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「スマホ脳」 ”スマホ”利用の弊害を検証結果に基づき解説した良書

昨日の記事の続きになるが、不愉快な気分にさせるコーナーから離れて、新書のコーナーに行ったところ、目にとまった本が今回の記事で紹介する「スマホ脳」である。

2020年11月に初版発行であり、話題になった時からは乗り遅れたかもしれないが、かなり興味深い本であった。不快なコーナーから離れた結果、この良書に出会うのだから世の中わからない。

さてこの本だが、端的に換言すると、著者であるスウェーデン人の精神科医による「スマホ利用の弊害について解説した」本である。

スマホの利用の弊害というと、日本では昔の2ちゃんねるまとめサイトTwitter(現X)、ヤフーニュース及びそのコメントなどによる「匿名による誹謗中傷」や「対立煽り」「分断」がクローズアップされがちである。

「誹謗中傷」自体問題ではあるが、ネット上での「対立」という話は私は正直興味はない。同じように、トランプ前大統領やネトウヨなどの政治関連、スマホ信者、IT事業の経営者達の世迷言、ユーチューバーの炎上芸、煽りもしかり。

ただ、本屋で中身を確認するとどうやらこの本はそこには主眼を置いていない模様。外国人(米国人ではないのでトランプ前大統領関連でもない)著者による翻訳本であることもあり、購入してみた。

読んだ結果だがこの本には上記のような話はでてこない。人間の脳を中心にしたスマホ利用の悪影響について科学的検証をベースに展開された本であった。

フェイクニュース”、”対立”、という”悪い噂”には、良い話や真実の話より拡散力があることは言及はしているが、むしろ、この本ではスマホ本来の機能性からくる問題点、SNSでもフェイスブックという原則本名の投稿による、ポジティブな自己表現の投稿やそれをチェックすることによる問題点を伝えている。

SNS自体の問題点の主眼は、端的に言うと、スマホ閲覧者による自分との他人との過剰な比較と、他人からの過剰な承認欲求である。SNSは積極的に情報発信し自身をブランド化しようとしている人にとってはメリットがある手段ともいえるが、読むことを中心としている人には、投稿者の完璧なスタイル、秀でたファッションセンス、優雅な日常、素晴らしい実体験の発信を見て自己の現状と比較し、ネガティブになっている。また、人間の脳は絶え間なく新しい情報を収集しようとする欲求があることから、その情報を一はやく得ようとすることを辞められない。また、SNSにはアルゴリズムを使った広告がつきまとい、自分が欲しいものを購入しているのではなく、”購入させられている”ことに気づけていない。

また、メール(ラインのようなものを含む)の着信履歴の確認と素早い返信、新規情報の収集、自分の投稿に”いいね”(のようなもの)が押されたかどうか確認したいがために、スマホが24時間365日手放せない。電話よりたちが悪い。たえずスマホに追いたてられていて、自分の時間を吸い取られており、依存状態、中毒状態である。スマホを利用しているのではなく、スマホに踊らされている。

踊らせているだけならまだよい。ほか、教育や知能の低下にも波及している。少し前に、子どもにスマホタブレットを与えることへの是非が議論になっていたかと思うが、この本も子供の学習への警鐘を鳴らしている。曰く、スマホ利用の調査結果が発表されるようにより、これによりスマホ利用が子供の知識の低下、集中力の低下などあらゆる学習能力の低下を引き起こすことが科学的に確認されているようだ。

さらに、メンタル面での悪影響にも言及している。精神科医(むしろ脳科学者?)の著者らしく、多数の科学的証拠が掲載されている。スマホの利用が増えた時期とメンタル疾患患者の急増は、スマホだけが悪いとは言わないまでも、スマホの利用は確実にメンタルに悪影響をもたらしているのは確実だ。

知識の習得にも悪影響をもたらしている。以前の記事で、”検索”によって得た情報は「知識」ではないし、勉強したことにはならない、という自分の考えを述べたのだが、この本で簡潔に科学的に、スマホにより”知識”が習得できていないという結果が結論づけられていた。わが意を得たりと納得でき満足である。過去の記事をこの本を根拠に変えたい衝動にかられたが、記事を変えるよりこの本を読むことを薦めたほうが良いだろう。

ちなみに、この本はスマホを”捨てろ”とは書いていない。脳、知能、知識、集中力、体力、精神面というありとあらゆる面から悪影響をもたらすスマホ依存に警鐘をならし、”利用方法”と”利用時間”を考え、自らコントロールせよ、と言っているのであって、デジタル反対アナログ賛成という本ではない。昔ながらの電話に戻れといっているわけではない。スマホは正確にはスマートフォンだが、電話については問題視されていない。念のため補足しておく。また、ネタバレになるので避けるが解決策も提示されているので、問題提起のみで終了という本ではない。

最後に。著者のいうようにいつの間にか自分も集中力が低下してきたと認識した。私はそれほどスマホにかじりついていないというか、SNSとかもそれほど利用しないので、スマホのせいなのかどうか実感できないが、短い文章、短い動画ばかり見てどんどん情報を収集しているつもりが、むしろ知識が定着していないのは、老化ではなく、スマホや動画サイトを利用しすぎているせいかもしれないというのは、この本の警鐘から学ぶべきところだと思う。