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退職時の未消化分の年次有給休暇の買取 私見

今日は退職時の未消化分の有給休暇(法定分)*1を買い取ってくれるかどうかの私見

今から3年前、かつて在籍した会社の同僚だった人から「退職時に有給休暇を買い取ってほしいと願い出たが、会社が買い取ってくれない。どうにからならないものなのか」という質問があった。

私は、「有給休暇の買取は禁止されているので、企業がダメといったらダメだろう。」という回答をした。

この回答の根拠にしたのは、私が以前いた企業の時の話。その企業では有給休暇の未消化分で時効消滅する日数などは買い取ってくれていたが、ある時を境に法律で禁止されていることを根拠に今後は買取を一切行わないということになったことを思い出したからだ。

ところが、最近インターネットで下記の意見を聞いた。
「有給休暇は買取禁止。ただし、退職時の未消化分は買い取ってもらえるよ!」

さて、退職時の未消化分の法定分の有給休暇の買取は法律上アリかナシか。

まず前提として法令、判例があればそれをもとに判断するのが一番である。

ただ現時点では調べてもぴったり当てはまる法令や判例は私は見つけられなかった。労働基準法39条だけではわからない。よって正しいか誤っているかという法的な判断が私にはつかない。

そこで、今度は厚生労働省、労働局関連のホームページで探してみることとする。すると、東京労働局、長野労働局のホームページで「有給休暇の相談」ページが見つかった。そこには次のように書いてある。以下抜粋する。

東京労働局

もともとの年休の目的は、日ごろの業務からはなれて休むことですから、買い上げる代わりに休めなくなってしまっては、意味がありません。したがって、原則として年休を買い上げることはできません。

長野労働局

退職の際、残日数に応じて調整的に金銭の給付をすることは、必ずしも労働基準法に違反するものではありません。その一方で、時効や退職に伴い、消滅する年次有給休暇について事業主が買い上げを行うことは、労働基準法では義務付けられていません。

質問を載せずにその回答だけ載せるのは正しい行為ではないが、この回答が私としては参考になると思ったので掲載した次第。私なりに勝手にまとめると以下の3点となる。

「有給休暇の買取は原則不可」

「消滅する有給休暇の買取は事業主に法的に義務付けられていない」

「事業主が、有給休暇の残日数に応じて、労働者に対して調整的に金銭を給付しても労働基準法違反ではない。」

最後の3つ目は”有給の買取”とは言っていないが、退職時の残りの有給の日数に応じたような”金銭”を支払ったとしても違法ではない、といっているようである。そりゃそうだ、事業主が何らかの理由で給料を契約した額を超えて多く支払うことは違法ではないのだから、その超えた部分未消化分の額と同額になっても違法ではないだろう。

よって法的にアリかナシかというと、アリかナシかの明確な答えは見つからないが、見つからないということは、現実的には事業主と合意(義務づけられていない⇒ダメとはいっていない)できれば、退職時の未消化分に応じた”金銭”をもらうことは可能だと思われる。

尚、私が事業主だったら買取はしない。有給休暇を全部消化させた後の日を退職日とする。

そもそも買取してほしいという場合は、相当の有給休暇日数が残っているはずで1日とか数日ならそう問題にはならないはず。それを買取すれば、最後の給料が多額になるだろうし、他にも波及する可能性もある(雇用保険とか社会保険とか税金とか)。

退職する人という今後自社になんら貢献しない人に対して、法的リスク(法律上有給休暇の買取は禁止されている)に晒されたり、どうすべきか調べる時間をかける必要はない。よって、法的に義務ではない以上は買取しない。

社会保険料に波及すると上記で書いたが、有給消化分により退職日が月末日跨ぎになったら余計な事業主負担がかかることから会社の費用を減らすため*2買取をするという考えもあるかと思うが、最大2か月程度の社会保険料分という金額と、法的リスク、他の職員も一律に買取せざるをえないことになること、少し前に辞めた人間がその情報を聞きつけて買取を請求する可能性があること、買取の証拠をどうするかなどと天秤に書ければ、私なら買取による社会保険料の事業主負担分の金銭負担の減少よりも複数の面倒なトラブルを避ける。

尚、有給休暇は本人が良ければ全部消化してもらうし、引継ぎを理由にした消化の妨げをすることもしない。

ただし、この退職希望の労働者と一刻も早く縁を切りたいなどの個別の事情がある場合は別。私の過去の経験では、会社への恨みから、40日の有給消化日に何度も会社に入ってきて業務に悪影響を与えたり、後継者を退職に追い込もうとした人間がいたので、”そういう輩”ならば、事業主として買取を選択するのはアリだと思う。

以上が私見。正しいと言うつもりはなく、自社にとっての最善な方法をとればいいと思う。但し、退職”日”を双方で決めて退職届なりに退職”日”を書面で明確にしておくことは絶対にお勧めする。引継ぎとかで退職日が引き延ばしになるなどのトラブル防止のために必要かと思う。

ただもともとの話は3年以上前の話。有給休暇取得の法的義務が始まってからもう何年もっている。買取云々を懸念するなら、自社にとって良い計画有給とかを定めて、退職する前の労働者に休日を取りやすい環境を与え、かつ有給の未消化分が溜まりすぎないようにするほうがよっぽど建設的だし生産的である。

ただ「退職時は買い取ってもらえるよ!」と買取がさも労働者の当然の権利、事業主の当然の義務と誤解されるような表現は、無用な労務トラブルを招きかねないし、そのトラブルに巻き込まれかねないので、私は言わない。

またすべての事業主に対し「買取すべき」「制度化すべき」と言う気は私はない。「買い取ることもできるし、買取することは事業主にとっては選択肢の一つである」というのが、ベターな回答であろう。尚、就業規則に買取はしないとあえて明記している会社もあるというのも事実であり、買取をすることでトラブルが減った場合もあるし、トラブルが増えた場合もあるというのが現実だと思う。

ということで、最初に戻るが、同僚への私の回答は間違っていないと自分なりに納得できたため、この話はお開き。

*1:会社が法律とは別、または法律の日数を超えて与えている有給の休暇は、法律に基づかないのでどうしようが会社の自由

*2:あくまで有給休暇を通常に使用していればその分社会保険料の事業主負担も発生するので費用増ではなく費用減という考えになる