要。

1⃣51人以上100人以下の場合…来年10月に備えて特定適用事業所の準備とともに検討する。

2⃣50人以下の場合…「社会保険適用促進手当」が使えない可能性が高い。つまり年収の壁の解消策にならない。任意特定提供事業所になるメリットがあるとは思えないので様子見。

3⃣101人以上の場合…「キャリアアップ助成金」の新コースの対象になるパート労働者は少ない。メリットはないと思う。様子見。

4⃣令和5年10月から被保険者が増えて101人以上になる場合…利用価値はアリだと思う。といってもそんな企業がどれくらいあるのかは不明。

都道府県によって最低賃金が違い、また会社によってパートの割合や人数が全国一律全事業の会社で答えるのは結構困難と思う。

・パートの比率が少なくて新コースを考えるのならば、正社員化をして、キャリアアップ助成金の正社員化コースを狙うのもありだと思う。会社の状況にもよるが社会保険負担をするのならば、あえてパート労働者を会社が雇うメリットは減ると思うし、国がそう仕向けている節も感じられる。

・事業主にも社会保険料の事業主負担があることを忘れてはいけない。手当の両方を合算したうえで判断する。図面では「社会保険適用促進手当」16万円で助成金20万円だから事業主は得をすると思ってはいけない。手当16万円+社会保険料事業主負担16万円*1=32万円であり、事業主によって金銭的には得ではない。労働者との関係によって判断することになるのではないか?

まとめ

この内容ではおそらく事業所やパート労働者の殆どはメリットがないのではないかというのが私の初見の感想。今すぐに利用する場合で会社にとってメリットがあるのは、もともとある「労働時間延長コース」を考えていたところぐらいではないか。

ただし初見の段階では不明点も多い。20日に公表されてからまだ日が浅い。しばらくすると新聞やビジネス雑誌などで専門家がこれを読んで解説してくれると思うので、それを読んでから判断するのがよいと思う。

*1:厳密にはここに児童手当の拠出金が加わるのでもう少し多いが、わかりやすくするために省略する