けーせらーせらー

仕事、メンタル、労働法、転職、書評に関するエトセトラ

老人搾取と制度の問題:若者と社会保険料の負担

さて、テレビやインターネットで偉そうな態度で以下のようなことを話す人間がいないだろうか?

「今の若者は社会保険料負担と税金で老人たちに大量に搾取されている。若者はそこに気づいていない。」

断っておくが将来の話ではない。今現時点の話で、年配者が偉そうに上記のような発言をしていたら、その発言者の真意を疑ったほうがいい。

まず社会保険料の負担、税金の負担が重いのは間違っていない。

社会保険料雇用保険料として、ざっくりいうと健康保険約5%*1厚生生年金約9%、雇用保険料約0.6%、税金は市民県民税10%、所得税5%以上とあわせると計約30%あるのだから、負担率が高いこと自体は間違ってはいない。

ただし、この率になったのは大体2000年代である。つまり今の20代という若者だけではなく、今の30代、40代前半が20代だった頃も差はあれどある程度似たような率の天引きはされている。厚生年金保険料は年々上がっていったが、平成29年から現在と同じ率で今の法令上はこれ以上はあがらない。別に今の若者に限ったわけではなく、今の中年も若者の頃から負担は重かったのだ。

40代後半の人間が新入社員だった頃は厚生年金保険料が毎年上がり、賞与からも天引きが開始され、健康保険料の自己負担率も3割にあがり、住民税と所得税の比率が代わり、累進課税所得税の一部が10%固定の住民税に置き換わったので、低所得であっても手取りは減らされている。雇用保険料は今よりも高かった。その結果、会社によっては毎年の定期昇給額よりも天引き額の方が多くなっていき、つまり手取り額が毎年減っていくというギャグのようなことが行われていたのだ。

この時の現役世代が搾取されて反発しなかったわけではない。2009年に政権交代が起きた。今から15年前である。当時の若者の有権者、つまり今の30代後半が何もしなかったわけではない。選挙と言う民主主義の手続きを経て当時の野党である民主党の公約に期待した。しかし、公約はほとんど実現しなかった。派遣社員はなくならなかった。賃金は上がらなかった。雇用は増えなかった。少子化対策としての子ども手当は児童手当と扶養控除が変化したものでしかなかった。そしてなにより国の財政に埋蔵金が見つからなかったので、財政の問題、つまり税や社会保険料の高負担は解消されなかった。解消されないどころか、国民に降りかかったのは、消費税というさらなる”増税”であった。

ではなぜ今更このように社会保険料について”今の”若者が我慢を強いられているといっているのか?20代の人間がいうならばいざ知らず、上記の事実を年配か、ある程度当時の社会情勢を知っている人間が言っている場合は、その意図を疑った方がいい。

ましてや岸田首相が”すべて”悪いといっている場合は要注意だ。言っておくが岸田首相や今の自民党の肩を持つわけではないし、この問題を解決できていないこと、さらにそこに負担をさらに上乗せすしようとするような姿勢は解せないし、取ってつけたような減税など正直どうかとおもっている。ただ、現時点の社会保険料負担については、岸田首相だけでなくこの20年間誰も解決策が見いだせていないと思った方がいい。

こういう発言をする人は、私の根拠のない推測だが、前々首相のお仲間で同じ政治思想を持つ人間の発言か、またはデフレが解消すればすべて解決するといっていた人間が最近の物価高になってかえって国民の生活が苦しくなった事実から目をそらすためにいっているかもしれない。

ここからは私の別の私見。この問題は第2次ベビーブームという人数の多い世代とその後の世代を所謂氷河期世代にしてしまったせいだと思っている。派遣社員が増加し、この世代から安定した職を奪い、高い社会保険料負担をぶつけた結果、少子化を加速させてしまった。失策のツケが続いているといった方がいい。1人あたりの収入も人負担する人数も増えないのでいくら負担比率をあげても国全体の負担”額”が増えない。

しかし、その失策を指示したのは誰かと言うと老人だけではない。小泉政権の”劇場型政治”と”シングルイシュー”に国民が踊らされ投票したツケだ。その政権が非正規雇用を増やし、高い負担を国民に課したが、国民はそれを指示した。そしてそれに対抗できる具体策を提示できなかった野党の責任でもある。

それに約30年前は、狭い日本に今の人口は多すぎる、と言われていたぐらいで、少子化はむしろ人口増加に歯止めをかけられるという考えもあって、今ほど完全な悪という扱いではなかった。(人口のピラミッドの形が悪くなることは言われていたが)

勿論今、社会保険料の負担が重すぎるという事実は間違い用のない事実だし、解決すべきことである。だが、その発言をテレビやインターネットでする人間の真意が何かは考えたほうがいい。リフレなどの日銀の政策や安倍政権での経済対策でも問題は解決できなかった。今は「新しい資本主義」とかいっているが、具体的な内容は見えない。税金を増やすぐらいしか対応策がなく、非正規は訓練が足りないとか個人の責任に転嫁しようとしている。税金を増やせばその財源で少子化を解決できるというのは無理だし、むしろ少子化に拍車をかけるだけだろう。

話を戻す。様子に何が言いたいかというと、現時点での若者の社会保険料負担の問題を今の総理大臣1人がすべて悪いような言い方をしている人間は、若者相手にマウントをとりたいのか、若者から支持を得たいのか、単に総理大臣の悪口をいい交代させたいのか、前の民主党のように実現不可能な夢みたいなことをいっているのか、それとも別の意図があるのか…。”劇場型政治”に再び踊らされないように、煽動が上手いだけの人間に熱狂するのではなく、その発言者が考える解決策というのをまずは聞いた方がいい。

また話が反れてしまうが、増税について。私はふるさと納税を本来の趣旨である自分の”ふるさと”といえる自治体に納税していない人間、特に返礼品目当ての人間は増税については文句をいうな、思っている。あのふざけた制度のせいで、余分な税金が仲介業者等に流れていて、国全体の税収は減っている。その減った分を誰が負担するのか。その解決策は増税しかないだろう。つまり増税して仲介業者に還元している。そんなアホな政策に加担する人間には増税について語る資格はないと私は思う。

*1:40代以上は介護保険料がこれに上乗せされているし、厳密には保険者や都道府県などによって異なる