けーせらーせらー

仕事、メンタル、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

電話について ②

「電話は嫌い。それが私の選んだ本音。」

のっけから本音を書いた。ただそれだけで終わっては話が進まない。電話を受けることが現在進行中の業務を遮断する行為であり、かつ会話のアウトプットを電話の受け手に負担させているため合理的でないという話は以前の記事に書いた。

ついては今度は心のうちを探ってみたい。というのも電話といっても私にとっては受ける側とかける側で心理的負担が違うからだ。

電話を受ける側の場合。

私は今はそれほど嫌いではない。新卒の時は大嫌いだったが今はそれほどではないのだ。なぜだか考えてみると、まずは今の職場での影響だろう。

私が今の会社に入社した時は、新型コロナウイルスが日本で最初に拡大した頃で、最初の緊急事態宣言が発出された頃だった。正直、現場はパニック状態であった。電話の回線はほぼパンク。繋がらない電話に対し、相手の怒号を受ける毎日であった。一回の電話の時間は長時間に上った。「調べてかけ直す」というと相手は激怒した。電話がつながらない、そして今まさにパニック状態になっている相手にとって時間をとる余裕がないからだ。

元来私は話がうまい方ではない。活舌も悪い。入社したてで知識もない。ただしそんな現場だからこそ、人手がほしくてコロナ禍での求人があったようだ。電話を受けるのが労働時間の大半になるとは一切面接時に説明はなかった。それが入社して3日目には電話対応に駆り出されて、最初のパニックが収まるまでは電話対応にかかりっきりになった。マスクをしながら話すので呼吸困難に陥りそうになった。

普通ならば、そこでもう二度と電話はとりたくない、と思うようになり拒否感を覚えるはずだ。現に数日で退職した人もいる。精神的に参るはずだ。

しかし、このパニック状態での対応で、逆に私は電話を受けることへの苦手意識は殆どなくなっていた。それはなぜか?

1つは経験。数をこなすことで、相手の電話のパターンを覚える。どんな返し方がよいか覚える。失敗することで、なにが良いか理解度が深まる。多分紙で覚えるより失敗することで覚えたことは記憶の定着がよい。どこまで回答に正確性を求められるか、そのラインがなんとなくわかる。

2つは上司の態度。これは会社にもよるだろうが、相手が激怒し、上に代われとか、警察沙汰になるような脅迫を含めた内容を言ってきた時の上司の対応である。上司がこちらにミスがあれば責任者として上席者として謝罪し、必要に応じて上席者として対応してくれ、不当な要求があれば毅然とした対応をとってくれる上司だった。その場合、電話の受け手としての安心感が違う。上司に電話を取らすなと責任逃れをしたり、対応から逃げたり、ちょっとした脅しにすぐ屈して手のひらをかえすような上司だと、下の者は回答に窮する。ただその職場はそうではなかった。勿論、私の真摯な電話対応があってこそ(自画自賛、ではなくて電話を避けたり責任から逃れようとしていないという意味)だと思うが、上司がしっかりしているとある程度安心して対応できる。

上記の結果、現職場では電話対応はそれほど苦手意識はない。

要するに、精神的にいえば、経験を積むことと、失敗してもなんとかなると思えることが重要ということだ。これは電話の話にとどまらない。

電話をかける側の場合。

逆に電話をかけることがかなり苦手になった。例えば電話をすることが翌日になってしまった場合、翌日の朝は電話のことで恐怖で目が覚めるようになった。それぐらい電話をかけることが苦手になった。

理由を分析した結果、次のとおりとなった。

1つは罪悪感。上記のとおりコロナ禍では誰もが苦しんでいる。その中で電話をかけること、しかも相手の手を煩わせること、相手にとっていやな知らせをすることに罪悪感を覚えた。この会社では電話する案件は相手にとっていい話でないことが多い。

2つは不合理。そもそも上記のような状態では電話ではなく、メールや手紙で対応したいところである。相手の都合を考えればそれが良いと思っている。ただ現職場はメールが使えないのである。理由は個人情報漏洩とメールによるウイルス感染。どうやら、メールにより痛い目にあったらしい。そのせいで電話しか対応できなかったのである。電話をして申し訳ない、と思いつつかけていた。さらに電話では説明しづらい用紙を見ての話が多かったが、相手はその用紙を見ているかどうか確認できない。思い出せない。メールであれば相手も確認できるだろうが、それができない。電話での対応がやっぱり許せない。

3つは不確実性。相手の出方がわからない。相手がどんな人か予想できない。状況もわからない。どう返してくるかもわからない。頭で想定すればするほど、悪い方悪い方へと思考がすすんでいく。悪い予感がすればするほど、不安が募り恐怖が増していく。

4つ目は予期不安が可能なこと。

電話を受けるときはアポでない限り基本不可能。よって事前に思考できない。かけるときは自分の意志でかけるので予測可能。よって事前に思考する。事前に思考できることで悪い予想をする。つまり予期不安が発生する。

書くことで結論がでた。

電話を受ける時は、パニックや問題が解消され相手に感謝される可能性もあったが、電話をかける時は今は相手に嫌われる可能性が高く感謝される可能性が低いのである。要するに、相手に嫌われるかどうか、それを思考できるかどうかの違いなのである。

そしてわかった。実業家は自分の邪魔をされることを嫌うから電話を嫌う。私や新入社員は相手、他人から嫌われることを嫌い、それを予想するから電話を嫌うのである。考えの中心が違う。

気にすべきは、自分のやりたいことか、それとも、他人に嫌われるかどうかか。これは電話に限ったことではないだろう。そしてそれはビジネスにおける成功者かどうかの違いにも通じるかもしれない。