労働基準法の私見。第1回目は「振替休日」と「代休」の違いについて。尚、本に明確に書いてないことについての自分なりの解釈なので、以下の内容について正しいか保証できないので予めご了承いただきたい。
はじめに(法令、言葉の定義)
勉強して整理しようと思いとりあえず「労働基準法」を読めばその答えはわかるはずだと思った。だが調べていくうちに「振替休日」も「代休」も労働基準法や施行規則にはその規定がないことをに気づいてしまった。どこにその根拠があるのか?「振替休日」と「代休」は労働基準法にその用語の定義の規定がない。行政通達の内容が一般化したものである。
特定された休日を振り替えるためには、就業規則において振り替えることができる旨の規定を設け、休日を振り替える前にあらかじめ振り替えるべき日を特定しておかなければならない。また、あらかじめ振り替えるべき日を特定することなく休日に労働を行った後にその代償としてその後の特定の労働日の労働義務を免除するいわゆる代休の場合はこれに当たらない(S23.4.19基収1397、S63.3.14基発150)。
※補足「基発」=「労働基準局長名通達」、つまり「厚生労働省労働基準局長」が下位組織である「都道府県労働局労働基準局長」あてへの通達であり、「基収」=「労働基準局長が疑義に答えて発する通達」。つまり行政の上位機関が下位機関に対し、法令の解釈や取り扱いについて通達したもの。
「振替」と「代休」のどちらに該当するかは、休日出勤して代わりに労働日に休日をとることを事前に知らせて(されて)いるかどうか。具体的には「次の日曜日に出勤してね、代わりに翌日の月曜日休みにするから」といわれたら「振替休日」で、「事後つまり急に日曜日に休日出勤をして、そのあと、じゃあ明日休んでいいよ」となったら「代休」である。
ザックリいえば、休日の変更を事前に知らせていれば「振替休日」、事後の場合は「代休」。
割増賃金への影響もある。代わりに働いた分の休日の日の賃金に休日労働の割増分が加わるかどうかである。同じ週に休みを与えた場合の「振替休日」はその割増分がでず、「代休」は割増分がでる。一方で「振替休日」が週を跨いでしまい、ある1週が週40時間制で40時間を超えた場合は割増賃金が必要となってしまう。(変形労働時間制の場合は最後のQ&Aを参照)通達を読む限り、割増賃金あり=代休、割増賃金なし=振替休日とは一概には言えないと私は思う。
そもそも「休日」とはどう定義されているか?
そもそも「休日」とは労働基準法どう定義されているか?この「休日」が何かをはっきりしないと話が始まらない。これは労働基準法に規定がある。
労働基準法35条1項「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」
つまり「休日」は週1日(4週4休でも可能)与えられる日であって、日曜日とか特定の曜日に与えなさい、とは規定していない。極論すれば毎週1回のいづれかに法35条1項の要件は満たす。
ただし、昭和23年5月5日基発にはこう書いてある。
「労働基準法では休日を日曜日、月曜日のように特定すべきことを要求していない。但し、労働者保護の観点から休日を特定することが望ましい」
これをみるとどうだろうか?別に特定の日になることが要件でないのだから、事前に休みの日を変えるのなら法令違反にならない、と解釈できるので「振替休日」は割増賃金がいらない、と解釈できないだろうか?事前に休みの曜日を変えたとしても「休日」の日が変わるだけであるので、「休日」に労働したことにはならない、と言える。
尚、上記については法定労働時間である週40時間労働は別個の問題として記載していない。週40時間超働かせたら、その分割増賃金は当然必要であることはいうまでもない。
またこの労働基準法により、例え週休2日制であっても、その1日は「休日」ではない。あくまで週40時間労働に収めるための日である。よって、週2日「休み」があって、その2日働いたとしても、1.35倍の割増賃金となる「休日」は週1日分で、もう1日は法定外労働の1.25倍になるか、もしくは1日の労働時間が8時間未満の場合は週40時間以内分までは割増がつかない。これを法解釈では「法定休日」と「法定外休日」とわけて読んでおり、割増率も変わってくる。尚、変形労働時間制を考えるとさらにややこしくなるのでこのあたりで終了。
振替休日の要件について
振替休日はこれらの通達により以下の3つの要件が必須となる。
また、以下の通達もある。
・振り替えた日はできる限り近接した日が望ましい
これについては「望ましい」のであって、何日以内が近接しているかという具体的に規定されてはいない。よって例えば1週間以内でなくても「振替休日」の要件を満たさないとはいえない。また「近接」なので「振替日」が「休日」の前か後ろどちらでもよい、とも解釈できよう。
尚、法定労働時間が1週間40時間の場合は振替休日をしても週40時間労働を超える場合は「振替休日」であっても割増賃金の必要がある。だから振り替えた日が週を跨いだ結果、1週間の労働時間が40時間超になれば割増賃金が必要になる。尚1週間というのは、就業規則に定めがない限りは日曜日から始まるので*1この場合は日曜日の代わりに前週の金曜日に休みを与えても割増賃金は必要になろう。
代休の規定について
さて問題は「代休」である。上記に書いた通り、この場合は「振替休日」に該当しない、休日労働日の代わりに休んだ場合のことをいう。この「代休」は上記のとおり通達もなにもない。よって、「代休」を与えようがが与えまいが割増賃金は必要だし、休日労働をさせた事実は変わらないし、休日労働時間数にカウントされることになるだろう。
問題は割増賃金をいくら払うかである。これがなかなかややこしそうだ。大抵は「代休」を与えたので35%払えばいい、という解釈をしているところも多かろう。ただし調べてみると
- 「休み」だとしても会社が強引に休ませたに過ぎず、休日労働分は135%払うべきだ、という説
- 休みは休みだが会社が休ませた以上「休業」になるのだから「平均賃金」は払うべきだ、という説
- 休んだ日はノーワークノーペイの原則で100%減額し、135%と相殺して35%分支払うんだ、という説
- 就業規則に「代休」に関する規定を設けていた場合は35%支払うということでもよい説
があるらしい。ここに法定外休日の25%説も加わる。ややこしい。
たしかに本を読むと「代休は割増賃金が必要です」と書いてあるが、その割合がどれが正しいかは規定も通達もない以上私にはわからないが、就業規則に定めておくことがトラブルにならず無難だろう。
その他の疑問
Q 「振替休日」のことを「代休」と社内で読んでいても「振替休日」扱いになるか?
A 「振替休日」扱いになるだろう。割増賃金が不要な休日変更については「振替休日」と呼ばれているが、「振替休日」という名称を使うよう法律上定義されてないからである。よって「振替休日」の要件に該当すれば対応が可能と推測される。
Q 時間外労働規制における時間外労働時間から「振替休日」「代休」は相殺できるか?
A 「振替休日」であって1日8時間1週間あたり40時間以内という法定労働時間に収まれば時間外労働に当てはまらないので事実上相殺できるだろうが、「代休」の場合はその対象外となると想定される。
Q 1年変形、1か月変形の場合の「振替休日」は認めらえるか?
まず原則としては認められないようだ。1年変形、1か月変形も予め労働日、労働時間、休日を定め周知させることで成立する。その労働日や休日を「振替休日」として頻繁に変更してしまうのは、変形労働時間制の意味がなくなる。
つまり、「振替休日」というより「1年、1か月変形労働時間制」として認められなくなる可能性がある。変形労働時間制を否定されると、割増賃金が多数発生する場合もあるので、「振替休日」はできれば避けたほうがよいと私は思う。(割増賃金を払った方がよかろう。)。
これについても調べてみたら、1か月変形では「判例」で、1年変形は「労働局のQ&A」で、行業務の閑散期・繁忙期を理由にする場合を除き、以下の場合は「振替休日」が認められることを確認できた。
- 1か月単位変形労働時間制…「労働者が予期できる範囲内の場合」
- 1年変形労働時間制…「労働日の特定時に予期しない出来事が生じ、やむをえない場合」
Q10. 1年単位の変形労働時間制でも休日の振替を行うことはできますか?
A10.
通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用できません。労働日の特定時に予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行う場合には、
1. 就業規則で休日の振替がある旨規定を設け、あらかじめ休日を振り替えるべき日を特定して振り替えること 2. 対象期間(特定期間を除く)において、連続労働日数が6日以内となること 3. 特定期間においては、1週間に1日の休日が確保できる範囲内にあること が必要です。
また、例えば、同一週内で休日をあらかじめ8時間を超えて労働を行わせることとして特定していた日と振り替えた場合については、当初の休日は労働日として特定されていなかったものであり、労働基準法第32条の4第1項に照らし、当該日に8時間を超える労働を行わせることとなった場合には、その超える時間については時間外労働とすることが必要です。
※大阪労働局のホームページより引用
変形労働制における各労働日の労働時間について一切動かすことはできない、とまでは法律上定めていないが、労働者保護の観点と変形労働制設立の趣旨から見て、使用者がいつでも自由に変更することまで認めていないということだろう。
Q 「36協定」の休日労働時間規制と「代休」「振替休日」との関係は?休日労働した分代休を与えたならば労働時間カウントから除外できるか?
A これは今のところ該当根拠となる条文や通達などを見つけていないが、割増賃金を支払った部分の労働時間は36協定が必要となるという根拠から、割増賃金が発生する休日労働時間は「働き方改革」における新36協定の労働時間規制のカウントに含める必要があるだろう。つまり、代わりに休みを与えても休日(時間外)労働時間を相殺することはできない。ただし「振替休日」の場合で、かつ割増賃金が発生しない休日労働は、休日労働が発生しないという解釈になるかと思うのでその労働時間は36協定の休日労働時間規制のカウントの対象外、になるかと思われる。
ザックリいえば、割増賃金が発生した労働時間は、36協定で規制された労働時間にカウントする。
「働き方改革」における労働時間規制についてはそれだけで記事ができそうなぐらいややこしいので、詳細は別途労基署などで確認されたい。