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雇用開発関係助成金の私見⑱ 人材開発支援助成金⑧ 定額制訓練

最近、「人材開発支援助成金」の「人への投資促進コース」の「定額制訓練」の人気があると聞いた。事業展開等リスキリングコースの方の定額制による訓練のほうか思ったが、どうやら「人への投資促進コース」の方の「定額制訓練」だそうである。訓練機関によるサービスが充実してきたのかもしれない。ということで、過去に「人への投資促進コース」についてまとめたが、その記事を書いたときにはなかった「事業主向けQ&A」がホームページにあがっていたのを確認。わからなかったことも判明したので、改めて「定額制訓練」だけピックアップしてまた記事にみてみることにする。

尚、今回の記事は令和5年度版の、「人への投資促進コース」の定額制訓練である。令和4年度のものでもないし、令和6年4月1日以降のものではないし、「事業展開等リスキリングコースのなかの定額制の訓練の記事でもない。ご注意願いたい。

 

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定額制訓練の定義について

定義を理解しないことには始まらない。ガイドブック12ページにこう定義されている。「1訓練当たりの対象経費が明確でなく、同額で複数の訓練を受けられるeラーニング及び同時双方向型の通信訓練で実施されるサービスのことをいいます。」

つまり、1訓練あたり〇円という定義ではないこと、Eラーニングまたは同時双方向型の通信訓練(具体例:ZOOM)でないといけない。単なる動画を見るだけではだめ。Eラーニングの定義として、LMS等、つまり進捗状況がわかる必要がある。尚、Eラーニング、同時双方向ともにインターネットを介さないといけない。よって、紙でのやりとりや通学は対象外である。

訓練の要件

OffーJTであり、事業外訓練のみ。事業内訓練は対象外である。ガイドブックに以下の要件が掲載されている。

また広く国民の職業に必要な知識および技能の習得を図ることを目的としたものであることが必要であり、特定の事業主に対して提供することを目的として設立される施設によるサービスは除きます(例えば、インターネット上で、広く国民にサービスを提供していない施設によるサービスは、支給対象外になることがあります。)

これは、ざっくりいうと①知識、技能の習得が必要であること、②サービスを国民皆が受講可能であること、つまり、グループ会社の労働者だけとか対象者を限定していたらダメということである。

ガイドブックと提出書類について

「定額制訓練」の紹介自体、ホームページにあるガイドブックでは12~15ページまでのわずか4ページである。ただこのガイドブックを読めばわかるが、「人への投資促進コース」のガイドブックの他のページに書いてあることを読まないと間違える可能性がある。上の「人への投資促進コース」は他のコース以上にいろんなページに情報が飛んでいて非常に読みづらい。令和6年度版は修正してもらいたいものである。

尚、提出書類については33ページから40ページだけ見て完結しないのがふざけている箇所。「定額制訓練」限定のものとして13ページにも書いてある。33ページから40ページだけ見てハローワークや労働局に提出したら、書類が不足していると言われるだろう。

助成金額について

賃金助成

「定額制訓練」については、賃金助成はない。事業展開等リスキリングコースの方の訓練で定額制の訓練を受ける場合も賃金助成はない。

経費助成

「定額制訓練」の場合の経費助成は、中小企業60%、大企業45%である。(賃金要件による加算を除く)事業展開等リスキリングコースの方のは、中小企業75%、大企業60%であり違いがある。

経費助成の上限

定額制サービスについては1人当たりの上限金額がない。これが他のコースと違うところであり、これが人気の理由なのかもしれない。理論上、かなりの高額でも助成金上は問題がない。(安価なコースを利用できるのに敢えて高額な料金設定を選んだ場合などは除く)尚、1人あたりの上限金額はなくとも、事業所あたりの上限金額はあり、1年度あたり2500万円である。ちなみに「事業展開等リスキリングコース」の定額制の場合も同様に上限はないが、こちらの事業所の上限は1年度あたり1億円である。

対象外となる訓練

対象外となる訓練とは28ページと22ページに記入がある。なぜか知らないが「共通スキル要件」は、22ページの言葉の定義のページに書いてある。28ページにまとめてくれたらいいのにと思う。

「共通スキル要件」は他のコースと若干異なるが定額制訓練。具体的には「職業または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの(例:接遇・マナー講習等社会人としての基礎的なスキルを習得するための講習 等)と定義されているが、「定額制訓練」は他と違い多少緩和されいて、デジタル、DX化け、カーボンニュートラルに関する訓練、さらに、新入社員用、管理職用、などの階層別の区分けがされている場合は対象となるようである。

「定額制訓練」で気を付けたいのが、ガイドブック28ページの「趣味教養に該当する訓練である。「趣味教養」は英会話教室や日常会話などが該当する。定額制訓練のうちおおよそ5割以上が「趣味教養」の訓練だった場合は、すべて助成対象外となってしまう。(趣味教養だけ料金から分離できる場合は除いた部分は対象となりうる。)この要件の確認のためには定額制サービスの提供内容が場合によっては全てわかるようにしないといけないのかもしれない。

共通28ページにある対象外訓練も厳密には対象にならないが、ガイドブック15ページだけを見ると「共通スキル」「趣味教養」以外の訓練は対象にならないようにも読みとれる。このガイドブックは非常に読みづらくてよくわからない…。

わからないときは支給要領を見てみるのが一番。よって該当箇所を張り付けてみる。

06013 支給対象訓練

次のイからへまでのいずれにも該当する教育訓練であること。

イ 「職業訓練実施計画届」(様式第1-1号)に基づき行われる教育訓練であること。

ロ 各支給対象労働者の受講時間数の合計の時間数が、支給申請時において 10 時間以上であること。

なお、ここでいう受講時間数については、実際の教育訓練の視聴等の時間ではなく、標準学習時間(当該訓練を習得するために通常必要な時間として、あらかじめ受講案内等によって定められているものをいう。)により判断するものであること。

OFF-JT であること。

助成金の支給を受けようとする事業主以外の事業主又は事業主団体の設置する施設に委託して行う事業外訓練であること。

ただし、定額制サービスによる教育訓練を行う施設は、当該施設が提供する教育訓練の講座が広く国民の職業に必要な知識及び技能の習得を図ることを目的としたものであることが必要であり、特定の事業主に対して提供することを目的として設立される施設は除く。

職務関連教育訓練であること。

定額制サービスの中で受講が可能な教育訓練の中に支給対象外訓練*1が含まれている場合であっても、支給対象者の職務関連教育訓練の受講時間数の合計の時間数がロの要件を満たす限り、支給対象訓練に該当する。

ただし、定額制サービスに含まれる教育訓練の内容が、専ら支給対象外訓練である場合には、当該定額制サービスを利用した理由が明確でない限り、支給対象とならない

ヘ 「職業訓練実施計画届」(様式第1-1号)の内容と定額制サービスの契約内容に整合性がとれていること*2

ざっくりまとめると…。

①趣味教養を身に着けることを目的とする訓練内容だった場合は対象外
②支給対象外の訓練が混じっていても、標準学習期間10時間以上をクリアしている場合は対象となりえること。ただし、専ら支給対象外の訓練の場合で、当該訓練を利用した理由が明確でない限りは対象外。

②が本当によくわからない。対象となる訓練が標準学習期間10時間以上だった場合は、趣味教養の訓練が5割以上でなければ、または理由の説明ができない支給対象外訓練が専ら出なければOKと読み取れる。

専ら”とは…?この規定は本当にどうなんだろう。解釈の余地がありすぎる。令和6年度に具体的に明確にしてもらいたいものである。

尚、06015の対象外となる訓練の大半は別記事で紹介しているので、そちらでご確認いただきたい。

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提出期限

「定額制訓練」については、「事業展開等リスキリングコース」同様、提出期限が他の期限よりも緩和されている。他の訓練は訓練開始日から1か月前に計画届をだし、総訓練時間終了後2か月以内に支給申請書を出す必要がある。「定額制訓練」もその期限で出してもなんら問題がないが、一部緩和、融通がされている。

計画届

ガイドブックの14ページのQ2(A2)に書いてある通り、契約期間が既にスタートしていても対応が可能である。1か月前に出せなくて受付不可にはならない。ただし、みなしの初日というのが設定されていて、計画届提出の1か月後を初日とみなすことで受付可能になっている。当然、原則の1か月前に提出した会社との公平性から、計画届提出日と初日の間に1か月間は空けられている、と考えてよいと思う。尚、「定額制訓練」の場合の訓練の初日は「契約期間」の初日である。実際ログインできる日でもなければ、ログインして訓練を開始する予定の日でも、訓練を実際に開始した日でもない。

計画変更届

他の訓練の場合、受講者数が減少した場合は変更届がいらない場合が多い。途中で退職し、訓練から外れた受講者などを計画変更届として報告する必要はないだが「定額制訓練」の場合は、受講者数が減少した場合も、受講予定者が変わった場合も提出が必要となる。

支給申請

「定額制訓練」の最大の特徴は、契約期間中でも標準学習時間10時間(この計算方はガイドブックで書いてある通りややこしい)を経て、既に料金を支払っているのならば支給申請できるのが特徴である。

ただこの10時間というのが曲者。ガイドブックに書いてある通り、1人あたり1時間以上で10時間を超えていればいけるが、対象とならない訓練や、所定労働時間外に受けた時間分はこの10時間に含まれない。また、助成金を受け取った後に、受講してから解約して返金した場合も注意が必要。当然返金されたらおおもとの経費総額が変わってくるので、当然助成金も返金対象となりそう。それを報告しなかった場合は、”不正受給”扱いにする、とまで書いてある。単なる回収ではなく、”不正”扱いになる。私個人としては10時間たったからといってすぐに申請するのはリスクがあると考える。

提出書類

「定額制訓練」が変わっているのは提出書類も少ないところ。出勤簿、賃金台帳、雇用契約書の添付がいらないのである。(管轄労働局に提出を求められた時を除く。)ただ、だからといってログインログアウトの時間が労働時間外ばかりだったら、受講していた場合は助成対象外になりうると思う。

提出する単位は雇用保険適用事業所ごとではない。

提出するのは主たる適用事業所がまとめて提出する。この”主たる”の定義が独特で、”当該定額制サービスを利用する被保険者が最も多い事業所”である。本社ではない。尚、教育訓練付与コースの場合は、企業単位。登記上の住所のある雇用保険適用事業所を”主たる”事業所として一括申請する形となる。

契約期間

契約期間が1年を超えてはダメだというわけではないが、助成金は1年までしかでない。3年契約の場合は、その金額の3分の1の金額がベースになる。尚、1年契約を更新した場合2年目はどうなるかというと、改めて「計画届」を提出することになる。(事業主向けQ&Aより)

事業展開等リスキリングコースの「定額制訓練」との違い

・事業展開、デジタル・DX化、カーボンニュートラルに該当するか
・解雇等があるか

ザックリいうと事業展開等リスキリングコースの方が助成率は高いが、訓練内容が上記の4つに該当しないといけない。

助成金額がいくらか

1人あたり〇円で、△か月の契約ならば簡単に計算できるが、みなし初日の場合とか、料金設定が細かい場合は、非常にややこしい。ガイドブック13ページだけでなく、支給申請書の様式第7-4号を見たほうが助成額の想定がしやすい。尚、訓練機関の料金設定の案内は非常に重要。ガイドブック13ページの支給対象外となる契約方法は確認した方がよい。より安価なプランを選べるのにあえて高額な金額で契約しても、サービス内容の違いとそれを選ぶ理由が合理的に説明できない限り、助成金額は安価な方での計算となる可能性が高い。

*1:(06015 の表1の「OFF-JT のうち助成対象とならないもの」及び表2の「OFF-JT のうち助成対象とならない教育訓練の実施方法」に該当する教育訓練をいう。以下 0600 において同じ。)

*2:(例えば、訓練受講者数の区分に応じて契約料が設定される場合において、契約した区分を超えた人数が「職業訓練実施計画届」の「受講(予定)者数」に記載されている場合は、整合性がとれていないものと判断される。)